第11話「護りたいから」

 路地裏の闘い、開戦――。狭い通りをぶつかり合いながら抜け、3箇所に6人が別れた。ここはレインらの参じた噴水の広場。


(こいつの爆術……シノとはちげえ、一度に沢山爆発している……?!)

「お前、変な魔法使うな……何者なにもんだ!」


「私はA級爆術使ネビル・ダコンプ。お嬢様との特訓がありますから、手っ取り早く片付けさせてもらいますよ」



***



 所変わって時計台の広場。オルビアナは剣を抜き、精一杯の防御で応戦していた。


(く……この人の爆術、距離が長い!!!)


「このA級爆術使ボム・ソルジオ様に剣で向かってくるなんて、お前さんそりゃちと無謀だぜ?」



***



 舞台は戻ってベルクサンドリア・ギルド裏通り。他と違ってここはまだ戦場とは化していなかった。


「B級門術使ソフィア・パーカライズ。シノを下したその実力、見せてもらおうか!」


「――その前にあんたに2つ聞くわ……」


「?」


「あなた、どうしてシノとチノが上手く魔法が使えなかったか知っていたの?」


「ベルクサンドリアの血は元よりそういうものだ」


「そうじゃない! 私の仲間が神眼で視た。あの子たちは融為魔修磨路だった……」


「神眼……5日前に報告のあった騎士団の隊長か。そうか、なら次からはチノも特訓に合流させよう」


「! ……あんた、シノがどうしてあんなに苦しそうにしているか考えたことあるの……?」


「生半可な特訓はさせていない。体を壊してでも付いてきてもらわなきゃ困る」


「!! あんたがそうやって無茶させるから、シノは……――」


  “ 晶撃ジグソー・マズル ” ――ソフィアは背後に十数の魔法陣を浮かべ、一斉に結晶の欠片を撃ち出す。ソフィアは魔力が尽きるまで砲撃を続けた。無慈悲なまでに撃ち込まれるエメラルドの弾丸はレンガ道を抉り、敵の立つ辺り一帯に尋常ではない程の土煙を立たせる。それは風に乗り、距離を置いたソフィアまでも包み込んだ。


「はあ……はあ……」


「「ソフィア!」」


「はあ、はあ……――!!!」


 煙が晴れると既に敵の影は無い。サイはいつの間にかソフィアの背後に回り込み、拳に魔力を溜め込んでいた。


「しまっ――」


 決死の砲撃よりも遥かに強い爆撃がソフィアを襲う。


「「!!! ソフィア!!!!」」


 口から血と煙を吐き、ソフィアの体は吹き飛ばされた――。



***



 ソフィアを襲った爆発音は、レインのいる広場までよく届いていた。しかしそれに気づけない程、こちらでもとめどなく爆破が続けられている。


「そうか……解ってきたぞ、お前の爆術」


「ほお?」


「一発で何回も爆発させてやがる。だが一か所でそうしているわけじゃねえ。魔力を分散させているんだ。拳を振りかざした時、俺のすぐ側まで来た時、俺にぶつかった時、その直後、そして拳を振り切った後……今言ったよりもっと細かく、本来大きな一発に回すはずの魔力を数箇所に分けて小さな爆発を起こしている。爆破点が分かれているから防御の方向とタイミングが合わせづらかったんだ、だが解っちまえば難しくねえ」


「ふむ、なら見せてもらいましょう……」


 手の内を明かされたネビルは手だけでなく足にも魔力を分散させ、四肢で爆発を引き起こす。それは時に頭突く頭やレインの拳が撃ち込まれる腹にも。ただ敵を殴っていただけの先程とは打って変わり、洗練された体術に爆術を絡めてレインを追い詰める。


「 “ 破拳ダスト・ボックス ” !!  “ 壊脚ダスト・シュート ” !!!」


「はああああ!!!!」


 所々で泡が弾けるかの如く爆ぜ続けるネビルに、レインも攻防箇所に破壊を引き起こす事で対抗する。空気の割れる音と爆ぜる音が繰り返され、人気の無い広場はすっかり戦場らしく変貌を遂げる。


「く……強え!!!」


「破壊の魔術……非常に珍しいですが精度はイマイチですね」


「魔術? 天術だ、俺のは!」


「……??? ふっ、まさか!」


「何を! ……いいぜ、解らせてやんよ!!! 行くぞおらあ!!!」


 一切の瞬きすら許さない攻防の中で、先に隙を見つけたのはネビルの方であった。


「ここ!!」


 ネビルの拳は敵の懐に入る。それに合わせてレインは腹に魔力を回すが、爆発は想定よりも一瞬速く引き起こされる。


「!! しまった――」


 ここ一番の大爆発と共にレインは遠くへ飛ばされる。


(くそ……さっきまで合っていた打点と爆発をここでズラしてきやがった……!)


