第18話「天秤」

~翠歴1424年8月1日~



 敵地へ向かい飛行船にて空へ発ったロズ・ノヴァ連合軍。2部隊各2機の内、こちらは “ モユルフォノー共和国 ” を目指す第一軍。ロズ王国騎士団副団長メイクルポート・マルカトロスとノヴァ王国国王マキア・パラナペスを共同隊長とし、主要戦力としてロズからレイン、オルビアナ、ソフィア、ロキ、ノヴァから第一王女ミサ、第二王子サドン、国王軍総大将ジャンバッカらを据える。そのほか多くのロズ王国騎士団団員を乗せ、総力戦にも万全の体制を整えていた。


「マキア王よ。直に首都が見える。改めて断っておくが……」


「わかっているマルカトロス殿。もはや全てを救えるなどとは――」


  “ 徴兵 ” ――グリンポリス軍にはノヴァ王国より兵士として半永久的に引き抜かれた国民たちが属している。マキアらの想定では徴兵された者たちの現在は三択。『反乱を危惧して既に処理されている』『この件に関わらせない為に何処かへ遠征させられている』『グリンポリス軍勢力としてこれからロズ・ノヴァ連合軍と敵対する事になる』――敵戦力として相対する場合、こちらも主要戦力・重要人物を抱えてる以上手加減する訳にはいかないという話だ。散々国民を抑圧してきた挙句、今一度民の命を天秤にかけなければならない事にノヴァの面々は葛藤していた。しかし戦場で甘さを見せる事は命取りになる。現状、ノヴァはバーバラ王妃とナグール大臣の2人に託してしまっている。ロズも主要戦力の全てを国から外している状態だ。両国共に必ず勝って帰らねばならない、だからこそマキアは再び将として心を決めたのであった。


「なら良い、やはり穏やかには済まないようだからな……――」


 秘覚を澄ませ、眼下の景色を睨むマルカトロス。下一面に広がる雲の絨毯の隙間からは、赤い屋根の家々が伺える。そこはモユルフォノー共和国首都 “ アチ ” 。第一軍2機の飛行船は付近の野山めがけ下降を始め、いよいよ態勢を整える。そして同時刻、ウルオス共和国を目指す第二軍2機もその首都 “ チベッタ ” を遥か真下に捉えていた。こちらはロズ王国騎士団団長ドロス・リーデルとノヴァ王国第一王子カメル・パラナペスを共同隊長とし、第三王子ライデン、第二王女マンジャ、第三王女シンドゥ、そして王族親衛隊隊長に返り咲いたマジュールらを主要戦力に据える。途中ノヴァに寄航し国王軍兵士を招集した事で、ノヴァ王国の面々を主とした部隊となっている。


「なるほど、歓迎の準備は整っているようだ」


「私ではまだ薄らとしか感じ取れないが……確かに、いくつか際立った力を感じるね」


 ドロスとカメルは共に青を基調とした街を見据え、戦地へと心を整えた。



***



「来たか」


 ここはアチの官邸。軍服に身を包む屈強な者たちは、敵の襲来を知りながら敢えて攻め込まず迎撃を選んだ。彼らは一室の椅子に腰掛ける萎縮した一人の男を睨み、圧と共に声をかける。


「まずはモユルフォノーのお手並み拝見と行かせてもらいますよ――フェン・アイランド主席」


「……!!!」



***



 そしてチベッタの官邸でも、元首たる女性に対し全く同じ状況が織り成されていた。


「来たな? パラナペス。我々が待ち受けているとも知らず……!!! ――トラリス・バアソロミア大統領。あなた方の働きには大いに期待してますよ、ヒッヒッ!!!」


「ウルオスの戦力と忠誠を証明するのです、よいですね」


「……はい……」


 各々の心境が揺れる最中も、両軍は首都官邸へ向け歩みを進める。侵略者と反逆者の狭間で、各国元首は何を思うのか――。

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