第38話「月光と閃光」
月を背に浮かぶは
「全身全霊でキミを超える為――もう一本使わせて貰うヨ」
敵に正常な思考能力など無い事を知りながら、チャオは悪戯に瓶を見せつけその中身を飲み干す――。
「お姉チャン!!!!」
「――ウッ……!!!!」
筋肉の躍動、視えざる魔力の
「ア……カハッ……!」
「シャオ!!!」
「ハア、ハア……不味い、もう2本目ヨ……!」
「まさかあの大臣が “
「さあ――来いヨ……!!!」
再び発した光の世界は、国を白夜に塗り替える。
「うう……うあああ!!!!」
圧倒的な神の気に触れた悪魔は、かつてない程に昂っていた。そこに細かな辻褄など無い。ただ敵を喰らう、喰らい、喰らい、喰らい尽くす、〈暴食の悪魔〉の名のもとに――。
「ワタシは誰よりも速く! 強い!! 強いんだァ!!!」
「フンッ……!!! フッ、フッ……!!! ……ハア――!!!」
静かに敵を抑え込む辺りの光と、その全てを可動域とし飛び回るチャオ自身の体術。完全に神の領域へ踏み込んだ天術使を相手に、ただ狂い来る青年は利を取れない。
「ワタシが! 王なんだ!! ワタシが!!! 神なんだ!!!!」
しかしチャオも胸中穏やかでは無い。傷付けても傷付けても瞬時に再生を得る悪魔を相手に、攻め方を迷っているのも事実。
「こうなったら存在ごと掻き消してやるヨ……!!!」
白き光を両手の内に圧縮し始めるチャオ。瞬間、白夜は僅かに正常な夜空を取り戻す。
「夜を昼に変える程の光を全てキミにぶつける……それがレイン・ロズハーツ、キミに対するワタシの執念だ!!!」
「駄目、いくら悪魔の回復力があっても原型を消されたら……!」
「ううう……うあああ!!!」
――その時、残酷な悪魔の耳奥へ馴染み深い声が届く。
(スゥゥゥゥ……――)
「――レイィィイン!!!!」
(――オル……ビアナ……?)
「 “ 神眼の ” ……!! 本当に眼障りだヨ、キミは!!! その素晴らしい眼にしかと焼き付けなヨ!!! キミのお友達が、神の前に消える瞬間を――!!!」
「レイィイン!!!! 悪魔なんかに負けないでェ!!!!」
(これは――ソフィア……! そうだ、今俺は――)
人々の叫びは威光に呑まれるのか――天使が結んだ両手を徐々に開けば、閉ざされた閃きは
「終わりだヨ、レイン・ロズハーツ――!!!!」
――その瞬きを遮ったのは、帰還せし勇者の声。
「――悪い、遅れた!」
「!!!」
「「――レイン!!!」」
邪気を晴らしたレインは強かに右手を前へ伸ばす――伝播した破壊力は辺りを支配する眩き威光を硝子の如く崩れ落とし、割れた空白の向こうの月夜を取り戻した。
「ッ……!!! まさか、コノ短時間で……!」
「ああ、取り戻したよ――俺自身をな!!!」
遂にハットベルの覚醒を保持したまま、レインは主導権を勝ち取ったのであった。
「驚いたヨ……いやはや、驚かされてばかりだヨ、レイン・ロズハーツ! ケドもう遅いヨ、一度始まった覚醒を止めることは出来ない……超常的な回復と一時的な強化、ソレは緩やかに減速を始め気絶を
「アンタが強くなる前に一瞬感じた薬の匂い――シノとチノと同じだ。アンタが
「ソノ通りだとも。精々楽しもうじゃあないか、この死合を、キミかワタシかが尽きるまで……!!!」
「さっきみたいに行くと思ってるなら
「?!」
「やっぱり
「如何にもだヨ」
「俺の体が奪われてる間、アンタの “ 光 ” に対する
「ソコに “ 光 ” があったコトに気付かなかった……『無知故に理解を超えることもある』、か――で、念願叶って朝を壊すかネ?」
