第8話「眼は何を視る」

~翠歴1424年7月3日~


 時刻は午前4時を回った頃。昨日と今日の境を付けるならうってつけの時間に、寮の外へと駆け出す影が一つ。


「はっ……はっ……はっ……」


 レインは昨日明かされた相棒オルビアナの過去について、しばらく考えていた。その事実は一夜明け、修行の一環として今日から始めたこの早朝ランニングの最中でさえ思い出してしまう程で――。


――『僕の家は4人家族だったんだ。王都からは遠い田舎町で、仲良く平和に暮らしていたよ……でも13年前、突如現れた悪魔にみんな殺されてしまったんだ。僕と、僕の兄を除いてね。僕も生きるか死ぬか分からないほどの怪我を負ったよ。おまけに右目は失明してしまったんだ。残された兄さんはただ独りで懸命に戦って、最後には悪魔を追い払ってくれたんだ。そして兄さんは僕に自分の右眼を移してくれた。それが “ 神眼 ” 。兄さんのおかげで僕はまた両目で光を感じられるようになったけれど、兄さんは片目を失ってしまった……』


 つまりオルビアナの神眼は元々彼のものではなく、譲渡されたもの。そして神眼の元の持ち主にして、現在は隻眼となっている眼術使――。


――『前 “ 四天王 ” 〈剣神〉イワン。実は、僕の兄なんだ……! ――目が覚めた僕は王都の教会に預けられていた。兄さんとは、あの夜以来一度も会っていない。顔を見せてくれないんだ……でもそれからしばらくして、左目に神眼を持つ剣術使が四天王に入ったって話題で街は持ちきりになったんだ。それで僕は兄さんが協会に入った事を知った。きっと兄さんは、僕を守る為に地位も力も手に入れてくれたんだ。兄さんきっと僕に悪い事が起こる前に、僕の見えないところで戦い続けてしまうから……僕が弱いままじゃ帰ってきてくれないだろうから……! ……だから僕は騎士団に入ったんだ。強くなって、国に名前が広まれば兄さんはきっとまた会いに来てくれるはずだから――』


 レインはオルビアナとイワンに自身と姉を重ねていた。


(ユニねえ……俺が弱かったせいで、もう帰って来れないんだもんな……)


