夏に猛りて育む青葉


 夏は良い。たとえ住宅街の真ん中、陽の当たることのない建物内にいたとて、クーラーもつけずにいれば、暑い、どうにかせにゃならん、と身体が勝手に動き出す。その時の、少し苛つきながらも欲を宿して身が走るあの感覚が、情熱だとか猛りだとかに似ているような気がして、私は他の季節には無い高揚感を覚えるのだ。

 歳を重ねるごとに段々と、事を急いては格好がつかないと思うようになった。人間として幾年も重ねたくせにみっともない、泰然自若とは老いた者にこそ与えられる称号であると私は厳しくそうして歳を重ねようと誓ったのだ。しかし同時に、自身が衝動に駆られたり憧憬に焚き付けられて動き出す事が少なくなったとも感じる。私は文を書く時に、原動力——言わば話のタネや書きたくなる気持ちがふっと湧いてくるのを待つのだが、何日も外に出ないとその源泉すらも枯れてしまう。


 夏は良い。人間を、ああもう、と一歩動き出させる熱を持っている。冬は寒くても、体を縮めて動かずにいれば動くよりもあたたかい。どうも紅葉狩りから帰って以降は、物事を先延ばしにしがちである。

 明日も暑い。明日は用事があるので、嫌でも陽に焼ける必要があるだろう。仕方ない、これも一興、いくつか本でも買って帰ろうか。日の下に居ればきっと、側を駆けていく若人が風を運んでくれることもあるだろう。彼らの一夏の思い出が、十月十日のプレゼントになるよう祈っている。サイダーで乾杯といこう。さあ、年少人口に、乾杯!

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