第2話
セントラルとシガヒをつなぐ道は比較的安全である。王都の軍隊もときおり警備にあたってくれているためか悪人が蔓延ることもなく、せいぜい移動の邪魔をするのは野生のスライムくらいである。
「なるほど、こいつがスライムか……。たしかに意外となんとかなるもんだな」
王都を少し離れると、道の脇から水色や緑色、茶色のぶよぶよした塊が体当たりを仕掛けてくるようになった。しかし、一撃で私に致命傷を与えるような威力ではなく、むしろ私の身体にへばりついた状態から振り払ったり、体当たりしてくるところを叩き落としたりするだけでスライム側の体力が先に尽きるのだろう。ただの水のように溶けていってしまうのだ。だからこそ、私は油断していた。
「これなら存外、今後の旅路も楽勝かもな……ってうぉ!?」
シガヒの町まであと少しというところで、同時に2匹のスライムが私に体当たりをしてきた。2匹のタックルは私の両ひざ裏にヒットし、膝カックンの要領で私はその場に崩れ落ちてしまう。
「くっ、はな……れろ!」
体勢を崩し四つん這いになった私はそのまま右手をひざ裏に回し、張り付いたスライムを剥がそうとする。が、剝がれない。むしろ右手もスライムに飲み込まれて動かせなくなる。やむを得ないので地面についた左手と背筋で上体を起こしてから、左ひざのスライムを払おうとする。が、やはり払えない。
「こ、これはマズいな……」
結局、両の膝裏に手を固定されたまま道の脇で膝立ちをしている状態になってしまった。もしかして、ここでこのまま飢え死にか、あるいはこのスライムたちに殺されてしまうのだろうか。自身の旅の終わりがこのような形だったとはと絶望していると、頭にロエスの声が響く。
――こんなところでは、あなたは死にません。死なせません――
「何を気休めを……。今日だってここまで誰ともすれ違わなかったんだ。このまま誰にも気づかれずに私の命は終わるのだろう?」
――いいえ。私の加護を込めたリングがあります。彼らが満足すれば……あなたは無事、解放されるでしょう――
「満足だと? いったいどういう……っひゃん!」
ロエスの言葉に問いを投げかけようとしたとき、両ひざ裏のスライムたちが私の腿を登り始めた。その奇妙な感覚に思わず悲鳴が出る。
「んっ、やめろっ! 登ってくるな!!」
――そのスライムたちはあなたに求愛しているのです。今はただ、受け入れてください――
「はぁ!? おいっ、まさかこいつら……!」
そうこう言っている間にも2匹のスライムが私の腿の付け根まで登りつめる。
「ほ、ほんとに待ってっ! ……んひゃぁ!?」
私の言葉を聞くわけなどなく、スライムたちはボディスーツの隙間から私のパンティストッキングに侵入する。
「だ、だめだ! そんなとこにっ……入るなぁ!!」
侵入を許したため手の自由は利くようになったが、パンストの中でもぞもぞと動く2匹をなかなかうまく追い出せない。私のそんな抵抗をあざ笑うかのように、スライムたちはパンティストッキングの繊維と私の柔肌の間に入り込み、その身体を擦りつけ始める。
「あっ……やぁっ!」
スライムが動くたびにくすぐったさとも快感ともつかない刺激が私を襲う。その刺激のせいで思うように力が入らなくなり、なすすべなくパンストの中で動き回るスライムの感触を甘んじて受け入れる形となってしまう。
「ふぁっ! んっ……ぁ……!」
――受け入れてください。きっと気持ちよくなれますよ? それにあなたならすぐ、この2匹の愛に応えられます――
そんな私にロエスが追い打ちをかけるように囁く。
「こ、こんなものが愛なものか! んっ……はぁっ!」
彼女の言う愛が何を指すのか理解はできなかったが、こんな卑猥なモノを受け入れるわけにはいかない。その一心で私は身体をよじって抵抗を続ける。
「あぅっ……だ、だめだっ! それ以上は……!」
2匹のスライムが私のパンスト内で、私の身体の敏感な場所を重点的に擦り始める。
「はぁっ! ぁあんっ!」
