第27話「四神」
若き勇敢な騎士に代わり、神々に挑むのもまた神々――。
「行くぞ!!!」
レインはまず総帥モス目掛けて飛び出す。すかさず岩壁の防御が張られればレインの攻撃を殺さんが為にライデンがそれを打ち崩す。
「ぶち込んだれ、レイン!!!」
「おう!!!」
破壊の拳はモスの顔面へ的確に打ち込まれる。しかし人肉に触れた感触は無く、レインへ返ってきた飛沫は若草色をしていた。モスは寸前で地から木々を生やし幹で防御したのであった。
「この……!」
すかさず蹴り、殴り、遠距離の投射――その全てを躱しながら後ずさる。そこを捉えライデンの雷撃一閃、しかし降り注ぐそれを食い止めたのはダルナゴアの生成した岩石の天井であった。
「この……!」
「ガッハッハ、こっちも遊ぼうじゃねえか!!!」
自ずと混戦は二つの1体1へと切り離される。地中から伸びた茂みはレインへまとわりつくように絡みつき、それを振りほどけば隙をついて大木の打撃。一方では絶えず繰り出される岩壁が電撃を拒み、星の如き落石は電圧ではどうしようにも無いほど重く防戦一方を強いられていた。
「クソが……!」
床を見回せば先程マルカトロスが転がしていった雑兵たちの得物がまだ落ちている。雷電だけではなし得ない技があると槍を拾い上げたライデンは、武具を以て戦法を広げる。
「行くで……!!!」
稲妻がライデンに絡みつき、手先、槍、穂先まで広がっていく。雷速の踏み込み――現れた岩壁を刺突で砕くと穂先からダルナゴアへ電撃が放たれる。
「ぬおっ?!」
先程までは電撃で壁を砕くことで精一杯であったが、武器との二段構えになった事で一撃を敵への直接攻撃へ向けられるようになった。手応えを感じるライデンであったが、ダルナゴアは感電の後に雷撃を纏った魔力を外へ流し出す事で被害を抑えていた。
「器用な
「……今のは良かったぜ」
決してダメージが無いわけでは無い。口から煙を吐きながら、拳に怒りと岩を纏いライデンを殴り飛ばす。
「オラァ!!!」
「ぐおっ?!?!」
続けて地に両手を付けたダルナゴアは、床、壁を伝い大地を揺らがし始める。突如引き起こされた大地震には下の戦場も砦の最上階にいるレインとモスも混乱する。
「うおっ?!」
「やれやれ、砦は出来れば壊さないでくださいよ……?」
そんなモスの思いも無視するように激化する地震、揺れ自体に直接的な意味は無い。ダルナゴアの狙いは地中奥深くに眠るものを呼び起こす事にある――。地上の雑兵たちが慌て始める。
「おい、地面に亀裂が――」
すると噴き出したのは赤く熱いマグマであった。ダルナゴアはそれを大地の一部と捉え、赤き龍が如く操るとライデンの元へ向かわせる。
「あかん、そりゃシャレにならんて!」
「テメェも熱くなれや!!!」
逃げ出そうにも周囲は岩壁に封じられ、空中で岩の監獄が形成されてしまっている。それごと溶かしてしまおうという算段――ライデンは猛火力で発電するも、果てしなく形成され続ける牢は尽きる事を知らない。
「あれは不味いんじゃねえか……?! “
モスと攻防を繰り広げていたレインは刹那振り返りライデンを囲む防壁めがけて破壊の投射を繰り出す。
「! 助かったで!」
砕かれた一瞬をついて抜け出したライデンは雷速で砦へと戻り、砕かれた岩の監獄と衝突したマグマは赤き雨となり地へ降り注ぐ。
「いかん――全員避けろ、骨も残らないぞ!!!」
益々混乱を強める戦場。大将と元帥を欠いたグリンポリス軍に対し粒ぞろいの連合軍は優位に立つが、天術使同士の闘争はその限りでは無い。そして神々の戦闘は今も尚戦場に光景が届けられており、味方の不安を招いていた。
「大丈夫なのか、うちの大将たちは……?!」
「頑張れ、 “
「頼みますよ、ライデン王子……!!!」
「「「負けるなあ!!!」」」
希望はあれどやはり全員の目に影が差し始める。そんな曇りを晴らしてくれたのは、今しがた人々の戦場へ舞い降りてきたマルカトロスであった。