 もうすっかり夏だというのに、吹き抜ける風はどこか冷たかった。



***



 広大な寮の敷地をぐるりと走り、レインの体は朝から十二分に温まっていた。


「さて、もう一周……――?」


 違和感を察知したレインは寮の敷地入口、巨大なゲートの方へと目を向ける。なんとそこには黒いローブを羽織った大群がぞろぞろと押し寄せてきていた。


「な、なんだあぁぁあ?!」


 謎の大群は留まる事を知らず寮めがけて駆け寄ってくる。不審な装い、手に持った武器、殺気、おまけに――。


「……あ!!! 昨日の奴じゃねえか!!!」


 先導する4人のうち1人は、昨日廃墟にてレインと殴り合いをした男であった。


「てことは、隣の3人が昨日隠れてた奴らか……!」


 ゲートから寮までは全力で走っても今すぐには着けない程度の距離がある。連中の正体を確認したレインは敵が着く前にドロスらを叩き起しに向かう。


「敵襲だ〜!!!」


 レインは東西南北4つの寮の中心にある鐘を鳴らし、無理やり騎士らの目を開けさせる。


「まずい!! アイツらもう着いちまうぞ?!」


 その時、どこからともなく男たちの悲鳴があちこちで響く。


「?!」


 先の場所まで戻ってみると、寝巻きのままのドロスやマルカトロス、各隊長らが連中を圧倒していた。


「みんな!!」


「おはようレイン君、今朝はやけに物騒な目覚ましだね! やれやれ、この人数でここまでやって来られるとは、夜間警備兵も皆倒して来たのだろうねえ……!」


「おいロズハーツ、なんなんだこいつらは?」


「ドロス! マルカトロス! そいつら、多分オルビアナの “ 眼 ” を狙ってる!!」


「オルビアナの……?! まずい、彼はまだ来ていないんじゃないか?!」


 ドロスの言葉と視線から目的の居場所を察したのか、大群の中から抜け出すように一人の男が東棟へと駆け込んで行く。


「あ、待て!! ――」


 追いかけようとするレインに見覚えのある男が立ちはだかる。


「昨日の……! てめえ、名乗りやがれ!!」


「いいだろう……俺は “ アトラ隊 ” フォウル・エンソー! 昨日のようにはいかないぞ……!」


 そう言うと彼の手元が昇りかけの朝陽に煌めく。昨日は指元に金具をはめているだけであったが、今回はの付いたグローブをはめている。


「……ほお?」


「行くぞ、天術使ィ!!!」



***



 華麗に敵戦力を削いでいく団長ドロス。


「個々の戦闘能力はさほどでも無いが、いかんせん数が多いな……」


 かの〈刀達天〉に対し当然の如く誰もが手も足も出ず倒されていく中、それでも無謀に立ち向かっていく者たち。そんな彼らの合間を縫い、悠々とドロスの元へ向かって行く一人の少女の姿があった。


「どいて……私がる……」


「ア、アノネテワさん!!」


「ん? 女の子……? まだ幼いじゃないか」


「女の子じゃない……こう見えても大人……」


「……つまり、私の敵なのかな?」


「そう、 “ アトラ隊 ” 副隊長アノネテワ・クレンカ…… “ 眠れリパライゾ ” ――」


「アノネテワさん?! 流石にこいつにその魔法は――」


「……ん? んんん……? ……んん……クカー、スゥー……――」


 なんとドロスは立ったまま眠らされてしまった。


「「「ほ、本当に寝た〜!!!」」」


  “ 眠れリパライゾ ” ―― “ 一般魔法 ” の一つで、成功確率は対象の睡眠欲と精神力に大きく左右される。故に大国の騎士団長ともあろう男がこれに掛かるだろうとは誰しもが思いもしなかったのだ。


「くそ、こいつら……! ドロスの弱点が過労を代償に得てしまった睡眠欲の強さだと知っていたのか……!!」


 連中は皆「(知らねえよ!)」と心の中でマルカトロスに唱える。そして剣を構えたまま鼻ちょうちんを膨らませる〈刀達天〉を囲い、今が好機とばかりに襲いかかろうとする。


「まずい、ドロス!!!」


 援護に向かおうとするマルカトロスを遮るように、彼の首に向けて刃物が振りかざされる。


「――!」


 マルカトロスは瞬く間に抜刀、それを食い止める。


「……斧か」


「オレノア・コノーノ、 “ アトラ隊 ” の斧術使ふじゅつしだ!!! オデと勝負しろ、マルカトロス!!!」


「俺を知っている上で挑むとは、マヌケに拍車がかかる――」



***



 一方、騎士団寮東棟。流石の喧騒に目を覚ましたオルビアナは慌てて部屋の扉を開ける――そこには背の高い長髪の男が立っていた。


「――!!!」


「お前で合っていたかな?  “ 神眼 ” の眼術使――」


 オルビアナはすかさず大弓を手に取ると窓に背を向け勢いよく飛び出す。窓を割って脱出し、そのまま部屋の中にいる男に向けて矢を構えた。


「流石の速さだ! 撃ってみると良い」


「?! ……!」


 オルビアナはありったけの魔力を込め矢を放つ。しかしそれはいとも容易くアトラの指先につままれてしまった。


「な……?!」


「だめだだめだ、それじゃあ当たらない……!」



***



 場所は戻って東棟入口付近。茨のグローブをはめたフォウル・エンソーは、その無秩序な拳をレインへと振りかざす――。


「くたばれぇ!!!」


「ふん!!!」


 レインが軽くはたいてあげると、グローブは速度ごと崩れ去りまたもや本体の腕まで大怪我を負わせる。


「なにィ?!?!」


「もうお前の得物は壊した事あるからな。それに、棘っていうのはなんだ」


「な……!」


「ちょうどいいや、俺のも食らってみな……―― “ 破拳ダスト・ボックス ” !!!」


 腹を突いた正拳は、周囲の空気に衝撃波と共に亀裂を伝える。フォウルに対して与えたのは “ 破壊 ” という概念そのものでは無い。それを爆発的な推進力とした、強化型の物理攻撃である。


