理想の名前

 三十代の男二人がマンションの一室で話している。

「お前、もし自分で自分の名前を決められるとしたら、何にする?」

「そうだな……拳(こぶし)ひろしかな」

「え? なんでそんな名前?」

「まず、拳ってかっこいいじゃんか。それに韻を踏むのもかっこいいから、拳ひろし」

「いや、拳って単語はかっこいいけど、名字としてはダサいだろ。それに、韻を踏むのもかっこいいけど、名字と名前でするのはやっぱりダサい」

「何だよ。じゃあ、お前は? 理想の名前」

「俺? 俺は二階堂潤」

「ええ? 二階堂は確かにかっこいい名字だし、潤もまあわかる、けど、なぜか二階堂潤だとそんなでもないな」

「あ、お前、それを本物の二階堂潤さんが聞いたら怒るぞ」

「別に変だとは言ってないだろ。ただ、そこまででもないって話だよ」

「あ、あと、今ハーフの人たくさんいるけど、お前がハーフで漢字とカタカナの組み合わせの名前になれるんだったら、何がいい?」

「うーんと、グローバルひろしかな」

「名前でグローバル? そんでまたひろし? なぜに?」

「だって、グローバルはかっこいいだろ。それに、今言って気に入ったから、ひろし」

「もはやコメントのしようがないな」

「じゃあ、お前わい?」

「俺は、サーベルタイガーふさお」

「何だよ、それ!」

「何が、『何だ』だよ。サーベルタイガーってかっこいいだろうが」

「でも、ふさおが駄目。台なし」

 実はその部屋で重大犯罪が行われているとの情報があり、警察が傍受、つまり盗聴をしていた。

「……」

 二人の話を聞いていた警察官たちは、しばらく誰も口を開かなかったのだった。

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