「騒ぐな、俺が何の為にあそこにいたと思っているんだ――」
その言葉と重なるように、モスとダルナゴアは表面にこそ出さないが一つの懸念が過ぎり始めていた――『 “ 魔具 ” の魔力切れ』だ。祈りによる供給が途絶えても尚、蓄積してきた膨大な魔力が2人の無理な魔力出力を支えていた。しかしそれが尽きた――先程、〈千本刀〉相手に力を振るい過ぎたせいで。補助が消えた以上今まで通りの無茶な術式出力は叶わない。そうしてモスらが自然と力を抑え始めた事を、レイン達は見逃していなかった。そして同時に自身らが苦戦している要因も紐解いていた。
「ライデン――」
「おう、任せたで!」
敵めがけて飛び出す2人。しかし真っ直ぐに駆け出すのではなく途中交差するように斜めに出発し、それまでとは異なる相手へ撃を放つ。
「「!」」
ダルナゴアの繰り出した岩壁は砕かれると同時に自身まで拳の余波が到達、モスの生成した樹林の防御も電撃に焼き切れる。
「 “ 相性 ” だ、アンタらはこれを読んで自分の苦手な相手を避けてた……だがもうそうはさせねえ――」
これまでただ一人悠然を貫いていたモスの眉間に一つ皺が浮かぶ。
「……良いでしょう。人の子の希望を枯らし、私は神と成る」
「楽しみだ、テメェらの信念が揺らぐ瞬間が!!!」
「枯らさねえし揺れねえよ、俺たちはただ――」
レインの周囲には罅が浮かび、ライデンの周囲には稲妻が迸る。
「――ぶっ壊す!!!」
「やったるで……時間と関わりなく――光より早く―― “
雷と成ったライデンは言葉通り光さえ超越する速度で動き回っては、轟く雷鳴との時間差も相まってその位置を辿りづらくする。加えて稲光の迸る範囲全てが自由に手足の出せる範囲内、まさに神業を繰り出す青年にモス達もそれまで以上に
「 “
「 “
その掛け声と共に地面が緑や岩場へと環境ごと変質したと思えば、木々や岩石が勝手に現れてはレイン達を襲いかかる。
「うおっ?! 何だこれ?!」
「聞いた事あるで……! 術使が何もせんでも敵を攻撃する魔法があるって……!!!」
「その通り、そして我々の意志は全く異なる術式を以てあなた達を迎え撃つ――」
自動生成される妨害に気を取られているうちに、2人の敵は力を溜め込み強大な術式を作り出していた。
「! ライデン、全部焼け!」
「ほならお前も全部ぶっ壊したれ!」
呼応するようにこちらも大技を繰り出し敵の術式を跳ね除けてみせる。しかしそうまですれば、足場が保てるはずもなく――。
「あ――」
「やばいで?!」
「このバカガキゃあ!!!」
「……やれやれ」
外の者達も崩壊に巻き込まれまいと一斉に離れ出した。
「「「うわあああ!!!」」」
崩れゆく砦の中を4人の天術使らは落ちて行く。その最中も攻防は止まらない。破壊や雷電や大樹や大地が共鳴する中で、基地の崩壊を以て戦場は地へと落とされた。互いに消耗は激しく、戦地の移り変わりをきっかけに局面も最終舞台へと導かれた事を互いに悟る――。
***
一方、崩壊する砦から距離を取りつつ睨み合いを保持していた従属国主将らとこちらの主力による闘いも大詰めを迎えていた。咲き乱れる花々を血で赤く染め上げているのはソフィア・パーカライズとモクモ共和国のマイ・ギルツ元首。
「はあ、はあ……悪しき者よ、もう限界でしょう。あなたに刺さる草花の棘には毒がある。立っているのさえやっとでしょう」
「あなたは……どうしてこんな国の為に闘うの……?!」
「……モクモは天使教会により発展した国……故に天術使崇拝を命とするのです――あなた方の要も天術使ですが、我々がより深く信仰を捧げるのは “ 自然 ” に根強い天術使……つまりそれは “ 樹 ” のモス様と “ 地 ” のダルナゴア様……!」
「そんな理由で――あなた達が守ろうとしているのがどれだけ邪悪な存在か、解っているの?!」
