第43話「葉名と葉緩」

***


次に目を開くと、桐人と柚が心配そうにこちらを見ていた。


葉名は腕に抱く子を抱きしめなおし、変化した視界にあたりを見渡す。


(今のは一体……)


「葉名、大丈夫ですか?」


柚の声かけに、葉名はやさしさを体感する。


自然とあがっていく口角に葉名は自信を身に着けていた。


「はい、大丈夫です」


葉名にとって蒼依は心から愛した人。

そして桐人と柚は、心から尽くしたい人となっていた。


忠誠心をもった葉名は子を抱きしめながら二人に頭を垂れた。


「この葉名、生涯をかけお二方に忠誠を誓うとお約束致します。代々とお二方の魂に寄り添い、お守り致します」

「……許す。頼んだぞ、葉名」

「ぜひ話し相手にもなってくださいね、葉名」

「はい!」


これが四ツ井のはじまり。

そして魂の主として縁を結んだ二人との出会いであった。



***



いつの間にか立っているのは水の上。

いくつもの波紋が広がり、葉緩はその一つの上に立っていた。


『葉緩』

『あなた、私の……』


そよ風のような声に振り向くと、穏やかに微笑む葉名がいた。


すぐにこれは葉緩の潜在意識だと気づき、駆けだして手を伸ばす。


指先が触れ合った瞬間、波紋が広がって葉緩の広げるものと交差する。


重なる姿に葉緩はもう葉名を思い出していた。


「私に番の匂いがわからないのは、あなたが折ったからだったんですね」


その言葉に女はもの切なくうなずいた。


「うん。でも折ってよかったと思ってる」


ふわりと花開くように笑い、葉緩の手を両手で包み込む。


あまりに同じ温度で、触れていると感じさせないほどに馴染んだことに葉緩は目を見開いた。


「私は幸せだったから。蒼依くんに愛されて、本当に幸せだったの」


見た目も性格も違う。

だけど二人は同じ存在だと認識できる震えがあった。


「今、彼はあなたを求めてやってきた。彼がどんな匂いを感じているかはわからないけど、あなたを求めている」


物思いに沈んだ微笑みを浮かべ、まつ毛を伏せる。


「私は怯えてばかりだった。でも……あなたは違うでしょう?」



怯えてばかりで、なにごとも悲観的に考えがちだった葉名。


蒼依に手を引かれなければ伸ばす勇気もなかった。


悲しみに縛られた葉名が願ったのは”蒼依を笑顔に出来る楽しく明るい人になること”。


そして守られてばかりではない、共に戦うことの出来る強さだった。


「あなたはあなたで望む幸せを掴んで。葉緩の願いは、大切な人たちの幸せでしょう?」


「……そうですね。私はあなたの願いもあり、このような性格になりましたから」


葉名の手を握り返し、ニッと口角をあげる。


自信に満ち溢れた藤の瞳が葉名を見つめ返した。


「私は欲しいものには躊躇しません! 葵斗くんも、主様と姫もみんな、私の大好きな人たちです!」


自分の幸せも拒絶しない。

葉緩の願いは桐哉と柚姫が結ばれることだったが、二人もまた葉緩の幸せを願ってくれている。


それは桐人と柚だった頃から葉名を大切に思ってくれているからだ。


二人が望むのならば葉緩は自分の幸せにも手を伸ばす。


そして葉緩と共に幸せになることを望んでくれる葵斗が現代にもいてくれるから。


葉緩はこの胸の高鳴りに身をゆだねよう。


――今度は、葉緩が葵斗を幸せに……。


いや、共に幸せになる番である。


「みんなで幸せになれば何も怖くないよ。たくさん守ってもらったから。だから私は強いのです! みんなの想いが今の私なのです!」


葉緩の言葉を受け、葉名は涙を流し、笑った。


「もう大丈夫ね。愛する彼と私の子」


「生きてくれてありがとう! 私、絶対に幸せになります!」


大切な人の幸せを願い、行動する。

それが葉緩の生き方。


葉緩を大切に想ってくれる相手ならば、その幸せの中に葉緩の幸せもある。


これは一人だけの幸せではないから。


こうして生きているのは願いが重なって今、葉緩を形作っているのだから。

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