「はあ、はあ……終わりだ――」


 倒れるレインの元へネビルが歩み寄る。レインは強く手を着き、地面へ力を込めた後立ち上がった。


「 “ 破点マイン・ド・ブレーク ” ――」


 レインはネビルに合わせて一歩二歩と後ずさる。


「怖気付きましたか……」


「いいや。確かにあんたは強え、A級なだけあるぜ。真っ向勝負だと長引きそうだからな……ちょっと細工をさせてもらったぜ」


「何?」


 ネビルは最初にレインが飛ばされた地点に片足を付ける。


「――?」


 その時、足元から大きな衝撃音が響くと共に風が吹き荒れる。


「これは……?!?!」


 地面が大きく破壊されると共に、その衝撃波でネビルは吹き飛ばされた。


「破壊の罠だ――殴る時に空気を壊せるなら、力を設置して好きな時に破壊できるんじゃねえかと思ってな……ドロスとの特訓の時は結構失敗しちまったから、上手くいって良かったぜ」


 防御も間に合わず、破壊をもろに受けたネビルはそのまま倒れ込む。噴水広場の闘いは、搦手からめてによりレインが勝利を収めた。



***



 その頃、やはり防戦一方を強いられ続けるオルビアナ。こちらも神眼を開く事で敵の爆術の仕組みに気付いてはいたが、上手く対処が出来ずにいた。


(圧縮した魔力の中で割合を調整して距離を伸ばしているんだ……この人の爆術は普通の爆術とは違う、10歩以上間を開けてもこっちまで余裕で届く……!)


 それだけでは無い。神眼を開けば視力のみならず筋力も上がる。その状態で間を置こうとしても追いついてくるボム・ソルジオは、爆術のみならず身体機能もA級に相応しいという事だ。


「その眼……そうか、お前が革命軍を追い払ったとかいう神眼術使か!!! へっ、いくら眼が良くても、この程度の子供にやられちまうんじゃあ革命軍ってのもたかが知れてんなあ」