「善も悪も人の気次第、本来神は為す事の全てが等しく正義なのです――あなた方の物差しは俗物、我々は神へ導かれるのみ……!!!」
「神、神って……あなたの国の人々は、それで笑っていられるの?!」
「……!」
「導かれるのは勝手だけど……あなたはまず、国民を導く立場にあるんじゃないの?!」
「……お黙り……!」
マイが敵を指差すとそれに呼応し草花が生まれる。ソフィアはすかさず結晶で象られた歪な鎧を纏うも、絡みついたツタの長く鋭い棘は深く突き刺さり、一部装甲を超えて体内へ到達した棘からは更なる毒が注入され、自由が奪われていく――。
「はあ、はあ……」
ソフィアは力を振り絞って杖を敵へ構える。足は震え、マイの言葉通り立っているのさえやっとなのだ。
「……くっ! もう眠れ、悪魔よ!!!」
「お互い……ね……」
ソフィアの体から鎧が剥がれ、草花の毒を注入された結晶が弾丸となってマイへ飛びかかる。
「う――うああ!!!」
マイは自身の毒を食らったことで体から自由が奪われ、気を失ってしまった。最後まで立っていられたのはソフィアの方であった。
「信じる気持ちが……
そしてソフィアも赤い花畑の上で眠るのであった。
***
ドロス・リーデルは相も変わらず敵を圧倒していた。
「教えてくれないか。なぜグリンポリスに従う」
息を切らし敵を見据えるクラクロイ共和国ジャイロ・キリダンス首長。その問いかけに戦意を削がれたのか、瞳に浮かんでいたのは敵意より諦めであった。
「……クラクロイは荒れに荒れた国であった。国民の統制なんてままならない程に、繰り返される内戦、闘争――力が混沌とさせる我が国を治めてくれたのは、より強い力――グリンポリスの圧倒的な支配力であった……」
「……形がどうであれ、国を国たらしめてくれたグリンポリスに感謝しての参戦という事か」
「それもある……が、それよりも恐いんだ。天術使という圧倒的な力を失い、再びクラクロイが以前のような混沌の地に戻ってしまうのが……!」
ドロスは同情した。しかし手を差し伸べるような真似はしなかった――。
「その力が数多くの国を貶めているとしても護りたいか」
「……! それは……」
「巻き込まれた国は多い、国民に換算すれば数知れない……目先の平和の為に、見えない所の不幸を護ってはいけないだろう」
ジャイロの手は迷いに呼応して震えた。ドロスは力強く彼の持つ剣を弾く――反射的に生成された剣の雨さえ〈刀達天〉には通用する事無く、無慈悲に――且つ優しさ故に、今は敗北を与えるのであった。
「彼らでなくとも、大きな力はいくらでもある……それに頼らなきゃいけないほど、弱くも無いと思うがね」
***
砦の真下にいたオルビアナ・キルパレスとピカキラー共和国バトルウォー・ヨークテル主宰は、戦地の崩壊に伴い一度互いを見失っていた。
「あの野郎、まだだ……まだ殴り足りねえぞォ!!!!」
形勢は完全にバトルウォーが握っていた。圧倒的な暴力による一方的な立ち回り、それは身体能力と魔力強化にかまけた滅茶苦茶な運動ではなく、幾百の戦場で培ってきた洗練された動きであった。
「ああもっとだ、もっと闘いてェ!!!! グリンポリスは良い、アイツらは俺たちに戦場を与えてくれる……闘う相手を、場所を、口実を、あくまで従属国だから容赦されるという立場を担保してなァ!!! 他の
大戦で頭に血が上る彼を、オルビアナの神眼による超視力は茂みの向こうから確かに捉えていた。そして強かに弓を引く――。
「――そこか、 “ 神眼の ” ォ!!!」
バトルウォーが腕を引くと白く凶悪な魔力が纏われ、空を殴るとその勢いで大砲が如くオルビアナめがけて放たれる。
「!」
避けて体勢を立て直し弓を引く、敵も場所を変えて魔力を撃ち出す――。
(想定外……あの感じで狙撃戦に持ち込まれるなんて……!)
