第3章「グリンポリス帥国」

第17話「支配者」

~翠歴1424年7月27日~



 ノヴァ王国での一件を終えた一行はロズ王国へ帰還、しかし港へ着いたのは彼らだけではなかった。レイン達に付随して海を渡ってきた船にはライデンを始めとするパラナペス王家の者達、ジャンバッカ率いる国王軍やマジュールら反乱軍の姿があった。



***



 時は7日前、革命の後に遡る。マキアとの闘いで気を失っていたライデンも目を覚まし、いよいよマキアの口よりノヴァ王国の真実が語られる。


「魔法協会非加盟の完全鎖国国家、それが今のノヴァこの国の姿……しかしおよそ18年前までは我々も協会に属し、周辺諸国との交易も行っていたのだ。鉱物資源に富むこの国はそれを元として遥か昔より他国と友好な関係を築き上げ、王都内外問わず全ての国民が豊かな生活を送っていた……」


 マキアは過去を慈しむように語ると、途端にその表情を曇らせる。


「――だが平穏は突然奪われる事になる。18年前、ライデンが産まれた。そして雷の天術を持つ王子の誕生は、瞬く間に周辺諸国へと知れ渡る事になる……それを聞き付けたある国より、天術使を擁するノヴァと友好条約を結ぼうと2人の使者が送られてきた。それを招き入れてしまった事が、私の最大の過ちだったのだ……」


 皆が神妙な眼差しをマキアへ向ける。彼の両の拳は、己の罪と無力さに震えていた。


「彼らはノヴァの支配を目論む天術使だったのだ……!!!」


「「「?!?!」」」


「――なんやって……?!」


「「「……」」」


 国の影に潜む圧倒的な存在を知り驚愕するロズの面々やライデンと、対称的に改めて突きつけられた事実に顔を背けるパラナペス家の者達。


「……彼らは協会支部に悟らせないほど迅速に、たった2人で宮殿を制圧するとノヴァの支配権を要求してきた。最たる内容は『協会からの脱退』と『他国との交易・交通の禁止』……つまりは孤立した現ノヴァへの変革」


「そんじゃあ兵士に監視させてまで国民を厳しく働かせてたのも、全部そいつらの命令っちゅうんか……?!」


ライデンお前には隠してきたが、実は資源の輸出は完全に取り止めた訳では無い。2人はそれまで我々が通商を行ってきた国々との交易を廃止させたが、代わりに彼らの国に対する不利な条件での輸出を命じてきたのだ。しかし表向きにはノヴァは鎖国国家。名目上の交易廃止は鉱業の大幅な需要減少を周知させ、いては稼働率の低下に繋がる。国民にも秘密裏に天術使らの国へ資源を輸出し続けるには、鉱業に携わってきた人民を他産業へ移らせる事の無いよう見張りを付け、労働を強いる他無かったのだ……」


「……昔から親父や兄ちゃんは何も言わずに国を空ける事があった――それも、自分らで資源を運ぶ為だったんか……?!」


「そうだ。すまない、ライデン……」


 複雑な国際事情を国王の口より語られ、レイン達は言葉を見失う。そんな中、至って冷静に筋道を整理する者が2人――ドロスとマルカトロスであった。昂る事無く物事を俯瞰する様は、流石大陸に名を知らしめる団長と副団長と言える。


「天術使と言うのは驚いたが、影に何かしらの力が潜んでいる事は我々も読んでいた」


「えっ、そうだったのかよドロス?!」


「すまないレイン君、憶測であらぬ混乱を招きたくなかったのでな……まず、完全鎖国国家であると言うのにレイン君の情報を得るのが余りに早すぎる。レイン君がA級に昇格した事で破壊の天術使の情報が世界に伝達され、その翌日にはライデン君が現れた。これは国外へ働きかける別の国か組織からの情報提供無くして実現し得ないだろう」


