第26話「弟にからかわれる姉」

「葉緩? どうしたんだ?」


翌日、いつものように絢葉と並んで座って宗芭と向き合う。


渋いと顔をしぼめた葉緩に宗芭は戸惑いながらも問いかけた。


「……その、父上は何故母上と夫婦に?」


「……! 急にどうした!? 今まで全く関心がなかったではないか」


冗談だろうと宗芭はギョッとするも、すぐに葉緩の真剣さが伝わったのかパッと目を反らす。


宗芭の態度に葉緩は突っ込みすぎたと青ざめるも、知りたいという気持ちが勝ってしまう。


葉緩だってもう年頃で、昔で言えば結婚していてもおかしくない。


今までが自分の恋愛に興味がなさすぎたと言っても過言ではない。


少しばかり恋愛事には怖いと思うほど、あえて見ないようにしていた気もした。


盲目に、主への忠誠心だけが葉緩を生かしていた。


番だと名乗る相手が現れた今こそ、生き方を見直す時期なのかもしれない。


物思いに沈んでため息をついた。


「父上は……父上の主様と母上、どう思っていらっしゃるのですか?」


「そうだな……。主も母上も一般の人だった。二人とも比べられないくらい大切な人だ」


「……その、匂いというものを」


“匂い”、その単語に宗芭は膝を崩して畳に手をついた。


「お前、まさか出会ったのか!? どこの……!」


「姉上、これを」


動揺した宗芭をさえぎって絢葉が懐から一枚の紙を取り出す。


それを首をかしげながら受け取り、紙を広げると葉緩の目がカッと大きく開かれた。


「――これは!?」


「先にコピーをとってまいりました。安心して登校されてください」


「葉緩、それは何だ?」


「な、なんでもございません! 私、学校に行ってまいります!」


ダラダラと汗が滝のように流れる。


走りながら制服に着替える雑さに宗芭はため息をつく。


「絢葉、何を見せた」


「振り回される姉上は面白いでしょう?」


「絢葉! 帰ってきたら覚悟してくださいね!」


逃げ台詞として葉緩は絢葉を指さすと、サッと忍びの装束から制服に着替える。


宗芭の疑いの目にギクッと肩をすくませ、ぴゅーっと情けなく風を起こして家から飛び出していった。


(絢葉め。性格悪すぎです!)


絢葉はやたらと葉緩が焦る姿を見て楽しむ癖がある。


性根が悪いと葉緩が怒ったところでまったくダメージはなく、それどころか葉緩の弱みをちらつかせられていつも拳を震わせていた。


***


「四ツ井、補習な」


学校に到着し、さっそく昨日の数学のテストが返される。


やたらと採点結果が早く出たわけだが、告げられた言葉に葉緩はショックを隠せない。


(絢葉に渡された結果と同じ。がーん! つくづくバカにされている!)


「あと望月も。テスト、サボったから補習後、再テスト」


自席でうつ伏せに寝ようとしていた葵斗がむすっとして顔をあげる。


「めんどくさい。……でもまぁ、いっか」


「望月はもう少しやる気出そうなー。先生ちょっと寂しいぞー」


教師の言葉を無視し、葵斗はがっくりと落ち込む葉緩に目を向ける。


視線を感じて葉緩は身を固くして煙となってしぼんでいく。


「それとなー、この後緊急で全校集会があるから全員体育館に行ってくれ」


その言葉に教室内がざわつきだす。


だが教師の指示に従い、生徒たちはぞろぞろと教室を出て、廊下に整列していった。


柚姫が廊下に出るとあたりをキョロキョロして、こてっと首を傾げた。

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