「くっ……!」



***



 ソフィアを始末しシノとチノの元へ向かうサイ。しかし背後に闘志を感じ取り立ち止まる。


「……まだ立つか」


 振り返らずともわかる、敵は掠れかけた魔力を振り絞って数個の魔法陣を展開しこちらを狙っている。


「はあ、はあ……!」


 決死の思いで結晶を撃ち出すも、サイには意図も容易く振り払われてしまう。


「まだ……――」


「何故そこまでする?」


「シノとチノは……私の友だちだから!!」


他人ひとの教育方針に首を突っ込まないで欲しいもんだ……」


 サイはソフィアへ振り返り、最後の一発を見舞おうと力を溜める。


「もうくたばれ、門術使ィ!!!」


「―― “ 崩撃ブレカノン ” !!!」


 空気を割って一方向に伝うひびの中距離攻撃、それはソフィアへと振り下ろされたサイの拳を遮った。


「何だァ……?」


「ソフィア、負けんな!!!」


「レイン……!」


「お前は確か……そうか、ネビルを破ったか。やるな!」


「オルビアナはまだか」


「もう一人の金髪のガキは手こずるだろうな、あれは見たところ武術使だろう。ボムは爆術による射撃を行える特異な術使……同じ爆術による相殺が出来なければ対処は難しい」


 サイの言葉を聞いたソフィアは立ち尽くすシノとチノへ呼びかける。


「シノ! チノ! オルビアナの援護に!」


「「! でも……」」


「私は大丈夫、まだまだれるわ……!」


「俺からも頼む、オルビアナを手伝ってやってくれ」


 二人の信頼を受けたシノとチノはオルビアナの闘う時計台広場へ走り出す。それを見送りサイは改めて不敵に笑う。


「いいのか? 戦力を削いで」


「問題ねえよ、俺とソフィアで――」


「待って、レイン」


「?」


「私ひとりで闘わせて……!」


「ソフィア……分かった、絶対勝てよ!」


 大杖を構え改めて姿勢を持ち直したソフィアは、サイを強く見据える。


「その目……まだ何か隠し持っているのか、面白い!」


 レインの見守る中、再び戦いの火蓋が切られた。


「 “ 晶壁ピース・ピース ” !!!」


 ソフィアはサイの周りの地面に6つの魔法陣を描き出すと、結晶を固めたエメラルドの壁で敵を囲った。


「この程度……ん?」


 壊しても壊しても壁は形成され続ける。ソフィアは攻撃する事無く、ただひたすらにサイを囲い続ける。


(魔力を消耗させるつもりか? だがそれもいつまで続くかな?)


 サイは四方八方に展開され続ける壁を爆破し続ける。残り僅かな魔力を絞り出すソフィアに対し、彼は全く消耗の兆しを見せない。


「まだまだ……!!!」


 サイにとっては度し難い状況であった。段々硬度を失う壁は、ソフィアの限界を顕著に示していた。それなのに防戦一方……否、こちらは攻めてすらいないというのに、何故防御魔法を繰り出し続けるのか。壊しても壊しても次の壁がある、その外で敵が何をしようとしているのか把握出来ない以上、サイの警戒が緩む事は無い。続く理解し難い戦法に拳は怒気も帯びていく。そして遂に次の壁が現れなくなり、視界が開けた――。


「――な、これは……?!」


 全ての壁を打ち破ったかと思えば、粉々に砕かれた壁の欠片が空間一体に浮かび、その先端をサイへと向けている。


「私の出した結晶は、魔力の繋がりを途切れさせない限り操れる……! あんたが細かく壊すほどその欠片は細かく増える! 今辺りに浮かんでいるのは、壊された壁の欠片! この量、防ぎ切れるかしら……?」


 サイの額に初めて冷や汗が浮かぶ。しかし恐怖は無い、挑発的な笑みを浮かべソフィアの決死の猛攻へ挑戦する。


「来い、ソフィア・パーカライズ!!!」


 辺り一帯に充満したエメラルド色の弾丸の雨がサイへ放たれる――。



***



 上手く距離を取り切れず爆撃に見舞われるオルビアナ。


「諦めな! ギルドで俺に勝てるのは、サイの旦那だけだ!!!」


 勝ち誇るボム。その死角から彼を襲う大爆発――。


「?!?! 何だ?!?!」


「!! シノちゃん、チノちゃん?!」


 そこには手を合わせ爆破を繰り出した爆術使の双子の姿があった。


「イテテテ……おいおい、俺はお前たちの先生だぜ? おいたが過ぎちゃあ旦那の娘といえ見過ごせねえなあ!!」


 ボムは辺り一帯に大爆発を引き起こそうとするも、シノとチノが共に爆術を繰り出す事でそれより遥かに強い爆撃を生み出す。


「そうか……爆術は火薬による爆破では無くあくまで圧縮した魔力の破裂。そのぶつかり合いは単に破壊力を掛け合わせるのではなく、属性同士の反応による相殺に持ち込める……!」