「そう言やあ、俺にレインを消させようとしたのも……」


「ああ……その一件も、それまでライデンに行わせた他国への妨害工作も、全て彼らに命じられての事だ……すまない、レイン殿、ロズ王国の一同、そしてライデン……」


「それも予測出来た事だ。貴様らにとって、ロズハーツを消すメリットが見当たらないからな」


「疑問はまだある。遥か昔より鉱業で栄えてきたノヴァに、何故18年前ライデン君が産まれたタイミングで突如目を付けてきたのか。そして、何故一連の詳細をライデン君にひた隠しにしてきたのか。国民に公表しない理由は解る。反感をノヴァに集中させる事で自分達への反乱を防ごうと、天術使達に命じられての事なのだろう。雷の天術を恐れ国民は暴動を起こせないから、国家の存続に問題は無いという理屈も解る。しかしパラナペス家の一員であるライデン君にまで隠す理由は? それも天術使の反逆を恐れた彼らの命令で? それならライデン君が幼いうちに彼らは消しておくべきだった。さっき言ったように国民の反乱を防ぐ抑止力として天術使が必要なら、そもそも彼らが自らその役を買って出るべきだと思わずにいられない。話の聞く限りの力関係は、ライデン君より2人の天術使の方が圧倒的に上なのだから――」


 ドロスの言葉一つ一つが、マキアの瞳を曇らせる。


「――ライデン君の存在自体が、何か大きな役割を持っている。2人の天術使がノヴァを支配する目的は、豊かな鉱物資源よりも彼にあるのでは?」


「聡明な男だ、ドロス殿。私も同じように考える――ライデンをノヴァに押さえつけ、歯向かわせる事無く、手放す事も無く……その為に真実を伝える事を固く禁じてきたのだろうと。しかし、私はその答えを持っていない……彼らが最終的に望むものが何なのか、それは我々には知り得ないのだ……」


 再び静まり返る一同。数刻の末、レインはようやく当然の疑問を投げかける。


「なあ、さっきから天術使達とか彼らの国とか言ってるけどよ……結局敵はどこの誰なんだよ?」


 名を口にする事すら恐れていたのか、有耶無耶にされてきた正体が遂に語られる。


「国の名は “ グリンポリス帥国すいこく ” ――王はいない、巨大な軍隊が支配する国……!!! 軍隊は “ 侵略軍 ” と “ 防衛軍 ” に二分され、後者の “ 元帥 ” を担う者が2人の片割れ―― “ 地の天術使 ” ダルナゴア・ドボルガナフ……! そして全ての軍を指揮する、軍隊と国双方の主導者を務める男―― “ 樹の天術使 ” モス・カフス……!!!」


「 “ 地の天術使 ” と――」


「 “ 樹の天術使 ” ……!!!」


 同じ天術使として、レインとライデンは睨みを利かせた。マキアは続けて語る。


「そして彼らの支配を受けているのはノヴァだけでは無い……グリンポリスを取り囲む5つの国も彼らに付き従わざるを得ない状況にある……!」


 2人の天術使率いる支配国と5つの従属国。事実に陰る雲が取り払われていく度に、膨大な実態が明るみに出る。流石のドロスも今は口を噤んでいた。順当に行けば次はグリンポリスを相手取る事になるのだろう。しかしこれ以上踏み込む事は、結果によっては自国さえ脅かしかねないとはばかられる。マルカトロスもオルビアナも、等しく思いを抱えながら同様の理由で安易に言い出せはしなかった――その言葉を、切り出した者がいた。


「なんだ、簡単じゃねえか! 要するに、グリンポリスって国と軍隊をぶっ壊せば良いんだろ?」


 皆が顔を上げ、声の主へ熱い眼差しを向ける。


「レイン、お前……!」


「言っただろ? ライデン。俺は俺の目的の為に、悪い奴らをぶっ壊してえんだ。国を5個も支配する2人の天術使……ちょうど良いじゃねえか! 俺の目的の為に、俺が強くなる為に……闘うぜ!!! ライデン!!!」


「……!!! レイン殿、どうしてそこまで……?!」


「……そっか、ライデンにしか言ってなかったよな。俺の目標はよ! ……――」


 パラナペス家に明かされるレインの素性と闘う理由。それはマキア達を大いに震撼させた。


「オズワルド家……!!!」


「やはりノヴァでも知れた名か」


「当然。〈世界最悪の一族〉オズワルド家……数年前、何処からどのようにして忍び込んだのかは不明だがノヴァにも現れた。協会を脱退したノヴァは協会の擁する『悪魔の顕現を抑える天文魔法陣』 “ 聖域フィピュア ” の恩恵を受けられなくなり、砂漠には無数の悪魔が出現するようになってしまった……その悪魔を余さず掠め取って行ったのが彼らオズワルド家。それだけなら聞こえは良いが、実態は通常発生し得ない悪魔さえも奪わんと召喚の贄として幾人もの国民の命を奪って消えた――正しく悪魔のような一族であった……!!!」


