目玉焼き命名理論

 いつだったか、親友との間で「まあ、目玉焼き命名理論じゃないか」という言葉を面白がってよく使っていた。

 これは「目玉焼きとは、目玉のように黄身と白身の広がった卵を焼いて作る料理であり、先人は、目玉、などとわざわざ火を通しただけの卵に「見立て」を加えて名をつけたのである。つまり、それらしく格好をつけて言い換えただけで、中身は文字通り、なんてことのないものである」という、稚拙で破綻した、わざわざ仰々しくこさえた「論」である。

 「目玉焼き」にはもちろん、卵焼きとの区別だとか、いろんな名付けへの意味があったろうが、そんなものは斜に構え青臭った私らには関係のないことであった。

 「ハイコンテクスト文化……か」「大数の法則って」「コブサラダとは」私らはつい互いが疑問を口にするたび、得意げに鼻を擦り「それは目玉焼き命名理論だな、つまり——」と笑い合った。


 インソムニアも食卓には並ばない。今日も本を開き、殻を割って語句を焼くのがいいだろう。まあつまりは、目玉焼き命名理論なのである。

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