「「今ですオルビアナ様!!!」」


「オルビアナ……しまったガキの方は――」


 オルビアナは既に時計台の上へ飛び乗り、強く大弓を引いていた。


「くそ、爆風でかき消して――」


「「させません!!!」」


 ボムの爆破と全く同じ強さの爆術を引き起こす事でシノとチノは相殺に持ち込み続ける。すっかり凪いだ戦場に、オルビアナの放った矢は真っ直ぐ敵へと向かう。


「くそおお!!!」


 そのやじりには少量の火薬が仕掛けられており、目の前で引き起こされた想定外の小爆発にボムは気絶してしまった。


「あぶぶ……――」


「やった!!!」


「流石ですオルビアナ様……!」


 オルビアナは時計台を飛び降り双子の元へ駆け寄る。


「シノちゃんとチノちゃんのおかげだ。ありがとう!」


「……チノのおかげです」


「お姉ちゃん……?」


「私の体は魔薬ニコでボロボロのはずなのに……これだけの力を出せたのは、チノが純粋でいてくれたおかげですから」


「……それでも、君たちふたり揃ったからあんな強敵に勝てたんだ。ありがとう。チノちゃん、シノちゃん!」


「「……はい!!!」」


 A級術使の爆術を相殺するというシノとチノの離れ業により、時計台広場はオルビアナらの勝利で幕を閉じた。



***



 裏路地へと場面を戻せば驚く事に、サイは至る所に傷を負い満身創痍寸前という状態であった。降り注ぐ鋭利な雨から身を守るために腕を交差させた体勢のまま、地面を睨み荒い呼吸を続けていた。


「はあ、はあ……中々、やるじゃねえか……はあ、はあ……」


 彼へ大杖を向けるソフィアはと言うと、息を切らしてはいるもののサイほど辛くは見えなかった――否、見せていなかった。


(ソフィアは、もう――)


 秘覚によりレインだけは既に気づいていた。ソフィアの魔力は空に等しい。これ以上術式へと捻出すれば生命維持に必要な魔力まで奪われ、死に繋がりかねない。そんな極限状態に陥りながら、彼女は震える手足を止め気丈に振舞っていた。


(私にはもう何も無い……次に仕掛けられれば防ぐ術も無い……アイツが防ぎきれなくて良かった。後はこうして余裕そうに立って、まだ手の内があるように見せかけることしか出来ない……お願い、もう何もしてこないで……!!!)


 彼女の祈りも虚しく、全身に力を込め刺さった結晶を抜き落としたサイはソフィアに向かって歩き出す。ソフィアは無言で、ただ相手を睨む為に目の周りに力を集めるのが精一杯の抵抗であった。


「はあ、はあ……お前はよくやった、もう倒れろ……」


 流石のレインも言いつけ通りに見過ごす訳にはいかない、拳を握りしめサイへ向かおうとした――その時。


「「お父さん!!!」」


 全員が声の方向へ向き直った。そこには手負いのオルビアナに肩を貸して歩くベルクサンドリア・シスターズの姿があった。


「はあ、はあ……シノちゃんとチノちゃんが倒したんだ、爆術使を……!!!」


「……馬鹿な、ボムをお前たちが……?」


 オルビアナが自身を支えてくれている双子へ目を配ると、シノとチノは優しく彼を立たせ父の元へ駆け寄った。


「お父さん、もういいよ……!!! お母さんが居なくなって、次に自分までいなくなったら私達をふたりぼっちにしちゃうって……そう思ったから、焦って強くしてくれたんでしょ?!」


「チノ……!」


「私、お父さんの期待に応えたかった……その為に、魔薬ニコを飲んでいた……」


 そう言ってシノは胸元からまだ開封してない瓶を取り出し、その怪しげな液体を父へと手渡す。


魔薬ニコ……?!?! ああ、俺は……俺は……!!!」


「私の魔修磨路はもうボロボロだけど……チノと一緒なら、あの強い人にも負けなかったんだよ……?! 私たち、もう弱くは無いから……これからはまた、お母さんがいた時みたいに、仲良く暮らしたいよ……!!!」


 シノの不調の正体を知ったサイは大いに泣き喚いた。自身の無知と非力さと、その歪んでしまった傲慢を嘆き、娘らを抱きしめた。


「すまない、すまなかった……!!! 許してくれ……いや、許さなくていい、憎んでくれ……シノ、チノ……!!! いつしかシノを強くする事がお前たちを守る為じゃなく、ギルド長マスターとして、それを受け継いできたベルクサンドリア家の当主としての意地になってしまっていた……!!! 俺は出来の悪い父親だ……ごめん、ふたりとも……!!!」


 シノとチノは、何も言わずに抱きしめ返した。解決を悟ったレインら3人は数年ぶりに父親と抱擁を交わし微笑む双子と目配せすると、踵を返し路地裏を去っていった。それを見届けたシノはチノと目を合わせた後、父親へと語りかける。


