第43話「新たな運命。救われた命」
「蒼依くんと結ばれぬ運命などいりません。……もっと早くこうすればよかった」
折った枝と蒼依の髪を重ね、目を閉じる。
「連理の枝よ、どうか彼の魂をお守りください。私はこの地を去ります。どうか、どうか彼をお救いください」
番はいらない。
運命の赤い糸は葉名に不要。
願うは、たった一人の魂の救いのみ。
「さよなら、私の光」
――松明を持った里の者が駆け付けたとき、葉名は里から抜け出しており、二度と戻ることはなかった。
***
里から逃げ、あてもなく彷徨いたどり着いたのが海だった。
幾度も押し寄せる波を見て、葉名は青い光を見る。
「ふしぎですね。水がどこまでも続いております」
小さな巾着袋に入れた蒼依の遺髪を指で撫でる。
帯には連理の枝をさし、それが葉名にとっての戒めとなっていた。
蒼依と見てみたいと願っていた海に目を細め、焼ける喉から息を吐いた。
気が抜けたのか、ぐうぅと腹が鳴り帯の上からお腹を撫でる。
(最近、ろくに食事もとれておりません。それにやたらとムカムカします)
当然だ、自分に腹立たずにはいられないのだから。
目まいがする。
吐き気がする。
「うっ……これは本当に」
キモチワルイと立っていられなくなり、葉名はその場に膝をついた。
砂浜に手をつき、ダラダラと流れる汗と震える状況に落ち着こうと深呼吸に息を吸い込む。
だが上手く吐き出すことが出来ず、だんだんと空気の通る音が短く鳴りだした。
気が遠くなりそうな微熱にお腹を押さえていると、前方から馬の鳴き声がした。
侍の男性と、幾重の着物をまとう女性が馬から降りて葉名のもとへ駆けよってくる。
「君、大丈夫か?」
「お腹が……」
「え、ええ!?」
声をかけた男性が慌てだし、どうしたものかと手をさ迷わせる。
そんな男を見て女が表情険しくして重たい着物を持ち上げて男性のあとに続いた。
困惑する男を突き飛ばし、女は葉名の背をさすりだす。
「大丈夫ですよ。落ちついて、深呼吸をしましょうね」
額ににじむ汗を女性が清い布で拭ってくれる。
返事も出来ずに胸を起伏させていると、女はおろおろする男を鋭く睨みつけた。
「桐人様、何をボサっとしているのです!」
「お、お柚……?」
「お腹にお子がおられるかもしれません」
「なんと!? 妊婦なのか!? だが腹が平たいではないか」
「初期は見ただけでわかりませぬ! ……とても弱っておられます。早くお医者様のところへ運び、安静にしていただかなくては」
女性の肩にもたれかかり、ぜぇぜぇしているとそっと背中を撫でられる。
視界がにじむなか、決死に鈴の音を震わす女性の輝きに目を奪われた。
「桐人様! 早く動いてくださいな!」
「は、はいっ!!」
女に叱られ、桐人は医者を呼びに走っていく。
「こんなに弱られて……。大丈夫ですからね。すぐお医者様連れてきます。お水、飲めますか?」
うなずくだけで精いっぱいだ。
女性は水袋を取り出して、ゆっくりと葉名にのませていく。
水が体内にとりこまれ、葉名はようやく息をついて目を閉じた。
蒼依を失い、孤独にさ迷っていた葉名を助けてくれたのは一国の城主とその奥方だった。
母子ともに危険な状況だったが、二人に救われ後に葉名は城の部屋で赤子を出産した。
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