 レインは知り得る『自身の属していた一族の悪行』をまた一つ増やし、己が関与していない件とはいえ流石にいたたまれなくなる。無理に笑みを保とうとしても影を隠しきれない彼を見て、すかさず言葉を挟んだのはライデンであった。


「でも、レインはオズワルド家にいた事があるってだけや!!! アイツらとはちゃう……!」


「ああ、それは解っているが……加えて魔法協会代表――かの〈魔王〉に挑むとは……」


 マキアは眼前に立つ無謀な勇者を見定めていた。永く忌み嫌われてきた “ 破壊の天術使 ” にして〈世界最悪の一族〉の三男、そして『世界に誇る魔法協会の代表を怨む復讐者』――だと言うのに、彼が希望である事、正義の側である事が、頼もしさと共に嫌という程伝わってくるのだ。


「……君の行かんとする道は、果てに着くまでは外道だぞ……」


「これから外れて行くんじゃねえ。もう外れちまってるから、戻る為の道なんだ」


 そう言い切るレインの想いを否定する者はいなかった。青年の覚悟に驚きつつも、信頼を託す者たち。彼の決断に突き動かされたのはノヴァの面々だけではない、寧ろロズの一行の方がその影響を受けていた。2人の天術使が統べる大軍隊との全面戦争――その挑戦に対し皆が抱えていた2つの気持ちの内の “ 闘う ” という選択肢をレインは代弁し、各々の迷いを晴らしてくれたからだ。


「ここまで来れば退く事も出来ない、か……」


「ドロス!」


 騎士団長として、人一倍感情に任せること無く国を、人を思慮すべき立場にあるドロスも心を決めた。


「レイン君への攻撃は、グリンポリスの思惑だ。放っておけばいずれ再びその火の粉は降り掛かるだろう。仮にグリンポリスがレイン君を “ 消す ” のでは無く “ 生かす ” 選択を取ったとして、それは対ノヴァと同じくロズの支配を決めた時だけだ。目を付けられた以上、どのみち戦争は避けられない――闘おう。ロズ王国騎士団の名誉にかけて」


 団長の取った舵に異論を唱える者はおらず、皆が強気に笑み顔を見合わせる。数刻前まで敵だったにも関わらず今は自国の為に覚悟を決めてくれたロズに対し、ノヴァの王家は敬意を表す。


「ありがとう。ロズの諸君……そして、レイン殿……!」


「ははっ、おう!」


 ドロスの提案で今夜は体を休め、ロズへの帰還を翌日に決める。一同は宮殿で大いにもてなされ、一戦を交えた敵とも親睦を深めたのであった。そんな中、夜風の撫でるバルコニーで語らう2人の男の姿が――。


「何や親父、大事な話って……」


「ライデンよ。良い仲間を持ったな」


 月を見上げる父の横顔は、見た事ないほどに穏やかであった。


「先程、レイン殿の若い仲間2人とも話をした。彼らもレイン殿のような大きな目標を抱いていた」


「オルビアナとソフィアか」


――『 “ 革命軍 ” ……先日のロズでの一件でようやくその実態が明るみに出たが、正直実在した事さえ驚きだ。すまないが、私から提供出来る情報は何も無い……憶測ではあるが、反協会思想を抱くグリンポリス軍なら、同じく反協会派と目される革命軍の手がかりを何か掴んでいるのかもしれない。そして、 “ 魔薬ニコ ” についてだが……協会加盟国の時より固く禁じてはいたが、グリンポリスの支配下に置かれてからはモス達の命令でより厳しく封じられている。彼らの事だ、決して道徳的な理由など持ち合わせてはいないだろうが……とにかく、ノヴァは元より他の従属国も等しく “ 魔薬ニコ ” との繋がりは持ち得ていない。我々の上に立つグリンポリスは別だろうが……』


――『結局のところ、僕たちにとってもグリンポリスと闘う意味はあるって事だね』


――『……君たちは怖くないのか? 君たちの進む道には、あらゆる障壁が立ちはだかるだろう。それが解らないほど青くは見えないが……何故世界と闘えるのだ、何が君たちを突き動かすのだ……?』


――『……誰かを想う気持ちが、やるべき事を教えてくれる。それに従うのは怖いわ。でも――私たちの隣に、レインあんなのがいるんですもの、行けるところまで行ってやろうって思えるわ』


