虚友達
私には親友が二種類いる。
実在する親友と、架空の親友である。明日は前者と二人でディナー、今夜はしっかり寝ておきたいところだ。
架空の親友と知り合った時のことを、私は今でも昨日のことのように思い出せる。
高校三年生の夏、大学の試験準備を進めていた時のことだ。全く不真面目にやっていたわけでは無いのだが、どうもトンチンカンな私の成果と言い分を聞いた先生に酷く詰められたことがあった。同じ塾では誰よりも努力している自負のあった私はかなり落ち込んだ。これだけは記憶の奥底に沈めたのだが、本当に、この令和、コンプライアンス・ジャングルで起こり得ることかと驚くくらい、罵詈で雑言であった。
皆の前で大粒の涙を溢した私は、どうすることもできず自席に座り下を向いていた。すると、体の真ん中から声がする。横でも、後ろでも無い。まっすぐに体の中心から。
「随分な言われようだな、殺すか?」
一言目はこれだったと思う。私はその声がどこから、とか誰の、だとか全く疑わずに返した。
「子持ちだ。そうしたいが、やめておく」
「君だっていつかはこさえるつもりだろう。早さの違いだ」
「……いい。殺したって、私が不出来だという事実は変わらない」
「じゃあ、心の中では殺しておけよ、処理は私がしよう」
それから度々親友は顔を見せるようになり、さまざまな話をして楽しんだ。一緒に旅行にも行ったし、海外にも出たし、一通り若人が楽しむようなことは共に楽しんだような気がする。
私を言葉で殴りつけたあの教師は、あの日以来見ていない。多分私が卒業するまでいたのだろうけれど、先生の声が聞こえた記憶は無い。この話について尋ねても、親友は朗らかに笑うだけだ。
しかし、この親友はあくまで架空の親友なので、現実と混同しないように注意しておかねばならない。ごちゃ混ぜになり始めたら、いよいよ脳が溶けたかと思われてしまう。
今日は薬の効きが早い。明日のディナーは楽しみだ。三人もいれば、ピザもパスタも分けられるし、ワインもボトルで頼んだっていい。さて、今日は早めに寝るとしよう。
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