オキシジェン・マスクを奏でて
常日頃から金縛りにあっている私だが、最近新たな気づきがあった。
金縛りの最中は、顔の知らぬ人物がやって来て、私のことを素手かナイフで殺そうとし、この短い悪夢がが何度も何度も繰り返される——ここまでは既に判明していることである。先日、また金縛りにあった際、私は初めて悪夢を見なかった。
これよりも前に、まず、悪夢を受け入れてみる、つまり、悪夢に抵抗せずに殺されてみるのはどうかと考えた。いつもは抗ってどうにか叫び四肢をバタつかせて飛び起きる故、この悪夢の結末はついぞ分からぬものとなっている。もしかしたら誰かが仲裁に来てくれるかもしれないし、きちんと殺されて永遠に起きられないのかもしれない。恐怖はあれど、知らぬことが一番怖い、それが私の性分である。私は悪夢に挑むことにした。
悪夢が始まった時、私は意識だけで注意深く周りを観察した。いつもは人間が現れることに驚いて周りを見られないが、今日はこの結末を知るために、全てに気を配っておく必要がある。
瞼が重たくなり、全身が動かせなくなった時、私はあることに気づいた。まあ、よくよく考えなくとも分かることなのだが——呼吸だけは、いくらでもできる。大きく息を吸うのはもちろん、ギリギリ、美しい音ではないが口笛も吹ける。それをしばらく楽しんでいたが、待てども待てども悪夢はやってこない。部屋の扉付近は影、もしくは黒い濃霧のようにぼやけているが、そこから人が来ることはなかった。
誰も来ないのか、と痺れを切らした私は仕方なく四肢に力を込めて金縛りからの覚醒を試みた。楽に起きられると思ったが、そう上手くはいかず、またゾンビのように身体をゆっくりと歪に動かして意識を取り戻した。どうやら呼吸に意識を向けていれば、見知らぬ殺人鬼はやってこないようだ、つまり、悪夢にはならない。
金縛りの際に悪夢に遭わない方法は分かれど、この悪夢の結末は分からぬままであった。恐怖に身を投げるのは気が進まないが、仕方あるまい、また明日も不眠か、悪夢か。二つに怯えつつ夜を待つしかないのである。
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