抵抗したいのに、身体がいうことをきかない。今までこんな感覚は味わったことがなかった。もう限界だと感じたその時、私の中で何かが弾けた。そして、パンストの中をもぞもぞと動いていた2匹が動きを止めたかと思うと、私の中に熱いモノが吐き出されてゆくのを感じた。2匹の放った液体が私の膣内を満たしていく感覚に身をよじる。
――受け入れてください。これで、あなたは強くなりますよ――
ロエスがそう言ったのを最後に、私は意識を手放した。
――おめでとうございます! レベルアップです! ――
目を開けると、私は再び白い空間でロエスと対峙していた。初対面のときと異なる点があるとすれば、彼女のテンションが高めな点と、その彼女の横に謎のテキストボックスが浮いている点だろうか。
―― 改めまして、女神の間へようこそ。 ここではあなたの能力について確認したり、成長させたりすることができます――
ロエスが、兄やクラスメイトのやっているゲームみたいなことを言っている。
――まずコチラがあなたの能力値、ステータスです ――
そういって彼女は自身の横に浮いていた黒地に白い文字が書かれたテキストボックスを私の前に動かした。そこには表が示されており、いくつか項目と数字が並んでいた。
『レベル:18 HP:15 MP:0 ちから:15 まもり:15 はやさ:18 きようさ:18 みりょく:27』
――各ステータスは基本的に「1=1歳程度の能力」ですので、あなたの身体能力はこの世界だと15歳と同程度。身のこなしや器用さは実年齢同等で、魅力はすでにオトナ顔負けなのです――
魔王やモンスターのいる世界なので実年齢よりも身体能力が多少劣る分には頷かざるを得ない。しかし、その無駄に高い魅力は何なのだろうか、あらゆる意味で納得できない。その心を読んだのか、ロエスが説明を続ける。
――あなた自身の魅力も実年齢以上でした。そこに私の加護を加えてこのようになっています。これにより、余程のことがない限り道中の魔物はあなたを捕食対象などではなく、性的対象として迫ってくるでしょう――
「ふざけるな! 何が加護だ、あんな辱めを……」
――あなたの受ける恩恵は、あの行為そのものではありません……あなたは体内に注がれた精液1mLにつき1ポイント、ステータスを上げることが出来るのです――
そういってロエスは私の前に浮くテキストボックスを指す。
――まず、先程までの戦闘経験でレベルが1上がります。これによるステータス情報は培った経験と運によって決まります――
ロエスが言い終わると同時に、テキストボックスからファンファーレが鳴り響く。それに合わせて数字が変動した。
『レベル:19 HP:15 MP:0 ちから:16 まもり:15 はやさ:18 きようさ:18 みりょく:28』
――さらに、あなたは今回2匹のスライムから計4mLの精を注がれました。4ポイントをいずれかのステータスに振り分けることができます――
ロエスの声で、私は本当に魔物に犯されてしまったのだと実感させられる。未だ受け入れ難いほどの屈辱だ。しかも、レベルアップで「ちから」が1上がったといっても、15歳程度から16歳程度に変わったところで大した実感がある訳でもない。ステータスアップはそこまですぐに違いを体感できるようなものでもなさそうだ。私は半ば自暴自棄的に、ステータス表の見栄えを整えることにした。
『レベル:19 HP:15 MP:0 ちから:16 まもり:15 はやさ:20 きようさ:20 みりょく:28』
「ふんっ……これで、いいんだろ?」
――はい、これであなたは青年期の初級冒険者と同レベルの身のこなし、武器や道具の扱いが出来るでしょう。また、「きようさ」は性行為時の――
「う、うるさいっ! そんな器用さを発揮する機会に恵まれてたまるか!!」
叫ぶと同時に私の意見が再び薄れる。酸欠のためか、再び旅の世界に戻るためなのだろうか。そこまで考えたところで完全に私は意識を手放した。
「……ぇさん!お姉さん!大丈夫ですか!?」