「何もねえ所も “ 壊せる ” のは何回も見たからな。まだ壊せる物には限りがあるが、何かを壊した時のエネルギーを別の攻撃力に上乗せできりゃあ強えだろ!」


 敵は既に腹を押さえたまま気絶していた。


「……ま、いいや! 遂に俺だけの力で、一勝だァ!!!」



***



 大勢の敵に囲まれたまま立ち寝してしまったドロス・リーデル。


「い、今だ、やっちまえ!!!」


「「「うおおおお!!!」」」


 各々武器を構え団長へ飛びかかる。


「クカー……スゥゥー……クカー……――!」


 敵の武具がドロスに掛かろうとしたその寸前。彼の “ 秘覚 ” ……否、長年幾百もの戦場を潜り抜けたことで培われた “ 直感 ” 、 “ 本能 ” とも言い表せるそれが、周囲を薙ぎ払う一閃を繰り出すよう眠る体に命じたのだ。


「「「ぐあああ!!!」」」


「スー……んむ……? おや……?」


 突如自身の体が大きく動けば、流石の彼も目を覚ます。


「んー……はぁー! いやはや、こんなに何も考えずに入眠出来たのは何年振りだろうか! 貴重な時間をどうもありがとう、お嬢ちゃん」


「あ……そんな……」


 狼狽えるアノネテワ。その背後に一瞬で周り込むと、ドロスは手刀で首を叩き眠らせた。倒れゆくその体を優しく地面に寝かせると、ドロスは改めて周囲の大群を見回す。


「さて……今日の朝礼は少し遅めにしよう! 今はとっとと終わらせて、二度寝がしたい……!」


 刀を突きの姿勢で目の前の敵へ構えると、再び辺りを舞い散らすのであった。


「ドロス、冷や冷やさせるようならやはり引退はすぐだな……」


 よそ見しながら冷静に呟くマルカトロス。その足は素早く動き、手は無意識に身を護るよう敵の攻撃に的確に刀を合わせていく。


「くそォ、なんでオデの斧が……!」


「……ああ、まだ戦っていたのか」


「なんだどぉ?!」


「この程度では子供たちの朝の体操にも及ばない。貴様と戦うくらいじゃスタンプは押して貰えないな」


「ナメんなぁあ!!!」


「ふん」


 マルカトロスは微々たる力を込め刀を振り上げ、振りかざされた斧を尽く破壊する。そのまま頭上から峰で頭を思い切り叩かれ、オレノアは倒れていく。


「こ、これが……〈千本刀〉のマルカトロス……」


「ふん。貴様程度では俺どころか、うちの見習いとすら勝負にならんだろう」



***



 外の幹部らは沈み、残すはオルビアナの目前に控える大将のみとなった。


「誰なんですかあなたは! 一体何が目的で――」


「―― “ 眼 ” だよ」


「――!!」


「俺はアトラ。アトラ・バンドイット。 “ 革命軍 ” アストレア大陸東部部隊のリーダーだ。少し前までブルガリスに少数で潜伏していたのだが、そこでロズとブルガリスそれぞれの騎士団長の交信の傍受に成功した。そして聞いたのだ。『ロズに現れた天術使と “ 神眼 ” の騎士』を組ませると。そして遂に見つけたのだ……! 念願の “ 神眼 ” の眼術使を!!!」


「どうしてそこまでこの “ 眼 ” に執着を……!」


革命軍うち総長ボス使


「――?!」


総長ボスには右眼がない。理由は話さはい。だが神眼にはこんな言い伝えがある、『同時期に一対しか存在しない』と……つまり、右眼と左眼が別々の人間に宿る可能性があるんじゃあないのかと思ったのだ」