――『……!!!』


「――抱える使命も、背負って立つ想いも……流れに身を任せ続けた愚かな私とは、比べ物にならない程に大きいものであった。今日の大敗も必然と言えよう……」


「親父……?」


「今回の一件、お前たち反乱軍は見事パラナペス家と国王軍を下し勝利を収めた。思いは様々あれど、転覆の主導者であるお前は相応の報いを受け取るべきだろう――」


 マキアは夜景からライデンへと向き直り、真剣な眼差しで告げる。


「ライデン・パラナペス――お前をノヴァ王国第8代国王に任命する!!!」


「……はあ?!」


「お前たちは名実共にパラナペス家を下した。よって今ノヴァの玉座に相応しいのはライデン、お前なのだ……」


「ちょ、ちょ待ちや?! そもそも、俺は親父に負けたやん?!」


「戦争において、 “ 個人 ” の勝敗などさほど重要では無い。お前たち “ 集団 ” が、我々 “ 集団 ” を降伏させるに値する働きを見せたのだ」


「いや、んーそれはしっくり来おへんけど……でもその言い分なら、呑まんとアイツらの勝利を否定する事になるんか……?」


「私は一度間違えた……いや、今日に至るまで間違い続けたのだ。きっとこの先もそれを続けていた事だろう……お前が居なければ。恐れず、導き、正してくれたお前こそ、紛れも無く王の器なのだ」


 ライデンは産まれて始めて父から尊敬の眼差しを向けられている事に感動を覚えていた。


(初めてや、俺にそんな目ぇ向けるんは……)


 ライデンは心を決めた。父に応えねばならない。それが礼儀というものだから――。


「……解った。第8第国王、このライデン・パラナペスが引き受けた!!!」


「ああ、ありがとう……!」


「――てな訳で早速、国王命令や!」


「……?」


「マキア・パラナペス――あんたをノヴァ王国第9第国王に命じるで」


「な?!」


「なんや、国王様のご命令が聞けんっちゅうんか?」


「な……こ、この……子供みたいな……!」


「そりゃそうやろ、俺はあんたの子供や」


「!」


「 “ まつりごと ” なんて分からへん、 “ 商い ” やってよう知らん――」


「それなら、これからちゃんと私が――」


「――それになあ! 今、おもろいねん! レイン・ロズハーツ……アイツの野望を見届けたい、あわよくば俺も着いていきたい。そう思ってしまっとるんや……せやから、それが終わったらちゃんと話そや。それまでは親父が――今度こそ正しく、国を護ってや」


 ライデンは父へと拳を突き出した。マキアは数刻の思考の末に唖然とした表情を穏やかな微笑みへと変え、己の拳を突き合わせた。


になったな、ライデン」


「伊達にあちこち飛ばされてへんからな」


 この日、二人は初めて本当の親子になれた気がした。



***



 現在に戻り、王城ではミルドレア国王とパラナペス家が顔を合わせていた。ロズからはドロスやレイン、ノヴァからはマジュールやジャンバッカも見守る中、二国の王が言葉を交わす。


「遠路はるばるようこそ、ロズへ。ドロスより報告を受けておる、大変じゃったのお。王家も民も、よく耐え抜いたものじゃ」


「全ては国民のおかげ。我々はただ座していたに過ぎない……」


「ほっほっほ、謙遜なさる……」


 理由は何であれ先に奇襲を仕掛けてきたノヴァに対し温かく微笑むミルドレアの器の広さは、強ばっていたパラナペス王家の心を優しくほぐしてくれた。この会談の議題は『ロズ王国とノヴァ王国間での同盟について』と『 “ 対グリンポリス帥国協同作戦 ” について』。前者については今回ロズ王国騎士団の総力を貸す代わりに、作戦勝利の暁には永続的な貿易協定を結ぶ事で採決。ノヴァの豊富な鉱物資源はもちろん有用だが、様々な国と繋がりのあるロズにとってそれを得られるメリットはさほど重要では無い。寧ろそれを建前として、他国との繋がりを失ってしまい苦しんできたノヴァの国民にロズの特産品を与えられる事の方が有意義であった。また、大陸規模で信頼を寄せられているロズが貿易相手となれば、18年前突如諸国との関係を断ったノヴァの信用回復に大いに貢献出来るとも考えていた。


「ミルドレア王よ、心より感謝申し上げる……!」


「良い良い。さて、本題に入ろうかのお。ドロスよ」


「はっ。では、 “ 対グリンポリス帥国協同作戦会議 ” を始めます」


 ロズ王国騎士団長ドロスを議長とし、8国を巻き込んだ大作戦についての会議が幕を開ける。


「なあ、ひとついいか?」


 まず手を挙げたのは “ 名誉最高騎士ロズハーツ ” レイン。


「魔法協会の力って借りられねえのかな。ほら、ノヴァの反乱の時はまだロズが全面戦争を吹っかけられた訳じゃねえから、俺たちだけで先回りしようって話だっただろ? でも今回はノヴァが……いや、6個の国が支配されてるって大事おおごとだろ? どうにか力を貸してもらえねえのかな」


