第4話「結集」

「――……ン! ……イン!!」


「――ん……」


「レイン! よかった、やっと目が覚めたんだね……」


「オルビアナ……――ここは?!?!」


「わ! だ、大丈夫、寮に帰ってきたんだよ!」


「あ……そうか、悪いな」


 強制的に内に秘めた大悪魔ハットベルの力を引き出され、騎士団長ドロスに収められてから早数刻。時刻は既に夜の9時。


(また暴走しちまったのか……くそ!)


「レイン、体は大丈夫そう?」


「ああ、何ともねえ」


「そっか、良かった! レインが起きたら食堂に来てって団長が言ってたよ。夜ご飯、食べに行こう」


「……オルビアナ、食べてないのか」


「ははは、気がついたらこんな時間だったよ」


「……悪い、ありがとうな」


 食堂へ向かう2人。夕食の時間はとうに過ぎていたが、団長直々の頼みで二人分の食事を確保して貰っていた。


「……あ」


 他に誰もいないかと思われた食堂では、団長ドロスと副団長マルカトロスが待っていた。


「ドロスにマルカトロス……悪かったな、また暴れちまって。ドロスが止めてくれたって聞いた、ごめん」


 それを聞いて最初に口を開いたのは、相変わらず冷淡な態度をとる副団長マルカトロスであった。


「驕るな。貴様如きではこの男に傷一つ付けられん」


「そっか……でも、それで良かった!」


「ドロス団長はね、〈刀達天とうたつてん〉って呼ばれていて、世界でも指折りの剣術使なんだよ!」


「現 “ 四天王 ” の〈剣王〉や〈狩王しゅおう〉、そして元 “ 四天王 ” の〈剣神〉も認める実力者なんだこの男は。貴様が最強の悪魔や破壊の天使だったとして、かすり傷ひとつ付けられん」


「二人共、褒めすぎだ……そうだな、今はまだ私でも容易に抑えられる。だがレイン君は強くなる。それに比例してハットベルの覚醒もより深くなっていく……いずれ私でも歯が立たなくなるだろう、それまでに君は天術を使いこなし、ハットベルの力を乗りこなす必要がある」


「天術は解るけど……ハットベルも?」


「ハットベルの力を上手く解放出来れば、強大な魔力と回復力が得られるだろう。今はまだ大きすぎるハンデだが、いずれそれは強力なアドバンテージになる。最も、悪魔を憑けた天術使というのは歴史上類を見ないんだ。本来共存不可能だからね」


「どういう事だ?」


「本来、天術使はその有り余る “ 天性 ” 故に悪魔を宿そうとしても消滅させてしまうんだ。反対にハットベルくらい強大な “ 魔性 ” なら、天術を消滅させかねないと思ったのだが……どういう訳か、君は上手いこと共存させている」


「……『 “ 天使 ” と “ 悪魔 ” 』――」


 レインはかつて仇敵アリアが自身に向かって放った言葉を思い出していた。



***



~翠歴1424年6月30日~



 暴走の翌日。レインとオルビアナは情報収集をするべく、市場を抜け王都唯一のギルド『ベルクサンドリア・ギルド』へとやって来た。


犯人野郎の手がかりは必要だけどよ、ギルドの情報なんて出尽くしてるんじゃねえのか?」


「ギルドでは日々新しい情報が行き交うからね。それに、必ずしも向こうから僕たちに情報提供してくれるとも限らないし。ある程度交渉するつもりでこっちから出向く価値はあると思うよ」


