第25話「弟にからかわれる姉」

葵斗が葉緩を好いてくれるならば、邪険に扱うのは無粋というもの。


桐哉と柚姫の想いを尊ぶのと同じように、葉緩は葉緩に向けられた想いを見つめてみたい。


(きっと、私の幸せもあっていいんだ)


藤に宿る信念は常に他者の幸せを願ってのもの。


そこに敵も味方も関係ない。

葉緩が優先したいのは、応援したい人の恋路を見守ること。


好意を邪険にするのは葉緩の信念に反することだと、佐和に責められたことでようやく腹をくくった。


「私は私の思うままに人を好きになりたいのです。だから葵斗くんを止めたいならば本人に言ってください」


警告を受けてどうするかは葵斗が決めること。

葵斗を好きになるかどうかもまた、葉緩が決めることだ。


佐和のいいなりにはならない。


「それでは、夕飯が待っておりますゆえ失礼致しまする!」

「まっ……! 待ちなさい! 裏切り者!」

「私は忍びとして優秀なので待ちませーん!」


お得意の俊足で去っていく。

もう怯えていられないと、月に向かって葉緩は強気に微笑んだ。


――恋は動き出す。いや、動かしてみようか。


さぁ、手折った枝はどこへ行く?



***



「葉緩? どうした?」


翌日、いつものように絢葉と並んで座って宗芭と向き合う。


強きに恋と向き合おうと決めたものの、わからないことが多いので渋い気持ちが残る。


一度悩めば解決するまで苦悶する……となれば、葉緩の目の下にクマが出来るのも必然であった。


「その、父上は何故母上と夫婦に?」


「……! 急にどうした!? 今まで全く関心がなかったではないか」


そのとおり、葉緩は自分事に興味がなかったので番を意識していなかった。


思わぬ質問に宗芭は一瞬冗談と受け止めるも、思い詰めた様子の葉緩に真剣さを察する。


突っ込みすぎた質問だったと葉緩は顔面蒼白になるも、親も理由があって結ばれたはずだと興味を抱く。親のことさえ、関心がなかった自身の愛想のなさを不気味に思った。


「父上は……父上の主様と母上、どう思っていらっしゃるのですか?」


価値観は人それぞれ。

だが迷いがうまれたとき、道のヒントになるとようやく気づいた。


宗芭は親であり、人生の先輩だと葉緩は忍びではなく、一個人として向き合おうとする。


見たこともない葉緩の顔に、宗芭は成長ととらえるべきか悩みつつ、ありのままを答えると決めた。


「そうだな……。主も母上も一般の人だった。二人とも比べられないくらい大切な人だ」

「……その、匂いというものを」


“匂い”、という単語に宗芭は膝を崩して畳に強く手をついた。


「お前、まさか出会ったのか!? どこの……!」

「姉上、これを」


動揺した宗芭をさえぎり、絢葉が懐から一枚の紙を取り出す。

大事な話の最中になんだと、葉緩は首を傾げながら受け取った。


中身を確認した瞬間、葉緩の目がカッと大きく開かれる。


「こ、これは!?」

「先にコピーをとってまいりました。安心して登校されてください」

「葉緩、それは何だ?」

「な、なんでもございません! 私、学校に行ってまいります!」


これは知られてはならない葉緩の事情。


宗芭の雷を想像し、葉緩は危機感をおぼえて拘束で忍び装束を制服に変える。


重い空気が一変、間抜けた状況に宗芭は咳ばらいをし、じろりと絢葉を尻目に捕らえた。


「絢葉、何を見せた」

「振り回される姉上は面白いでしょう?」


ニタリと笑ってネタバレをしようとする絢葉に、葉緩はタコのように真っ赤になって指をさす。


「絢葉! 帰ってきたら覚悟してくださいね!」


宗芭の疑いの目が直接向けられるより先に逃亡。

風の勢いにのって家から飛び出した。


絢葉の性格の悪さに葉緩は激高し、叫びたい気持ちのまま空に怒り散らした。


絢葉はやたらと葉緩が焦る姿を見て楽しむ癖がある。


弟なのだから姉を敬え! 可愛げがない!


だが勝ち目もなく、葉緩はいつも悔しいとキャンキャン吠えるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る