「オラァ!!! くたばれェ!!! くたばれェ!!!!!」
乱打するように魔力を連射し隠れ逃げる敵を追い詰める。それらを回避する最中、オルビアナは一度ほぼ真上に向かって今日一番の力を込めた矢を放つと、以降バトルウォー本体を狙わずその横を通らせるように射撃を続ける。
「あァ? ド下手くそがァ!!! それが神眼術使のやる事かァ?!?!」
勿論当てられないのでは無い、どの道正面から撃っても防がれる――敢えて外しているのだ、その場所に留め続けるために。
(魔力が視えるおかげで次にどう動こうとするかが解る――その方向を塞いで、そこに留めればそれで良い……!)
そしていよいよ不可解な戦法が実を結ぶ事になる――痺れを切らし上体を逸らして叫ぶバトルウォー。頭上を見れば、そこにはどこからともなく降り注ぐ一本の矢があった。
「……は?」
刹那、それは逸れた上体を的確に貫く。
「……ガハッ?!?!」
たった一撃、込められた思い想いが凶暴な主将を眠りにつかせる。
「よし……また勝てた……!」
勝利に浸るのも束の間、不相応な神眼の応報に右眼付近に激しい痛みが走る。
「うっ……! でも、もういいんだ……後は任せたよ、レイン、ライデン……!」
死闘を乗り切ったオルビアナは深緑の絨毯に眠るのであった。
***
追い込まれたグリンポリス軍。モスとダルナゴアは最終手段を取る――。
「なぜこの国が緑に包まれているか解りますか……? 全てを私の手中に収めるためです!!!」
「そして大地は俺の手の中にある!!!」
モスとダルナゴアは残り僅かな魔力を惜しみなく放出し、国中の森林と大地をものにする。
「神の国に眠りなさい、愚かな反逆者達よ――」
「させねえよ!!!」
ライデンは天然の嵐の力も借りて国中に落雷を引き起こす。味方や罪なき住民を巻き込まないよう、目につく暴れる草木を的確に狙いながら――そしてレインは揺れる地面に手を着くと、ダルナゴアの意思で盛り上がる大地を粉砕し場を収める。
「大地ってのは壊しやすくて助かったぜ……お前らの負けだ!!!」
割れたモノクルさえ気にせず、モスはただただ2人の天術使に対し
「馬鹿な……こんな子供達に、私たちの野望が阻まれるはずが――」
「俺たちは神に成るんだ……テメェらなんかに!!!」
「――お前達がふたりよがりな我儘で色んな国を苦しめてるって事は解った……諦めねえのなら最後まで付き合ってやる。そしてぶっ壊してやる、その野望を……!」
「生意気をォ!!!」
怒号と共に繰り出された竜を象った岩石は、レインの差し出した手のひらに触れるだけで崩壊していった。
「――もう壊せる」
「な……?!」
緑の国グリンポリスは、雷電に焼かれすっかり灰色の地とかしていた。
「もう沢山や、終わりにしよや――グリンポリス!!!」
ライデンは嵐を集め自身に収束した。そして放たれる最高火力の最終奥義――。
「 “
圧縮された放電は打撃すら伴い――モス・カフスを灰の森へと吹き飛ばした。
「やっとや……終わったんや……!!!」
神々の抗争の終着は戦場、そして世界中に映し出されていた――連合軍も帥国側勢力も手を止め、武器を手放し、その結果を受け止めた。与えられた結末は、絶対的な力の陥没と誕生。
「俺たちの勝ちだ!!!」
「「「グリンポリスに勝ったんだ!!!!」」」
何千何万の歓喜による雄叫びは、国を大いに揺らしたのであった――。
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