第37話「光の螺旋」
「さて、シャオを助けに行こうかネ……」
レインを仕留めた
「チャ……オ……」
討ち取った敵の血溜まりを歩くチャオを今にも消えそうな声で呼ぶのは、レインとの死闘の隣で陣痛に悶え続けていた竜王マーロンであった。
「もう少しかかりそうってところネ。安心すると良いヨ、竜王サマを消すのはワタシでは無い――後に来る貴女の民たちヨ」
「!!! やはり……旧体制派と手を組んでいたのですね……!」
「手を組む? ……ソレは少し語弊があるネ、お互い利害が一致しただけヨ。『憎き竜王を狩る』という共通の目的でネ――」
「何故……なのですか……?!」
「……マ、冥土の土産に教えておこうかネ――」
――同時刻、下層階。オルトロスによる心ばかりの魔力補給を得たソフィアは、歩く事が出来る程度には回復を遂げた。
「ありがとう、オルビアナ……もう、一人で立てるわ。レインの元へ急ぎましょう……!」
「解った、行こう!」
「――待って……!!!」
「「!!!」」
二人を呼び止めたのは手負いのシャオであった。彼女は瓦礫に埋もれた体をどうにか起こすと、壁にもたれ掛け首だけをこちらへ向けて語りかける。それに対しオルビアナとソフィアは反射的に構えるが、相手が戦意を失っている事はとうに理解していた。
「ハア、ハア……お姉チャンを……倒しに行くんだよネ……?」
「……はい」
「……ハア、ハア……ウッ……! ……行く前に……ヒトのキミたちに……聞いて欲しいヨ、お姉チャンの “ 想い ” を……!」
「「!」」
***
「結論から言うヨ。ワタシたちは『 “ 四天王 ” の一人を引きずり下ろし』、『新たな “ 四天王 ” に成る』。その舞台として、竜王サマの出産を利用させて貰ったんだヨ」
「 “ 四天王 ” ……魔法協会最高幹部に……何故……?!」
「 “ 四天王 ” の権限を利用し、『協会全勢力を
「ハオの死を……やはり貴女たちは、今も恨み続けていたのですね……」
「忘れはしないヨ。アノ日コノ街で、目の前に横たわっていた母の亡骸を――悪は誰か。ヒトを差別する竜種か? そんな竜の国に居座ってしまった母か? ――
「……!」
「今となってはソレも
「何故……レイン様たちを巻き込んだのですか……?!」
「ソレを理解して貰う為にも話は目的に戻るケド、『新たな四天王に成る為』には段階を踏む必要があるヨ。まずは『ワタシ自らが四天王を倒す』。候補者は大勢居るだろう、S級以上のギルダーたち、他の天術使、 “ 十戒 ” と呼ばれる局長たち……ワタシが確実に、そして最短経路で成り上がるには王の一角を己の手で落とすコトだ――しかしワタシは愚かな竜と違って身の程を弁えている。普通に決闘を申し込んでも勝てないネ!」
奇妙に高笑うチャオは、口角を保ちながら再び冷たく語り出す。
「ケド幸運にもそんな下克上を成し得る舞台が用意された――竜王サマ、貴女の出産だヨ。国中から魔力が消え去り
竜王は入り交じった瞳で儚くヒトを見つめ続ける。
「さて、『何故レイン・ロズハーツが必要だったのか』だケド。四天王程の強者が逝くに足る理由と、あくまでワタシが “ 善 ” の
「! それが……レイン様……という事……?!」
「ゴ明答! 早熟の天術使レイン・ロズハーツ……実力は未知数、可能性は無限大――長く暴虐の限りを尽くしてきたグリンポリス帥国を壊滅へ導いた立役者だ、ソコからの成長を加味すれば彼が四天王を屠ったとしても疑わしくは無いネ? ……そして彼をどう “ 悪 ” とするか――まずは『旧体制派と共謀して竜王サマを殺した罪人に仕立て上げる』んだ。出産を控えているとは言え貴女ほどの
「……そして……レイン様を――」
「――ワタシの手で消す。間接的に四天王以上の力を持つコトが証明され、ワタシが四天王の座に着くに相応しい “ 聖者 ” たる説明もつく。ヒトに仇なす悪しき竜が蔓延るというコノ国の真実も伝わり、ワタシは正義のままに協会の力をハルジリアへ振り下ろせるというワケだ」
「それが貴女の……竜に対する復讐という訳ですか……!」
「ソ。ひとまずレイン・ロズハーツの始末は終えたし、後は四天王を――〈炎王〉を呼び出すだけネ!」
「!!!」
「序列1位〈
「……」
「捻れに捻れたヒトと竜との因縁を終える為……ワタシはあらゆる命を巻き込む “ 光の螺旋 ” と成ろう――」