「壊さねえさ。アンタを倒して、必ず迎える為にな!」
「フフッ、それでこそワが覇道の軌跡の1ページとなる男ヨ――来い!!!」
「行くぜ……チャオ・メイチャン!!!」
透かさず繰り出される無慈悲な光の数々を躱し、 “
「確かに光の雨だこりゃ……でもよ――!!!」
急接近、それを振り払わんと横殴りに繰り出される光線を飛び越え、空へ浮いた不自由な時間を貫かんとする決死の瞬きを壊し――。
「『光より早く』――届いたぜ、チャオ・メイチャン!!!」
「ッ!!! レイン・ロズハーツ!!!!」
背から光へ融けてゆくチャオを逃がすまいと全ての力を乗せた拳を今、放つ――。
(――何て奴だヨ、キミは。こうまでしても勝てないなんて……)
自身が光と化すより速く眼前に繰り出された破壊の拳に、チャオは祈りを捨てた。しかしその拳は緩やかに減速を始め――空振ったかと思えば、実体を捨てる事を諦めたチャオの体へレインはもつれ込む。
「――うおっとっと?! ……ハハッ。時間切れ、か……」
覚醒は敵を仕留める寸前に切れ、レインはチャオに抱えられたまま気を失ってしまった。
「……全く、こんな高いトコで。しかも、敵の腕の中だって言うのに――キミは、そんな穏やかな顔で眠るんだネ……」
そんな “ 時間切れ ” はほぼ同時にチャオにも訪れていた。己を昂らせていた
――『なら今回は、祝福の雨にしよう』
チャオが思い浮かべるは、母へ共に祈りを捧げてくれた屈託の無い青年の横顔――。
「――キミを閉じ込めておけば、殺さずに済むのかな……?」
光と破壊の競奏が途切れ訪れた束の間の休息――しかしそれを許す間も無く、爆撃のような足音が竜王の間を急速に埋め尽くす。
「覚悟しろ、竜王ォ!!!!!」
「「「グオオオオオ!!!!!!!」」」
「!!! 旧体制派か――シャオ、竜王サマを!!!」
「?! エ、でも、お姉チャン――?」
「ア――……ハハッ。ハハハッ……! そうか、そうだったんだネ――フフッ、ハッハッハッ!」
己が本心に触れた “ 閃き ” ――月を背に高笑う天使に、ならず
「ワタシも結局、人の子か……――オルビアナ・キルパレス!!!」
「! は、はい!」
「受け取れヨ――!!!」
チャオは乱暴にレインを寄越すと、改めて夜を明るく塗り替えんとする。
「この恨みはもう人間には向けない……ただ、悪しき竜を亡くす為だけに――!!!」
(レイン・ロズハーツ……眠ったまま肌で感じてくれヨ。我が主への忠誠を思い出させてくれた……一瞬の輝きをくれたキミに捧げる光だ――)
「待ってお姉チャン!!!」
「無問題、この程度――」
――刹那、竜宮城は火炎に包まれる。
「「「グアアアア?!?!」」」
「!!! 炎……まさか――!!!」
悪しき竜たちを包み込む炎より、一人の大男が現れる。
「ガッハッハッ!!! 間に合って良かったわい!!!」
橙色の肉体に赤の頭髪、そして魔獣の様な二本の角――それはヒトの近縁種、 “ 鬼 ” の姿。
「ああ……き、来てくれたのですね……マジェンガ……!」
「当然だ!!! 印が知らせてくれたからのう!!!」
「マジェンガって……まさか、魔法協会 “ 四天王 ” 序列3位の……――」
「―― “ 炎の天術使 ” ……〈炎王〉マジェンガ・キングスター……!!!」
狩るべき王の姿に、チャオの闘志は再び灯る。
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