「ああ、また寝ぼうか……」

深い溜息と共に、俺はベッドから這い出た。窓の外は明るい。時刻は午前８時。いつも通り、目覚ましが鳴った後２時間も寝すぎてしまったのだ。

この悪夢のような寝起きの悪さは、物心ついた時から俺を苦しめていた。目覚まし時計をいくつ壊したことか。スマホのアラーム音を変えたり、光で起こすタイプの目覚ましを買ったり、枕元にコーヒーをセットしたりと、あらゆる対策を試したが、効果はなかった。朝が来るのが怖くて、夜眠りにつくのも億劫になる。

「あーあ、こんな人生、もう嫌だ……」

自暴自棄になりながら、俺は枕を思い切り床に叩きつけた。すると、次の瞬間、視界が歪み、俺は見慣れない天井を見上げていた。

「……ここは？」

周囲を見渡すと、豪華な装飾が施された部屋が広がっている。ベッドの横には、見たこともない文字が書かれた分厚い本が置かれていた。

恐る恐る本を開くと、そこにはこう書かれていた。

『汝、早起きすぎる者よ。その苦しみ、我ら異世界にて癒やしを授けん』

どうやら俺は、寝起きの悪さを理由に異世界に召喚されたらしい。

そして、この世界の住人たちは皆、恐ろしいほど寝起きが良い。どんなに夜更かししても、朝はスッキリ目覚める。そんな彼らにとって、俺の寝起きの悪さは、羨望の的だった。

「あなたの寝起き、最高ですね！ぜひコツを教えてください！」

「お願いです！一度でいいから、あなたの寝坊する姿を見せてください！」

人々は俺の寝坊を、まるで貴重な芸術作品を見るかのように見つめた。特に、俺が寝言でアラームを止めたり、布団にくるまって二度寝を試みたりする姿は、彼らにとって至高のエンターテイメントだった。

貴族たちはこぞって私を邸宅に招き、寝坊を披露するよう懇願した。彼らは、私がベッドからなかなか起き上がれず、枕にしがみついている姿を見ては、涙を流して笑い、拍手喝采を送った。

ある日、俺は王宮に招待された。国王は、寝坊を目の当たりにすることを熱望しており、国を挙げて歓迎の準備を進めていたという。寝坊のデモンストレーションの後、国王は感動のあまり、私に「寝坊伯爵」の称号と莫大な褒美を与えた。

こうして俺は、異世界で「寝坊の達人」として崇められるようになった。寝坊するたびに、人々は歓喜し、俺に感謝の言葉を述べた。中には、俺の寝汗を染み込ませたハンカチを幸運のお守りとして持ち歩く者もいた。

そして、俺はついに気づいた。

「……もしかして、俺、ずっと間違ってた？」

俺は、寝起きの悪さを呪っていた。でも、それはもしかしたら、才能だったのかもしれない。

この世界に来て、初めて俺は、自分の価値を知った。そして、心からリラックスして眠りにつけるようになった。

「ああ、やっとわかった。俺は、寝坊するために生まれてきたんだ」

深い眠りに落ちる時、俺は心から幸せを感じていた。

そして、次の朝、いつもより少しだけ早く目が覚めた。窓の外には、朝日が昇り始めていた。

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