その瞳は決意に満たされていた。
「だから貴女はまだ殺さないヨ。今逝かれると魔力枯渇による敵の弱体化が無くなってしまうからネ……マ。例えソレを抜きにしてもワタシにはまだ “ 秘密兵器 ” がある。勝機は十二分――」
(……ケド、レイン・ロズハーツ相手にも使わされるとは思ってなかったヨ。流石に素の状態の
「――サ! 協会に竜王サマの死をまやかして〈炎王〉を呼ぶコトにするかネ」
「――その必要はありません」
「……ハ?」
「彼は……既にこちらへ、向かってます……!」
***
月光に湿り狂う下層階、オルビアナとソフィアはシャオより同様の計画を聞かされていた。全ての始まりは先日聞かされたばかりの姉妹の生い立ちと知り、二人は言葉を失う。
「ねえ、
「ソ、ソレは……――?! な、何ネこの音?!」
地を揺らす怒号の如き無数の足音――それらが竜宮城目掛けて駆けて来るものである事は、ここに居る誰もが明確に認識出来た。
「……まさか、旧体制派の……?!」
「そ、そんな……?!」
「りゅ、竜王サマ……!」
「! シャオ、貴女本当は竜王様を……!」
「……ワタシは――ワタシは、竜王サマに死んでなんか欲しくないヨ……!!!」
「……とにかく急ごう、レインも心配だ――シャオ様! 僕たちも上へ運べますか?!」
「や、やってみるヨ……!」
竜王より供給される無制限の魔力に任せ、シャオは二人の手を取り最上階へ飛び立つ――。
***
シャオたちが
「……『〈炎王〉が既にコチラへ向かっている』……? 何を言ってるネ?」
「それは……ウッ……!!!」
「いよいよ産まれ落ちるか……すぐ散る命ヨ――」
――その時、チャオの視界の
「――?! ……レイン・ロズハーツ……?!」
風穴を開け屠った筈の敵は、呻き声と煙を上げながらその傷を修復し始めていた。
「……何なんだヨ、キミは……?!」
月光の中、完全回復と共に立ち上がった青年の面影は全くの別物で――まるで悪魔が取り憑いたようであった。
「コノ感じ、 “ 悪性魔力 ” ……?!
敵は応えない。今際から再起した天術使に神たる聖気は無く――呻き声と共に口を開けたまま、チャオ目掛けて飛び出す。
「うあぁああ!!!」
「チッ、 “ 覚醒 ” か!」
レインに纏わり付く黒い魔力は彼の手足を獣の様に幻視させ、余りに大きな目と角を彷彿とさせる。
「速い……!!! 何て暴力的ネ……?!」
速さも力も常にレインの限界点を引き起こすが、それより特筆すべきは “ 破壊 ” への造詣の深さ――悪魔は光を破壊する。光線を破壊し、光速を掴み、天使を一方的に
「グハァッ!!! ク……何なんだヨこの悪魔は……?!」
――〈
「ハア、ハア……!!!」
(まさかアレ程の大悪魔を隠していたとは……とは言え、完全に乗っ取られてしまっているじゃあないか!)
もしレインがハットベルを掌握出来ていたのなら――意識を保ったまま、かの超常的な魔力と回復能力を我がものとしたまま回帰を遂げたのであろう。しかし現在肉体の主導権は奪われている――ものに出来ていないハットベル任せの回復ならば、精神世界でレインが無意識に主導権を取り戻した途端ハットベルは鎮み、彼の悪魔的な回復力故に取り戻した肉体の意識も再び眠る事になる――それはいつも通りの “ 暴走 ” と “ 鎮静 ” だ。要するにこうなってしまった以上、明確に時間制限が設けられてしまったのだ――ハットベルが暴走している間にチャオを倒し切る他に道は残されていない。
「――マ、窮地であるコトはお互いサマか……」
その時、月光溢れる最上階にオルビアナとソフィアを連れたシャオが現れる。
「着いた――竜王サマ!」
「シャ……オ……!」
「アア、竜王サマ……ゴメンネ、ゴメンネ……!!!」
「私は良いのです……それより、チャオは何を使ったのですか……?!」
「……白状するヨ、竜王サマ……そして、ソフィア・パーカライズ」
「え……私?!」
シャオは先のチャオと同様に
「……!!! それは……?!」
訝しげな竜王に対し、その正体に覚えのあるソフィアとオルビアナは確信を持って名を呼んだ。
「「―― “
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