血濡れの私と真白のトラウマ


 先に言っておこう、これは不眠の原因では無い、と。

 いつだって、私は私を守れない。

 私が抱えるたった一つのトラウマが、日々ゆっくりと私の首を絞めては意識を飛ばす直前で手を離し、その様を見て正義のように微笑む。


 学生時代に遡る。それは私にとっても、相手にとっても本当に単純なことであった。

 私が頑張ってやったことを、先生に侮辱され、鼻で笑われる。できたものを踏み躙られる。醜いと罵られる。頭自体が人より出来が悪いと教え込まれる。

 たった、それだけのことなのだ。もちろん立場上、指導として言わなければならないこともある。私が「頑張って」いたって、成果に繋がらなければ何か言わねばなるまい。きっと先生だって好きでいじめていたつもりなんて毛頭無い(と、思わせてもらう)だろうし、きっとこんなに昔のことなど忘れてしまっているだろう。まあつまり、これは正しい行いであったのだ。きっと。


 先生の徹底した「指導」のおかげで、私はここまでかなり真面目にやって来れたのだと思う。なぜなら、私の心には常に先生の化身——トラウマがいるからである。

 植え付けられたトラウマは、少しずつ心の中で大きくなり、次に自ら言葉を喋るようになった。そうして思考する頭を持ち——果てに、私の行動を常に見張り、時に口出しをするまで成長を遂げた。動き出したトラウマはもう誰にも止められない。私のそばを着いてまわっては目敏く指導を行う。そんな醜いものをどうする?早く破り捨ててしまえ、目が腐る。人がやったこととは思えないな、なあ、いっそ死んだ方が身のためじゃあないか?

 今日も今日とて指導と言う名の刃物で切り付けられ、熱した金属を押し当てられる。言葉の傷も刃物の傷も似たようなもので、鈍らな言葉ほど傷が膿んで痛い。鋭いものほど後から痛む。一つ違うとしたら、傷をつけた物を手入れしなくても、いつまでも変わらぬ殺傷力をもつことくらいだろうか。実は一度、そいつを残して空へ逃げた事があるが、次に目を覚ました時に見えたのは天国ではなく、病室で微笑む彼だった。あの時の絶望感たるや。

 私のトラウマは、今日も私を切りつけては指導の限りをつくしてくれる。ああ、ありがたや、ありがたや……

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