「……ボスの名は?」


「言うわけが無かろう。あと、ファミリーネームはそもそも軍の誰も知らない。総長ボスは表で名を馳せていた頃からひた隠しにしているからな」


 オルビアナは確信していた。 “ 総長ボス ” は兄だと。だが、分からない事が多すぎる。


「 “ 革命軍 ” は、都市伝説か何かじゃ……?」


「だったら王国騎士団様に大群率いて奇襲をかけたりはしないだろう。受け入れろ、これが運命さだめだ。さあ大人しく “ 眼 ” を渡してもらおう」


 オルビアナは考えていた。返すのは簡単だ。これは兄のものなのだから、返してもいいくらいだ。しかし――これは兄に繋がる手がかりだ。 “ 革命軍 ” ……詳細不明、架空の団体とすら噂される謎に包まれた軍の実在が明らかになり、更にそのトップに兄が立っている事が解った。協会大幹部から退いて裏の組織の頭となり、イワンはどこか変わってしまったのだろう。しかし、いくら変わったとはいえ自分に与えた “ 神眼 ” をわざわざ回収するだろうか。否、少なくともオルビアナの心に残っている記憶が形作る兄は、そんな事はしない。だからといってそれを目の前の敵に理解して欲しい訳では無い――。


「倒す――そして、聞き出す……!」


「ほお?」


 次から次へと矢を放ち、文字通り『数打ちゃ当たる』戦法をとる。しかし量で質を犠牲にしている訳ではなく。その一撃一撃が至極丁寧なものであり、込められた魔力も矢に練り込まれた術式も見事なものであった。


「流石だ、だが――」


 やはり矢はアトラには当たらない。足も動かず首だけ動かし躱されたり、指でつままれたり、はたかれたり――。


(相手は戦闘慣れしている……だけどそれだけじゃない!僕が矢に掛けている加速の術式が解かれている!!)


 オルビアナは覚悟を決めた。


(――使おう。 “ 神眼兄さんの力 ” を……!)


 アトラはすぐさまその異変に気づく。


「出すか……!」


 オルビアナは目を閉じ、深く息を吸う。握り込まれるような激しい痛みが心臓に走ったかと思えば、右眼の周りにドス黒い筋が描かれていく。激痛に呻き声を上げながら、青い瞳は徐々に虹色へと変貌を遂げてゆく。


(痛い……! やっぱり、僕のものではないから……兄さんから貰ったものだから、体が合わないんだ……)


 それでも右眼は確かに神のものとして開花する。オルビアナは痛みに耐えながら、敵を見据える。


「神の眼か、これが!! ――なんだ、足が震えて……」


 アトラは震えていた。武者震いでは無く、喜ぶ魂に呼応しての事だった。自身が仕える主へと手渡す土産が、目の前に確かに在るのだから。そして今、その力を振るおうとしているのだから―。


「どうだ?! 何が視える?! 何を視る?!」


 オルビアナは再び弓を構える。


「ふー……」


 口元から青い火を吹くかのごとく、冷たく、しかし明確な意志を持って敵を見据える。


 パッ――


 ――っと手放せば、矢は思い通り敵の左肩を貫く。


「!! 何故だ……?!」


「そうか、あなたも “ 眼術使 ” だったんだ……!」


「そうかそうか、視えているのか……! ご名答、これは “ 魔眼 ” ――『視た術式を打ち消す眼』……さっきからお前が矢に込めていた『加速する術式』を打ち消していた……だが、どうして今は――」


「わからない……でも、通る気がした」


「勘、か……」


  “ 天眼 ” ……特に “ 神眼 ” はその希少さ故に不明瞭な点も多い。そして全く知られていないのが、眼同士の相性関係である。じつは属性同様、眼にも強弱の相性があるのだ。そして全ての眼の神たる “ 神眼 ” は、視た眼の力を封じる――。


「おもしろい、ならば魔の眼なぞに頼らず、正々堂々神に挑もう!!!」


 アトラは背の太刀を抜いて窓を潜り、晴天の下でオルビアナに近接戦闘を挑む。


(視える……! 次の動きを、魔力の流れが教えてくれる……!)


