第13話「結構ディープな襲撃です!?」


柚姫が目を覚ますかどうかは置いて、ぴったりくっついた二人を見送るのもお役目だ。


二人だけの時間を他の者に邪魔はさせまいと、昇降口で恒例のように壁と一体化し待機する。


それは見事な擬態術であり、布を被れば見かけは完全にただの壁である。


(早く来ないかなー? 生徒玄関なら見落とすこともないはず)


ムフフと壁から声を漏らさないように下品に口角をあげながら、生徒たちが下校する姿を見送る。


来るべきときを心待ちにし、想像していれば時間はあっという間にたってしまう。


そして気づけば生徒もいなくなり、太陽も姿を隠した夜になっていた。


「……なぜ来ない」


そんな間抜けな事態があってたまるかと、壁に擬態したまま数時間。


いつまで待てばよいのかとすっかり機嫌を損ね、唇を尖らせていた。


(夜になったので帰りましょうか。はああぁ……)


二人を見逃すはずがないのになぜと、トホホと肩を落とし、壁の擬態を解こうとする。


その瞬間、廊下の向こう側からやけに大きく響く足音が聞こえ、息を引っ込める。


歩行の間隔は短い。小走りだろうか。


不思議な歩き方をする生徒だと考えていると、壁に影がかかって顔をあげる。


(いつのまに距離を詰めたのですか!? って、望月くん?)


またか、と思いながらも壁だからばれるはずもない。


だが今までの葵斗の行動を思い出せば油断ならないと気を引き締め、布越しに葵斗を睨みつける。


いつも壁ばかり見て、とんでもない壁フェチだと警戒心はむき出しだ。


(もう、また動けない! なんでこの人、気配がわからないの!?)


気配をよむことも慣れている。


嗅覚だって忍びとしてしっかりと嗅ぎ分けられるほどに敏感だ。


なのに葵斗にだけそれは効力をなくす。


「……そろそろ、直接触りたいな」


発言も意味がわからないと、引き気味に睨んでいると葵斗の手が伸びてきて、壁をトンと押す。


擬態とはいえ、身体の感触までは隠せないと、激しい動揺が鼓動を早めた。


「あっ……!」


これはとんでもない危機なのでは、と思う間もなく葵斗の指が布の端をつかむ。


布がはがれて姿が表に出てしまい、冷汗を流す葉緩と葵斗の視線が交差した。


だがそんな視線のやりとりよりも、葵斗の興味は別にあったようだ。


――はむっ。


「んっ……んんん!!?」


後頭部に手を回され、唇が直接重なっていた。

布越しの時と違い、ぬくもりをじかに感じて生々しい。


まるで噛みつかれるように重なった唇に葉緩は混乱し、目を回す。


――ドクン、ドクン。


(なにこれ、なにこれ!?)


潔癖に生きてきた葉緩には刺激が強すぎる。

唇から熱が広がって、力が入らなくなり膝が震えた。


葵斗が葉緩の腰に手を回して支え、ゆっくりと顔をあげると余裕めいたいたずらっ子の顔があった。


さすがの葉緩もこれは狙ってのことだと判断し、真っ赤になりながら葵斗の肩を叩いた。


「何なんですか!?」


「やっと反応してくれた」


にこっと笑う葵斗に、葉緩の怒りはヒートアップする。


「ふざけないでくださいよ! お、乙女の唇奪うとは酷いです! だいだい、どうして私に気づいて」


「匂いでわかるよ? 隠れてたの?」


「え……」


まさかの発言に葉緩の思考は停止する。


困惑する葉緩に葵斗は合点がいったようで顎に手をあてて頷きだす。


「そっか、だからこっち見てくれなかったんだ。納得した」


「ええっ!?」


「ね、葉緩。もう一回キスしていい?」


「ダメに決まって――」


カッとなったときにはすでに葵斗の手のひらで転がされる状態だ。


抱きしめられキスをされ、深く飲み込むような熱さに抵抗も出来なかった。


「ンンッ……はぁっ……!」


(やだ、クラクラする。心臓の音がうるさい。乱される。 ……コントロール出来ない)

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