第20話「防衛」

 モユルフォノー共和国主席フェン・アイランドが相対した相手はグリンポリス “ 侵略軍 ” ギグァ・ザンパ中将。


「そんなか弱い剣で俺を止められるか?」


「そんな鈍足な武器で着いてこれるのか?」


「……くたばれ!!!」


 ギグァは肩に構えていた大剣に術式を込めると、得物は一回り、二回りと巨大化を果たす。


「潰れちまいなあ!!!」


 平たい剣身を地面と並行にするように構えると、 “ 斬る ” のではなく “ 潰す ” ように敵へ振り下ろす。フェンは軽い身のこなしで回避するが、大剣と地面の衝突で巻き起こった砂埃の先では既にギグァが2撃目を放とうとしていた。今度は右後ろへ引きつけるように構えると、得物に魔力が淡い光となって纏われる。それが大剣を満たす様に行き届くと、視界の全てを断つように真横に斬り払った。フェンはまず後方へ軽く飛ぶが、大剣にまとわりついていた魔力は飛来する斬撃として具現化しこちらを的確に狙ってきていた。


「何?!」


 フェンは着地と共に上体を逸らす事で回避に成功するが、真後ろの家々が罅すら入れる事無く綺麗に分断されていく。


「近づいても遠のいても射程範囲か……!」


「次で確実に仕留めるぜ……」


 ギグァは再び敵を潰す為、振り上げた大剣を巨大化させていく。段々と面積を広げる刃はまるで柱となり、壁となり、そうして作られた大きな影がフェンを包み込んでいた。


「潰れちまえぇ!!! ――」


「待て!!!」


「――?!」


 フェンはまさかの「待った」をかけることでギグァの振り下ろしを止めた。


「……何だ、この期に及んで」


 フェンにはひとつの仮説が浮かんでいた。失敗すれば自滅への一途を辿る事になる危険な挑戦――彼はそこに賭けたのであった。


「お前の言う通り、お互い次を最後の一撃にしよう――だから、もっと巨大化させてみろ。ありったけの力で、僕を倒してみせろ」


「?! あぁん?! 良いだろう、後悔すんなよ!!!」


 ギグァはそこから更に得物の巨大化を続ける。もはや辺り一帯をまるごと潰せる程に広がった刃は、フェンのみならず自軍を不安と影に包み込んでいる。動揺する衛兵達――しかし当のフェンは、一度大きく息を吸い込むと居合の構えで悠々と敵の攻撃を待った。


「来い――」


「おらああ!!!」


 振り下ろされた大剣、その影の外へ逃げ出す者たち――中央に構えるフェンは動揺しない。ただ迫り来る攻撃に合わせ飛び、剣を振り払った――。


「たあ!!!」


「――?!」


 なんと大剣は意図も容易く砕かれ、柄から離れた仮想の面積を得ていた剣身は空中で光に溶けゆくように消滅していった。驚くギグァは一度瞬きをする――もう一度目を開けた時、既に眼前には潰されているはずの敵が迫っていた。


「僕の勝ちだ!!!」


 たった一閃、フェンはギグァを追い越すと同時に振り払った斬撃で逆転を収めた。


「な……何故……?!?!」


 白目を剥いて倒れゆくギグァ。フェンは暴れる心臓を隠しながら、呟くように種を明かした。


「剣身がどれだけ巨大化してもお前は構え方を変えなかった……だからあの魔法はハッタリなんじゃないかと思ったんだ。面積を広げても重さ――体積までは変わってないんじゃないかと。正解だったな。大きくすればするほど体積は分散する。最後は家を広間を包み込めるほどに拡大されていたんだ、焦点を絞ればただの薄い鉄板だったよ」


「……くそ……が……!!!」


 ギグァ中将はフェンの影の中に倒れるのであった。



***



 一方、ウルオス共和国。トラリス・バアソロミア大統領は相対した敵―― “ 防衛軍 ” ピコット・ポコ中将と火花を散らす。トラリスは地面にいくつかの魔法陣を描き出すと、そこから水を噴き出させ相手の侵攻を阻もうとする。


「無駄だよー!!!」


(―― “ 鳥眼ちょうがん ” !!!)


 千里眼――視界を鳥の如く飛ばし舞わせることの出来る天眼、それが “ 鳥眼 ” 。トラリスはそれを持っていた。それを用いた死角からの砲撃を絡めても通用しないほどの隙の無さは、流石グリンポリス軍の中将の器。鎚を構えたピコットは噴き出る水を水圧以上の力で叩き返す事で魔法陣を破壊し、順番にそれを繰り返しながらあっという間に余白を詰めていく。トラリスは眼前に魔法陣を構え敵を撃とうとするも、これもそれまでと同様に撃ち出された水を叩き返される事で破壊されてしまう。そしてその一撃は魔法陣の破壊と同時にトラリスの腹部をめがけ押し込まれる――彼女は唾を吐くと同時に思い切り後方へ吹き飛ばされた。


「ぐはあっ――!!!」


「トラリス大統領!!!」


 カメルは建物に打ち付けられ倒れ込む彼女に駆け寄ろうとするが、トラリスは片手で腹部を押さえながらもう片方の手で彼が来るのを制止するよう手のひらを差し出す。


「大丈夫……」


 トラリスは荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がると、再び魔法陣をひとつ展開する。


「水圧を上げるかー? でも、結局水じゃあオイラのハンマーには耐えられないぞー?!」


「……いいから来なさいよ」


「じゃあ、行くぞー?!」


 大きく目を見開き、鎚を振りかぶりながら迫り来るピコット。そして性懲りも無く撃ち出される水撃。どれだけ強化しようとそれ以上の圧で押し返すのみ、ピコットの頭に “ 力負け ” など存在しなかった――。


「ふん!!! ……あれ?」


 撃ち出された水を叩き込もうと振りかざされた鎚。接触したそれらはこれまでと違い押し込まれる事も離れる事も無かった。


「何だ、ぶよぶよー?!」


「ただの水しか使えない訳じゃないのよ…… “ 着水ポビア ” ――粘着性の液体よ」


「くー! 離れな――」


 その時、ピコットの首めがけ細く圧縮された水撃が彼の背後から放たれる。貫くか否かの際を辿る程強化されたその一撃は彼を気絶させ、辛くもトラリスが勝利を収める。


「隙が無かったから……ここまで引き付けなきゃ、今の一撃は綺麗に決まらなかったわ」


 まず一勝を掴み取った各国元首ら。『自らも幹部を倒せた』――その実績は彼ら自身と自軍を強く鼓舞する。


「やるなアイツ……さあ、次は俺たちの番だ――」


「流石だ大統領、続くぜ俺達も――」


 動き出すレインとライデン――。


「――ぶっ壊す!!!」


「――ぶっ焦がす!!!」


 天術使らも残る大幹部へ戦意を向ける――しかし見知った仲間達が彼らを遮った。


「……?! なんだよマルカトロス?!」


「貴様は天術使の相手を請け負うのだろう? ここで消耗させる訳にも手の内を晒す訳にもいかない……と、ドロスが言っていた。奴らとは俺がる」


「私も……!」


「! ミサ?!」


「ノヴァでは家族の相手を任せてしまったから……ここは私に任せて……!」


 ウルオスでも天術使の前に2人の男が躍り出る。


「ライデン君は温存! おじさんに任せておけ」


「罪滅ぼしなんてつもりは無いが……抗う姿を見ていてくれ、ライデン」


「ドロス……カメル兄ちゃん……!!!」


 中将戦勝利の余韻に浸る間も無く、残す大将4名との闘いが幕を開ける――。

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