第2話 不穏な影
―
―それはそうよ。私たちはこの子のために出来ることをさせてあげるからね。
―
―
私は有名会社の父の娘であるというだけで、勝手に期待する。そんな両親も「私のため」と言ってやりたくもないことを色々押し付けてくる。
勉強やスポーツ、交友関係、礼儀作法etc…。
次第に期待の目は両親どころか友人、先生、親戚と広がっていき、気づかないところで私の重荷になっていた。
『かわいそうに……。勝手に期待されて自分のしたいことを決められて』
「誰?」
『ごきげんよう、
『私は アリス』
◇
「むにゃ?」
山から見える海を眺めながら
腕時計で時間を確認すると
『そんなに気になるなら探しに行けばいいのに……』
「私の心の声勝手に聞かないでくれる?」
声の主は私のカバンから顔を覗かせていた。
名前はアリス。私と同じ名前を持つ生きた人形。
金色のロングヘアー、赤のメイド服とヘアドレス、そして何より人形とはいえ生気を感じられない濁った赤い目が特徴的だ。
『仕方ないよ。貴女の想いが強すぎて嫌でも伝わってくるんだから』
「というか勝手にカバンに入ってこないでよ」
『ダメよ。貴女何する気なのか分からないもの……。それにこれは一体なに?』
アリスはカバンに潜ると、金色の紙に包まれたお菓子を取り出した。
「それウィスキーボンボンよ。フランスのお菓子で―」
『それぐらい知ってるわよ! 貴女これを彼に食べさせる気でしょ?』
「違う。一緒に食べるの」
『なおさらダメ!! これは没収!!』
「えぇ……」
アリスはお菓子と一緒にカバンの中に潜った。
アリスは人形とはいえ、動くのはもちろん、今のように喋ったりできる。それも私以外に見えないところでだが。
アリスと出会ったのは2年生の頃。
いつからいたのかは覚えていない。気がついたら私の部屋にいた。最初は人形らしく今のように話すことも動くこともなく不気味でしかなかった。しかし、3年になったある日自ら名乗り、アリスの本当の持ち主を一緒に探すことを条件に、相談やアドバイス、時にはクラスメートの秘密を手に入れている。もちろん
『それより彼を探しに行きましょう』
「そうね……」
カバンを背負って集合場所である頂上へ戻った。
◇
『ちょっとストップ』
真っ直ぐな道を歩いていき、ようやく頂上が見えてきた辺りでアリスがストップをかける。
「どうしたの?」
『彼の気配を感じる。それと……』
……誰かといるの?
けど、それ故に
さらに以前一年の時から一緒だった女子の告白を断ったことが原因でいじめに発展しそうになった。あの時アリスが詳細を知らせてくれなかったら大変なことになっていた……。まあ、そのおかげで
それにしても、一人で来てっていつも言っているのにどうしてこんな時に誰かといるのよ? 後でお説教ね。
「どこなの?」
『右側』
言われた方を見ると「……はこ…ら→」とほとんどかすれて読めない立て札が張ってあった。近づいてみると、急な階段が下へと続いていた。
「あちゃー、こんな所があったなんて気がつかなかった……」
『とにかく行きましょう』
段差は大人が登り降りするためか、かなり高く作られていた。スキップするように飛びながら降りていくと、見覚えのあるショートの黒髪の少年を見つけた。どうやら他には誰もいないようでホッとした。
「おー、ここにいたんだ
「中々来ないと思って探したら、まさかこんな所にいたなんてね……」
「え、場所違った?」
「あー、うん。でも気にしなくていいよ。私の伝え方が悪かったし」
「そっか。それでここで何をするの?」
「それはね……」
ーピーッ!!
先生の笛が鳴り響いた。どうやら時間切れだ……。
「あーあ……。せっかく珍しいお菓子を持ってきたのに……」
「お菓子?」
「外国からのお菓子を
まあ、アリスに取り上げられたから無理だけど……。
「そっか……あ、そうだレイ―」
「どうかした?」
「あ……ううん、なんでもないよ……」
「それとそこの銀紙ちゃんと拾いなさいね。ポイ捨ては良くないよ」
「え、うん……」
降りた階段を早歩きで登り、
「さっき何か言いかけたみたいだけど……何だったの?」
『変ね……、微かに誰かの気配を感じたんだけど……妙に懐かしい感覚が……』
「懐かしい? もしかしてアリスの持ち主じゃ?」
『…………』
アリスはそれから何も言わなくなってしまった。
アリスは今までこうやって誰かと協力しながらずっと探しているらしい。そこまでして探すのは一体どうしてか聞いてみたが「大切な人だから」としか答えてくれなかった。
「いつか会える日が来る。希望は捨てちゃ駄目よ」
『うん……』
◇
「今日は疲れたけど楽しかったね」
「うん…………」
「今度またお菓子を持ってくるからさ、楽しみにね」
「うん…………」
放課後、私たちはいつも
「
「え?」
「さっきから黙ってばかりで、何か嫌なことでもあったの?」
「……実は……」
「何か言いたくないことでもあるの?」
「そうじゃないよ……
「気にしてないって言ったじゃん。ずっとそんなこと考えていたの?」
「うん……
「怒る? そんなの全然無いからいいって……」
結局、私たちが別れるまで
別れた時、
姿が見えなくなるとアリスはカバンからまた出てきた。
『彼、何か隠してた』
「そうね……」
『それとね、山にいた時に感じた"気配"が
「ずっと……?」
『もしかしたら、それを隠すために嘘をついたかもしれないよ……』
確かに
『しばらく彼を見張りましょう』
「悪い奴じゃないよね?」
『それは無いわ』
また
『誰』なのか知らないけど、変なことしたらただじゃすまさないよ……!
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