第21話「侵略」

 大将戦開始――しかし先の中将戦ほど緊迫した接戦という訳でも無い。こちらの主戦力は、世界にその名を轟かすほどの名手なのだから。


「ハア、ハア……?!」


 両手にグローブをはめた大男―― “ 侵略軍 ” ハイティング・メンブルス大将、蝶のような身のこなしも、蜂のような鋭い一撃も、〈千本刀〉には届かない。


「強い……!!!」


「良い動きだ。洗練されている。だが――決まりきった身のこなしほど、俺の “ 演武麗為えんぶうるわな流 ” の格好の的だ」


「くそ……!」


 突き出された右腕、止められればすかさず繰り出す膝、蹴り、もう片方の拳、必死になればなるほどその型はくずれ、デタラメな一挙手一投足は威力を半減させる。


「おい、面白くない」


「く、くそお!!!!」


 マルカトロスは打撃を潜り、懐に柄での打撃を一発――打倒〈剣神〉を見据える〈千本刀〉にとって、通過点に過ぎない闘いであった。一方、ミサはそれなりに苦戦を強いられているようであった。彼女に見受けられるのは切り傷、打撲、荒い呼吸と口から垂れる血の糸……。敵は加速魔法の使い手、ハーシー・ルーゼ大将。風を切って走り回る彼は、速度で圧倒的にミサを上回る――それでもミサは、勝利を確信していた。


「そう……速いだけなのね……」


「何を……!!!」


 ミサは洪水の如く砂を放出し、一体を砂漠へと作り替えた。地面は積もり積もった砂で大きく上がり、柔らかい足場は沼のように動きを封じる。


「これじゃ走れないでしょう……?」


 ミサは動きを封じられたハーシーの周囲の砂を盛り上げるといくつかの巨大な拳を形成し、デタラメに殴り続ける。


「あぶ、あぶ!! うが、あがあ!!!」


「痛かったわ……でも、私の勝ち……」



***



 〈千本刀〉の快勝を蜂起させるのは、その師匠〈刀達天〉の闘いぶり。彼はあらゆる魔具を使いこなす “ 防衛軍 ” マグデカル・モンヒッキオ大将を圧倒していた。


「ヒヒッ…… “ 吸い込む爆弾 ” も “ 鉄を錆させる気体 ” も、何も効かねえ……?!」


「魔具なんて一口に言っても様々だろう、君は中途半端なんだよ」


「……ヒヒッ――」


「一番得意な武器で来なよ、後悔したくないから」


「……ああ、そうしよう」


 マグデカルは手のひら大の球体を取り出すとドロスの足元へそれを投げつける――。


「ヒヒヒッ、 “ 粘着爆弾 ” だ! そしてこれもお見舞いしてやる……くたばれドロス!!!」


 続けてマグデカルが投げたのは大量の武器を圧縮してしまい込んでいた球状の魔具。無数の剣がドロスの頭上より降り注ぐ――。


「……以上?」


「ヒッ……?」


 ドロスは空へ抜刀すると、ただの風圧が降り注ぐ武具の数々を容易く振り払う。続けて彼の刀が空から地面へ力強く弧を描くと、飛びゆく斬撃がマグデカルに襲いかかる。


「ぐへっ?!?!」


「すまない、私が強すぎただけだ!」


 刹那、どこからともなく発砲音が轟く。カメルが対峙するジュディ・シャンコロ大将による銃撃だ。


「透明化して銃撃か……手強いね」


 砲撃はカメルを的確に狙うが、彼に当たることは無い。カメルは発砲音から方角を把握すると瞬間その方向に大きく剣を振り下ろし、弾丸を斬り落としていたからだ。


(そろそろだろう……)


 再び響く発砲音――カメルはその方角に斬り付けると、すかさず背後に振り向き斬撃を浴びせる。


「何っ?!?!」


「射撃が通用しないと理解すれば近づいてくるしかないだろう。発砲音に紛れて背後に飛び、背中をそのナイフで貫く――悪いね、僕は秘覚に目覚めているんだ。魔力を隠せない限り透明化に大した意味は無いよ」


「そういう事か……クソが……!」


 フェンとトラリスは唖然としていた。自分たちの苦戦した相手より強い相手が、自分たちより容易く倒されていく。


「すごい……本当に、これならグリンポリスにも……!」


「勝てるかもしれない……!!!」


 4人の勇姿はモユルフォノーとウルオスの人々を大いに奮い立たせた。



***



 数刻置き、それぞれの国で正式な話し合いが為される。先の闘いで意志を示した通り、二国は連合軍に加わり対グリンポリス帥国へ本格的に歩みを進める。


「作戦通り、これで数の差は埋まったな!」


 天術使が2人ずつ、国は4ヶ国ずつ――戦況は対等に見えたが、実はどうしても埋まらない差があったのだ。


「問題はロズハーツとライデン、そしてモスとダルナゴアの経験の差だろう。特にロズハーツこいつはまだまだ経験が浅い……単純に天術使同士とは言え、対等な戦闘が成立するかは怪しいな」


「ぐ、まあそれはその通り……なあ、モスとダルナゴアってなんか弱点とか無いのか?」


 レインの問いかけにフェンは心当たりがあったようだ。


「弱点、と言うか……アドバンテージは奪えるかもしれない」


「「「!」」」


 そして同様の質問を受けていたトラリスも、ひとつの答えを持っていた。


「実はひとつ気になる事があって――」


 フェンとトラリスより得た糸口、それらは闘いを大きく有利に進めうるものであった。二国に散らばった連合軍は連絡を取り合い、ドロスの発案によって急遽作戦に変更が加わる。


「だいぶ危険な役割だが……引き受けてくれるか? サドン、マルカトロス」


「「?」」


 次なる作戦開始は今晩。二国の防衛を済ませ、一行はいよいよグリンポリス帥国侵略へ動き出す――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る