第11話「なにがあっても姫ファーストです!」
(さみしい……ってなんでしょう。知ってるような、知らないような)
言葉を交わせずにいると、ついにクレアが苛立ちを爆発させる。
じれったいと目を鋭くさせ、床に手のひらをたたきつけた。
「この際だからアタシが聞いちゃうわ。 あんた、桐哉くんのこと好きなの?」
柚姫ではなく、葉緩への質問が飛んできてギョッと目を見開く。
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
「うそ! だって葉緩ちゃん、桐哉くんの前だともっと変になるもん!」
「へ、変……」
桐哉はあくまで葉緩の主、恋愛感情なんぞもってのほかだ。
ただの忠誠心による行動だったが、回答に不満を持つ柚姫がすかさず突っ込んだ。
目立たずに行動していたつもりだったため、柚姫の指摘に青ざめる。
鈍器で殴られたかのような衝撃に頭をふらふらさせていると、柚姫は葉緩の動揺を無視して話を続ける。
「誤魔化すの下手だよ。あたしが桐哉くん好きだから遠慮してたんだよね。ごめんね、ずっと辛い思いさせちゃったよね?」
とんでもない事態だと葉緩は身を乗り出し、柚姫の手を掴む。
(“私”が主様と姫の妨げになっていたとは!)
「違います! 私は心から姫と桐哉くんを応援してますので!」
「葉緩ちゃん、かわいいし。あたしだって、葉緩ちゃんなら応援するもん」
勘違いをした柚姫の暴走はとまらない。
「葉緩ちゃんは大事な友達だもん! 友達なら身を引くしちゃんと応援するもん! なのに葉緩ちゃんは何にも話してくれないんだあ!」
「……どうするのよ、これ」
一番困っているのはクレアだ。
あんなにも柚姫につられてフワフワしていたのに、水を被ったかのように冷静だ。
子供のようにわんわんと泣く柚姫に、葉緩はこれまでの選択を恥じる。
(忍びとしてなんてどうでもよかった。私がどうしたいかが大事だったのに)
本音を押し殺して、柚姫とどういう関係になりたかったかを考えないようにした。
下手なプライドがより柚姫を傷つけた。
大切なのは忍びであることより、柚姫との心の距離だったと苦々しく笑った。
「私は本当に姫のこと、応援しています。もちろん桐哉くんも大切な方です。二人のこと、同じくらい応援したいと思ってるんです」
「葉緩ちゃん……?」
「でももう一つ、ちゃんと伝えねばならないこともあったようです」
柚姫の前に膝をつき、手を伸ばして抱きしめる。
「私は姫の友達です。だから好きな人が桐哉くんであろうとなかろうと姫を応援しています」
忍びの葉緩ではなく、ただの葉緩として柚姫と向き合いたい。
これが今、葉緩が出来る素直な心の見せ方だった。
柚姫に接近したのは下心がきっかけだとしても、共に過ごし、笑いあったことで違った意味合いで特別な存在になった。
守るべきお姫様に加えて、葉緩の友人であり特別な人に変わっていた。
「姫の相手が桐哉くんだったらなお嬉しい。それだけですよ」
柚姫の両頬を包み、葉緩は精いっぱい笑おうとしたが、頬の筋肉が震えて器用にこなせない。
忍びとしても、友人としても、不安を抱かせたくないのにちっとも上手くいかないと喉がひりついた。
「誤解させちゃったならすみません。応援しすぎて挙動不審になってただけと思っていただけたら……」
「葉緩ちゃん!」
「わっ!?」
「あたしが一番好きなのは葉緩ちゃんだよ! 大大大好き!」
愛くるしい笑顔といっしょに柚姫が飛びつくように抱きついてきた。
ホッとする香りに葉緩は口元をゆるませてキュンキュンに身をよじる。
(はぅあ! 姫がかわいすぎる!!)
「私も姫が大好きです。 これからも仲良くしてください」
「うん!」
こんな甘えん坊な柚姫は貴重だと、調子に乗った葉緩は懐いたネコのように柚姫に擦り寄る。
「アタシはどうすればいいの……」
仲直りと呼ぶべきかどうなのか。
巻き込まれただけのクレアはあきれてため息をつくしかない。
もうどうにでもなれと脱力していたが、クレアの動向は葉緩にとって重要ではないとたんまり柚姫からご褒美を得ていた。
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