転生担当がドスケベ女神なせいで、遊び人で最強を目指すことになりそうです。

生天目六歌

第1話

――あなたはこれから、長い長い夢の旅へ出発します――


目を開けると、全方位が白い世界に私は立っていた。目の前には白いローブを身にまとい、桃色の髪を伸ばした美しい女性が立っている。


――この旅は、魔王を倒すことで終わりを迎えることができるでしょう――


女性の声は私の耳から入るのではなく、直接脳に響くような感覚がして気持ちが悪い。


「いやに意識がはっきりした夢だな……。それに、魔王を倒す? そんな漫画やゲームのような話を……」


――あなたが呼ばれたのも魔王の陰謀でしょう。しかし、あなたは勇敢で正義感も強い――


幼いころ、兄のやっていたゲームのオープニングを横で観ていたことを思い出す。


「ははっ! まさか私に、魔王に対抗する勇者にでもなれと?」


――いえ、あなたはこれから"遊び人"として、世界に降り立ちます――


ゲームの世界に疎い私でも、話の流れがおかしいことは分かった。


「あ、遊び人……? なぜだ、遊んでいる場合ではないのではないか?」


――私が……見たいのです――


目の前の女性が頬を染め、ほんのり熱を帯びた視線をこちらに向ける。


――ザ・勇者な堅物美少女のあなたが徐々に淫らに堕ちていく過程を――


「ふ、ふざけるなっ! 私がそんなこと……っ!」


会って数分で、第一印象に美しい女性と思ってしまったことを後悔する。とんでもないことを言う女だ。


――もちろん、しなくても魔王を倒すことは可能だと思いますが、私は性愛の女神ロエス。あなたの旅が円滑に進むよう協力したいのです――


そう言って、自身を女神だと名乗った女が私に向かって手をかざす。一瞬光に包まれたかと思うと、先ほどまで身につけていた寝間着の感触が消えていた。


――それが、この世界でのあなたの姿です――


視界が戻り、私は自分の身体を確認する。


「なっ、なんだこの恰好はっ!? 旅に行く装備じゃないだろう!」


私が身につけていたのはお尻に丸い尻尾の飾りがついた、ビスチェのような肩出しのボディスーツだった。髪はいつの間にか普段結っているポニーテールになっており、頭上にはウサギの耳をかたどったヘアバンドが乗っている。首には蝶ネクタイ付きの付け襟、手元にはカフスともはや何のためかわからない装飾だ。そして下半身はパンスト、ハイヒールという今まで生きてきたなかでは考えられないレベルで破廉恥な恰好だった。


――ふふ、とても良くお似合いですよ。では仕上げに、こちらのリングをつけてください――


ロエスがそういうと、私の左手小指に銀色のリングが現れる。少しでも抵抗してやろうと指輪を外しにかかるが、びくともしない。


――いよいよ、夢の旅が始まります。道中も、お支えいたしますので――


「あっ、おい! 待てっ!!」


私の言葉を遮るように、ロエスが後光を放つ。私の視界が晴れるとそこはもう白い世界ではなかった。


「ここは……本当に私の部屋じゃないな」


ロエスの言っていたことは本当のようだ。目を覚ました場所は壁紙で覆われていた私の部屋ではなく、床も壁を木で作られている部屋だった。ここは上階なのだろうか、床下から賑やかな声が微かに聞こえる。


――そこは、王都セントラルの宿屋です。1階の酒場に降りて、勇者や魔王について聞いてみましょう――


どこからともなくロエスの声が響いてくる。いざ1人で全く知らない地に飛ばされるとさすがに緊張や不安は抱くようで、悔しいがロエスの声でもすでに知っているだけに今は少し不安が和らぐ。が、それをロエスに悟られるのは癪なので先ほどと同じトーンを心がけて返答する。


「こ、この恰好で酒場に行けだと!? わ、私は……ち、痴女じゃないんだぞ!」


――ですが、そこを出ないと何も進みませんよ? それに、女性は見られて美しくなると言うではないですか――


彼女の発言の後半部分はよく分からないが前半部分については否定できない。とにもかくにも、この部屋を出て勇者あるいは魔王について情報を集めなくてはならないのだ。


「わ、わかった。店主は1階のどこにいるんだ?」


――入口正面のカウンターにいる女性が店主、マスターです――


私は無駄なくマスターに近づき情報を聞き出し、この建物を脱出することに決めた。意を決して階段を降りると、ロエスの言葉どおりカウンターの奥にエプロン姿の女性が1人立っていた。ちょうど注文も途切れているのか、頬杖をついて店内の喧騒を眺めている。


「す、すまないマスター。1つお聞きしたいのだが、よろしいだろうか?」

「あら、サナちゃん。もう目覚めたのね」


すでに私のことを認知しているようで驚いたが、今はそれより件の情報だ。カウンター越しに話しかけているせいでほとんど露出されている背中とパンストでしか守れていないお尻が店内に向けられており、視線が集まり始めているのを感じる。


「魔王討伐の勇者についてなんだが……」

「あー、勇者ちゃん達ね。今年は3人旅立ったそうよ。まだみんな金欠で、小銭を稼ぐのと実戦経験を積むのを兼ねてそれぞれ単身で隣町のシガヒに向かっていったわ」


どうやらすでにこの世界には勇者がおり、魔王を倒すべく冒険の旅を始めているようだ。しかも複数人。となれば彼らに追いついて加勢し、迅速に魔王討伐に向かうべきだろう。


「そうか、ありがとう。では私もそのシガヒという町に向かうことにしよう」

「サナちゃん1人で大丈夫? 護衛とか雇わなくて平気?」


隣町に行く難しさも護衛にまつわる相場も何一つ分からないが、いずれにせよ今の私はこの身一つで無一文だ。


「まぁスライムくらいならパンチやキックでも倒せるし、大丈夫か。でも無理はしないようにね」


シガヒの町でもマスターのご姉妹が酒場を開いているとのことで、着いた後はそこでまた情報を集めればよいと助言をもらい、私は酒場を後にした。

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