第27話「嫌なら抵抗して」
「あれー? 葉緩ちゃんどこに行ったのかな?」
柚姫は落ち込んでいるであろう葉緩を探すも姿を見つけることが出来ない。
まばたきを繰り返していると、桐哉が柚姫に気付いて近寄ってくる。
「徳山さん、どうしたの?」
「葉緩ちゃんの姿が見当たらなくて」
「またか。よくいなくなるよなぁ。中学の時から急にいなくなるんだよ」
長く付き合っていると葉緩の奇行にも慣れるというもの。
桐哉は大して心配をしていなかったが、それを見て柚姫は口をとがらせて視線をそらす。
「二人って仲良しだよね。……いいなぁ、あたしももっと葉緩ちゃんのこと知りたいな」
葉緩を大切に思う柚姫に、桐哉もまたムッとする。
「徳山さんって葉緩のこと本当に好きだよね。……ちょっと妬ける」
恥ずかしがりやの桐哉にはやきもちを焼くことさえハードルが高い。
はっきりと告げることも出来ず、誤魔化しに走ってしまった。
しかし柚姫にとっては直球の言葉だったようで、途端に真っ赤になって焦って苦笑いをする。
「え、えぇー? 何言ってるの? 桐哉くんって本当に言葉上手なんだから」
裏返った声でさらりとかわそうとする柚姫に桐哉は目元を赤くする。
「オレは本当に」
「……体育館、行こ? 早く行かないと怒られちゃう。緊急で全校集会ってなんだろうね?」
ひらりと笑い、後ろ髪を引かれながらも走って、柚姫は廊下の列に混じる。
その後ろ姿に桐哉はキュッと手を握りしめ、眉をひそめて首を横に振った。
「葵斗みたいに踏み出せない。情けないな。葵斗はカッコいいし、なんか……」
その先は言葉を飲み込んだ。
どれだけ周りにかっこいいと騒がれようとも、桐哉は葵斗に劣等感を抱いているようだ。
気持ちを誤魔化してばかりだと、桐哉はたまにぼやいてため息を吐いていた。
悔しさに目をつむり、教室から出ていく。
やがて全員が体育館へと向かい、誰もいなくなった教室に葉緩はひょっこりと姿を出す。
お得意の壁と化して隠れていたが、桐哉も柚姫もいなくなり壁布をはがすと布を握りしめる。
不安定な足元を見下ろし、いつものように気持ちが上がらないと唾を飲み込んだ。
「……お役目に集中しなくては。二人が一緒にいるとき、私は隠れるのが筋ですから」
「葉緩」
「……っ! 葵斗くん……」
顔をあげるとこちらを心配そうに見つめる葵斗が立っていた。
いつも葉緩に気付かれずに目の前に立つので、異常なほどに心がかき乱される。
沙知には強く出たが、いざ葵斗を前にするとうまく立ち回れない。
何を口にすればよいのか、どんな表情をしていればいいのか。
意識すればするほど、葵斗の瞳に映る自分が気になって胸が焼けてしまいそうだった。
「何かあった?」
「別に、何も……」
「葉緩にとって俺は迷惑?」
「……! 迷惑とかそういうわけでは……」
可愛げのないに加え、ハッキリとしない返答だ。
柚姫のように乙女として可憐に腹を立てることも出来ない。
どうして桐哉と柚姫は互いに恋慕して、想いを秘めて後ろ姿を見つめるばかりなのだろう。
ゆっくりと近づいていく恋愛に対し、葵斗は距離を詰めるのが早い。
あまりにまっすぐで迷いがない愛情はどこからくるのだろう。
どうして葉緩を求めてくるのか、モヤモヤした気持ちに葵斗を直視できなかった。
(ドキドキする。痛いの。……ダメだって思ってしまう)
それは何故?
ダメだと思う恋愛って、何?
海の色が気になるくせに、また俯いてしまう。
素直になる方法がわからずに逃げ惑う頬は葵斗によって上向きにされる。
「俺は葉緩が好きだよ。だから嫌なら俺の枝を折って」
「……枝?」
「ようやく葉緩に伸びた枝だけど、葉緩が嫌なら折ってほしい。そうすれば……諦められるのかもしれない」
(枝ってなに? 折ったら諦められるって?)
何も言葉にならない。
こうも切実な葵斗にいったい何を口にすればいいのか。
一体どうなりたいのかも明確でないため、この恋を進めたいのか終わらせたいのか答えがなかった。
「葉緩は折ってるからね。俺だけが葉緩に伸びてるんだろうけど。だったら葉緩はどこに伸びてるの?」
「あ……」
「俺以外に伸びてるんだとしたら許せないんだけど。ようやく葉緩に伸びてくれたのに」
「まって……」
「嫌なら抵抗して」
――飲み込まれる。
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