ロエスのものではない声が聞こえてくる。声の元を確認しようと私が瞼を上げた先に広がっていたのは、忌まわしきスライムの記憶が蔓延る道の脇だった。そして、少年が1人。おそらく声の主だろう。
「よかったぁ。一応、回復魔法はかけましたが……痛いところはありませんか?」
彼の言うとおり、私の身体はまるで一晩休めたかのように癒えている。ここまで淫らな女神や魔物とのやり取りが続いていたので純粋な少年の優しさが身にしみる。
「あぁ。ありがとう、助かったよ。 私はサナ。君の名前は?」
身体を起こし少年の顔を見て礼を伝える。元いた世界だと小学生くらいだろうか、幼く可愛らしい顔をしているが大きな眼鏡をかけており、どこか知的な印象も受ける。
「ボクは、パペルと言います。魔王を倒すための修行をしていたらお姉さん、サナさんが倒れていて……」
「魔王を倒すため……ということは君が勇者か!」
「はは、自己推薦なんですけどね」
この世界では、10歳になる年に国王の前で魔王討伐の宣誓をすれば“勇気ある者”……勇者として扱われ旅に出られるそうだ。彼は恥ずかしそうに俯きながら語ってくれたが、その照れは自己推薦をしたという点によるものではなかった。
――サナさん、彼の視線を追ってみてください――
ロエスの声が脳に響き、無意識に従ってしまう。俯きながらも私と相対しているパペルの目元に注目すると、地面と私の胸元をチラチラと往復していた。
――勇者とはいえ、まだまだ可愛い男の子ですね。ホラ、あそこも主張していますよ――
いけないとは思いつつも、私の視線は彼の腰に向けられる。ロエスの指摘通り、小さなテントが張っていた。私が彼の視線と下半身を注視していることに気付いたのか、彼はさらに顔を赤くして俯いた。その羞恥に染まった表情を見ると、私の胸に何か温かいものが満ちていく。
「……ぼっ、ボクはもう行きますね!」
彼が私の脇を通り過ぎようとしたとき、私は無意識に彼を呼び止めていた。
「ま、待ってくれパペル君!」
「さ、サナさん……?」
足を止めて振り返ってくれる彼。私は彼を引き留めた後のことなど何も考えていなかった。
――君の昂りを、私が鎮めてやろうか?――
「君の昂りを、私が……って何を言わせるんだ!?」
「あ、あの……どうかしました、か?」
急に1人で騒ぎ出す私を見てパペルが不安そうに私を見つめる。
――え~、ひと思いにパクっとしちゃいましょうよ――
急に砕けた話し方をする女神に驚きつつ、一体何をパクっとするのだと一瞬考えたが、すぐ答えにたどり着いてしまい頭から邪念を振り払う。
「そっそうだパペル君! 私も助けられただけでは寝覚めが悪い。何かお返しをさせてくれ!」
「えぇっ! そんな、大丈夫ですよ!」
「いや、そうはいかない。何かないか? 私にできることがあれば何でもするぞ?」
「な、なんでも……!?」
――おぉ! いいですねサナさん積極的ですよ!――
ロエスに囃されてから自身の発言を顧みる。私はとんでもないことを言ってしまったのではないだろうか。しかし、ここまで言ってしまったからには後に引けない。私は半ば開き直りつつ彼の返答を待つ。
「じゃ、じゃあ……次、酒場でお会い出来たらボクのパーティに入ってください!」
少年の純真な気持ちと初心な精神に救われた。先ほど抱いた胸の温かみがさらに増していく。
「あ、あぁ! もちろんだ。それまでに私も強くなっておかないとな」
「本当ですか! ありがとうございます、ボクも強くなってみせます!」
そう言って、パペルは私に手を振って去っていく。その小さな背中が見えなくなるまで私も手を振り続けた。
その後、私がシガヒの町へ到着したのはすっかり日が暮れてからだった。
【今回のステータス変動】
・サナ
レベル:18→19 HP:15 MP:0 ちから:15→16 まもり:15
はやさ:18→20 きようさ:18→20 みりょく:27→28
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