「お父さん、久しぶりにわがまま言ってもいいかな……?」


「ああ……! 何でも言ってくれ……!」


「……あの3人を、 “ A級 ” に昇格させてあげて」


 ――こうしてA級爆術使らと対峙し各個撃破・善戦を果たしたレイン、オルビアナ、ソフィアら3人は、ギルドの枠を超え魔法協会直々の預かりとなる “ Aクラスギルダー ” として認められた。それと同時にレインの “ 破壊の天術 ” 、オルビアナの “ 神眼 ” も世界へと公表される事になる。そしてその情報はすぐさま魔法協会本部、加盟各国へと届いた――。



***



 ――ここは中央大陸モノリスにある魔法協会本部、最上階 “ 代表室 ” 。


「ようやくね。待っているわよ、レイン・――」



***



 ――世界のどこかにある “ 革命軍 ” 本拠地。情報を掴んだ総長〈剣神〉イワンは何を思うのか。


「オルビアナ……」



***



 ――そしてここはロズより北上したところに位置する島国 “ ノヴァ王国 ” 。人呼んで “ 砂の王国 ” と言われるこの国で、次なる影が動き出す。


「驚くべき事に、ロズに天術使が現れたようだ。不穏分子は早急に払うべき……ライデン」


「――はっ」



***



 次の闘いの幕が切って落とされたとも知らず、ソフィア宅で祝杯をあげるレイン一行。


「ではでは、俺たちの勝利に――」


「「「乾杯かんぱぁい!!!」」」


 その時、電話機が鳴り響く。


「ちょっと、こんな夜に一体誰?」


 ソフィアが渋々受話器を取ると、なんとその相手は魔法協会ロズ王国支部であった。


「……はい。はい……!! はい。はい!! ありがとうございます……!」


 受話器を置いたソフィアにレインが声をかける。


「誰からだ?」


 ソフィアは背中を震わせ、満面の笑みで二人に振り返る。


「私達3人、A級に昇格だって……!!!」


 レインとオルビアナは互いに顔を見合わせ、大いに喜んだ。


「「やったー!!!!」」


「やったね、レイン!!!」


「ああ、遂に、遂にだ……アリア・ベル・プラチナム、まずは一本道が繋がったぜ……!!!」


「これでレインは正式に “ 名誉最高騎士ロズハーツ ” に認められるのね、おめでとう!」


「ああ!! これで国外にも足を延ばせるようになる。それで四天王と会えれば、いずれは代表と面会するチャンスが来る……!!」


「僕はレインの相棒として、どこまでも着いていくよ。僕の兄……革命軍総長イワンの手がかりも得られるかもしれないしね」


「ああ。ソフィアは、何かやりたい事あるのか?」


「僕たちは本格的に魔法協会代表に会う為の旅を始める事になるから、ソフィアとはしばらくお別れかもね……」


「! そうか、寂しくなるな……」


 寂しげに俯くレインとオルビアナに、ソフィアは溌剌はつらつと声を上げる。


「何言ってんのよ。私も着いていくわ、その旅」


「「……ええ?!」」


「私、決めたの! 魔薬ニコを流す元凶を突き止めて、叩きのめすって!!!」


 それは未だ魔法協会ですらなし得ていない無謀な挑戦であった。


「ソフィア、すげえ目標だな……」


「……シノとチノを見てたら、嫌でもそう思うわよ。あんな罪の無い子達の弱みに漬け込む悪人達を、私は許さない……! これからもきっと、あれに手を出してしまう子供たちは増えていく……それは決して興味本位とは限らない、シノみたいに頼らざるを得ない状況に陥っている子供たちだって大勢いるはずよ……!」


 ソフィアは拳を握りしめ、強く誓った。


「私は、世界中の子供たちを悪い大人たちから護る “ 盾 ” になる! だから魔薬ニコの手がかりを探す為にも、貴方たちの旅に同行させて。レイン、オルビアナ!」


 二人は驚きはしたものの、決して笑いも否定もしなかった。仲間が強く誓った想いを結ぶ為にも、彼女の差し出した拳に自分たちの拳を優しく重ね合わせる。


「決まりだな。どんな冒険が待ってるか!」


「どれだけかかっても、必ず叶えてみせるわ!」


「でもロズから出るってなると、やっぱり厳しい闘いも増えるよね」


「どんな敵が来ようと関係ねえ……全員、ぶっ壊してやる!!!」


 仇と再会する為、兄と再会する為、摩の手を挫く為……各々の目的を胸に、ロズ王国を越えた物語が始まる。

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