「それは難しいだろうね」


 ドロスは残念そうに事実を伝える。


「まずこれはノヴァの国際問題であり、そのノヴァが協会非加盟国だからだ。ロズは加盟国だが今回我々は勝手に首を突っ込んでいる立場に過ぎない。それに現在ロズとノヴァが結んでいる同盟は正式なものでは無く、表面上のものに過ぎない。恐らくノヴァはグリンポリスと術式を介する正式な隷属契約を交わしているのだろう?」


「ああ、その通りだ……他国との友好条約はもちろん、協会との加盟契約も阻まれてしまう」


「魔法協会は世界を支える組織。影響力は強大だが、それ故に加盟国からの信頼が不可欠。全ての国に対し “ 支配 ” では無く “ 協力 ” を与える立場であり続けなくてはならないからだ。正式には加盟できず、加盟国との同盟も結べない。体裁を重んじる協会がノヴァに手を貸すことは出来ないだろう。当然他従属国も非加盟国にさせられているだろうしね。何より、これがまかり通っては加盟の有無など無視して協会は全ての国を侵攻出来る事になってしまう。あくまで加盟国の国際問題の手助けをする、それが魔法協会の立場だ」


「ふーむ、難しいんだなあ……それじゃあ、数の差はどうするんだ? こっちはロズ俺たちとノヴァだけ、敵は国6つだろ」


「動機がやや私情気味かつ納得のいく見返りも望めない故、友好国から軍を借りることも出来ないだろう。ノヴァの反乱軍のように、敵地で味方を増やす事も叶わないだろうし……」


「いや、それが出来るかもしれないのだ」


「「「?」」」


「グリンポリスの従える5つの国―― “ モユルフォノー共和国 ” 、 “ ウルオス共和国 ” 、 “ モクモ共和国 ” 、 “ ピカキラー共和国 ” 、 “ クラクロイ共和国 ” ……そこに我々ノヴァを加え、グリンポリス帥国にて定期的に “ 七国会議 ” が行われていたのだ。そこで元首らと意見交換を行い、裏で各国の理念を聞き出していた。結論から言えば、派閥は二分されている。我々と同じく支配からの脱却を望む者と……対極に、様々な理由からグリンポリスへの忠誠を誓う者……!」


「……つまり、前者は我々の味方に引き込めると?」


「恐らくは。上手くいけば、兵力差を均等に出来るだろう」


「『上手く行けば』、か……」


「現状、この兵力差では話にならない。ある程度賭けに出てでも味方を増やすべきだろう」


「……そうだな、マルカトロス。よし、その方向で進めよう」


 会議は順調に進んでいく。同時刻、敵も同様に卓を囲んでいる事は知る由も無く――。



***



 グリンポリス帥国 “ 央都おうと ” ネメシティ。グリンポリスは加盟国へ諜報員を送り込む事で、 “ 破壊の天術使 ” レインの訃報がノヴァの偽装工作である事を既に知り得ていた。ノヴァの反撃――最悪、そこにロズが合流してくる事を危惧したグリンポリスはノヴァを除く5国を招き、 “ 六国会議 ” を開いたのであった。


「――以上。こちらからの干渉はせず、攻撃があった際は迎撃する事で可決します」


 そう力強く宣言したのは総帥モス・カフス。その後ろ隣では防衛軍元帥ダルナゴアが腕を組み重々しく構えている。


「敵はまず外堀を埋めるでしょう。つまり我々よりも先に貴方達従属国を攻め落とす……そこでグリンポリス軍の精鋭を護衛として各国に配置します。特にモユルフォノーとウルオス――」


 モスは何かを察しているかのように鋭く冷たい眼差しを二国の元首へと向ける。


「――貴方々の軍事力は少々不安なので、より屈強な幹部を送ります」


「「はい……」」


 そんな敵の迎撃態勢も知り得ぬまま迎えた翌朝。ロズ・ノヴァ連合軍はモユルフォノー共和国行きとウルオス共和国行きの2部隊に分かれ、4機の飛行船で目的地へと飛び立つ。後に世界に知れ渡る大戦、勝つのは支配者か反逆者か――。

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