 オルビアナの視界は、常人の視る景色それとは比較にならないほど鮮やかに色づいていた。それが魔力であり、これを視られる以上、根源を魔力とするこの世の全ての流れは彼に容易く読まれる。もちろん、読めたとて打ち勝てるかは術使の技量に依存する。謎に包まれた大組織 “ 革命軍 ” ――そこで術使の聖地たる東大陸を担える程の実力者たるアトラに剣と剣の接近戦で優位を取れているのは、紛れもなく神眼抜きにしたオルビアナの鍛錬の賜物なのだ。


「うおぉぉぉおお!!!!」


「うおらああ!!!!」


 数刻の斬り合い、それを制したのはオルビアナであった。途中からは眼など関係なかった。そしてそれをアトラも理解していた。


「これが、ロズ王国の騎士の実力か……!」


 道にうつ伏せたアトラに背を向け正面広場を覗くと、レインやドロスらが敵の軍勢を掃討した後であった。


「お! オルビアナー!」


「レイン! 良かった……暴走せずに勝てたんだね!」


「ああ。ちょっと歯ごたえ無かったけどな」


「ふん。この程度の敵相手に満足されては、騎士の末端すら務まらん」


「てめえは一々うるせえぞマルカトロス!」


「事実を言ったまでだ」


「まあまあ! 良いじゃないかお二人さん」


「「ドロスは戦闘中に寝るな!!」」


「! ……はっはっは!!!」


 犬猿のようにいがみ合うレインとマルカトロス、笑うドロスに勝利に浸る騎士団。そうこうしているうちに、完全に朝日が昇る。赤く優しく陽の光に包み込まれ、戦場はロズ王国騎士団の完勝で幕を閉じたのであった。



***



 太陽が真上に昇り、レインらは改めてオルビアナの過去と彼の兄について話し合った。そして実の所、ドロスだけはこの件についてある程度情報を把握していたのであった。


「前にレイン君がアリア代表の話をした時、『協会上層部にロズ王国出身の者がいた』、そして『5年前、協会を退いた彼の勇気ある告発により我々は代表アリアの本性を知り得た』と話しただろう。実は彼がイワンだ」


「な……!」


「ドロス、俺も知らなかったぞ」


「すまないマルカトロス。それに、オルビアナも……黙っていて欲しいと言われていたんだ。君の言う通り、イワンは君の事を大層心配している。四天王になって尚キルパレスの名を隠し続けたのは、君を守る為だったんだ。名のある自分を陥れる為、家族が良からぬ者に利用されないように。そしてもうひとつの神眼の行方として、真っ先に考えられるであろう残されたたった一人の家族の存在を明るみにしない為……」


「やっぱりそうだったんですね……」


「なあドロス。 “ 革命軍 ” ってのは一体何してる奴らなんだ」


「それは分からない。恐らく革命軍が本格的に動き始めたのは、5年前に協会を抜け一度ロズへ戻ってきた後のことだろう。だが、彼らもまた協会に対して何か考えがあるのかもしれないな」


「だってよ、オルビアナ。どうする?」


「僕は……兄さんに会いたい。そして、強くなった自分を見せて、安心させてあげたい。もう戦わなくてもいいんだよって……」


「……そうか」


「よーし、オルビアナ。決まりだな」


 レインはオルビアナへ拳を突き出す。


「俺は魔法協会代表アリアに会う為、お前は革命軍総長イワンに会う為。世界を回ろう、そんで近づくんだ。なんなら向こうから会いに来ちまうくらい、強くなるんだ!」


 オルビアナを見るレインの視線に迷いは無かった。そして彼の拳に己の拳を合わせるオルビアナの心にもまた、一切の迷いは無いのであった。


「うん! これからもよろしく、レイン!」


 その眼は何処いずこの兄を見据え――かくしてオルビアナは『レインの相棒として』のみならず『兄を捜すため』という己の目的も持ち合わせ、改めて旅立ちの日への秒読みを始めたのであった。

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