「そっか、オルビアナが言うならそうだな!」


 レインがギルドの扉を開くと、木造の大広間は大勢の術使達で賑わっていた。


「「ようこそ、ベルクサンドリア・ギルドへ!!」」


 声のした高さまで視線を落とすと、メイド服を着た双子の姉妹が出迎えてくれていた。


「やあシノちゃん、チノちゃん。久しぶり」


「オルビアナ様! お久しぶりです!」


「そちらの方は?」


「紹介するね、新しく騎士団に入ってくれたレインだよ!」


「そうなのですね!! 私はシノ、こっちは妹のチノ!! 二人合わせてベルクサンドリア・シスターズ! よろしくお願いします!!」


「お願いします!」


「……シノって言ったな。具合悪いか?」


「え?!」


 その直感は顔見知りのオルビアナや妹のチノですら思いがけなかったもの。レイン本人でさえ顔色や声色で判断した訳では無い。彼の魔力を感じとる第六感、 “ 秘覚 ” が。ただ何となく、レインに訴えていたのだ。


「! い、いえ、初めましての人の前で少し緊張してしまって、えへへ……」


「ん〜、そうか……?」


「は、はい! と、ところでレイン様はギルダー登録はお済みですか?」


「ギルダー登録?」


「はい! ギルドで活動する人達の事を『ギルダー』と呼びます。ギルダーには等級があって、まず “ Nクラス ” から始まって “ C ” 、 “ B ” 、 “ A ” 、 “ S ” 、 “ X ” 、 “ Z ” ……と、成果によって上がっていくのです!」


「 “ A級 ” 以上になると国外の依頼も受けられるようになりますよ。名前が広まれば、外国からの “ 指名 ” もあるかも……!」


「へぇ〜、オルビアナは何級なんだ?」


「僕は “ B級 ” だよ」


「一般的に “ B級 ” で1人前と言われているので、十分誇れるレベルですよ!」


「はは、ありがとうね」


「やっぱりすげぇんだなオルビアナ! ……よし、とりあえず、今後も使うことになるだろうしな。その登録ってやつだけしておくか!」


 酒を呑む者、肉を食らう者、肩を組んで歌う男達や互いの胸ぐらを掴んで喧嘩する者達まで……多くのギルダー達でごった返す広間を進みカウンターへ。


「え〜っと、氏名氏名……なあオルビアナ、ここってロズハーツでいいのかな」


「良いと思うよ。あ、それと――」


 オルビアナはレインにしか聞こえないよう、耳打ちする。


(「天術使って事はとりあえず隠せって団長が」)


(「その方が良いな、よしわかった」)


 その様子を不思議に思ったベルクサンドリア・シスターズ。


「どうかされましたか?」


「いや! 何でも! えーここは〜……」


 和気あいあいと新米ギルダー登録を済ませるレイン一行、それを見つめる視線がひとつ――。


「―― “ 王国騎士団 ” ……!」



***



「――はい! 新規ギルダー登録受理致しました!  “ A級 ” 以降は運営本部である “ 魔法協会 ” の承認が必要になりますが、 “ B級 ” まではギルドの預かりになるので今すぐにでも依頼を受けられますよ!」


「よ〜し、早速怪しそうな依頼を探すぞ!」


 レインとオルビアナは数多の依頼が張り出された掲示板の前へ。


「『火竜討伐』、『水源調査』、『森林探検』……」


「その辺は “ A級 ” のクエストだね。僕達が受けられるのはこの辺だよ。『飼い獣の捜索』、『祭りの警備』……」


 張り紙を見回る二人、そしてそこに近づく影がひとつ――。


「ねえ、あなたたち “ 王国騎士団 ” でしょ?」


 振り返ると二人と同い年くらいの少女が立っていた。身長よりも大きな杖を持った銀髪の術使――。


「そうだけど……誰だ?」


「ソフィア・パーカライズ。 “ 門術使もんじゅつし ” よ。ねえ、私 “ C級 ” なのよ。だから報酬の安い仕事しか受けられなくてさ……話聞いてたんだけど、そっちの金髪の子は “ B級 ” なんでしょ? もしよければ、一緒に仕事連れて行ってくれないかな?」


 突拍子も無い出会いに顔を見合わせるレインとオルビアナ。これが後に伝説となる三人の物語の始まりであった――。

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