奇跡の条件
「とはいっても、すぐに何でもできるわけではありません」
「だよねー」
ディー自身、女神の力が足りなくてユキヒョウの姿になってるくらいだ。なにか大きな制限があるんだろう。
「この世界は、運命の女神である私と邪神との間で、世界への影響力を奪い合ってるんですよねえ」
おもむろに女神が口を開いた。
「邪神は信徒を使って他国を侵略し影響力を得る。私は、聖女に力を与えて、民衆を導かせて影響力を得る。コレットさん、あなたが邪神の意に反して行動し、世界を変えるたびに私の影響力が強まる仕様です」
「仕様て」
神様なら、その構造自体を変えたりできないんだろうか。
「それは無理ですねえ。世界そのものの設定は、創造神様の権限なので……私がどうこうできないんですよ」
「上司の領域だから手出しできないって、なにその縦割り社会」
「神世界の理不尽、詳しく知りたいです?」
にい、と運命の女神は口を吊り上げた。
その目にさっきまでのへらへらした能天気な笑いがない。
何かよほどひどい目にあったらしい。深くつっこまないほうがよさそうだ。
「現在、コレット様は敵対国となったイースタン王国の王子に幽閉され、どこにも移動できない状態です。女神の影響力はほぼゼロと言っていいでしょう」
「とにかく邪神の思惑に反する行動をとって、少しでも影響力を上げる必要があるのね」
「その通りです」
ディーはこくんとうなずく。
「現在の彼らの目的は『コレット様を利用する』ですので、『脱出して母国サウスティ王国に帰還する』を当面の目的にしてはいかがでしょう」
「ここに閉じこもってても、いいことないもんね」
イースタンは私を交渉の材料にする気だ。
サウスティ王レイナルド兄様、王弟ジルベール兄様。
私の記憶にあるコレットの兄弟は、王族でありながらみんな情の深いひとたちだ。末っ子の妹を盾にされては、譲歩せざるを得ないだろう。
私がここに留まれば留まるほど、事態は悪化する。
「じゃあ早速脱出して……って、どうしよう」
私は監禁部屋を見回した。
窓には頑丈な鉄格子。重いドアには、やはり頑丈な鍵がかかっている。
ゲームの記憶が確かなら、建物は細長い塔のような構造だったはずだ。監禁部屋のある最上階から地上まではゆうに二十メートルはあるだろう。
非力な女の子と小さな子猫のコンビでは、とても突破できそうにない。
ゲームプレイしてた時はどうやってたっけ? 見張りと交渉するとか、家具から必要な道具を作るとか、超高難易度の脱出ゲームみたいなことしてた気がするけど、細かいことは覚えてない。
それに、セーブもロードもできない一発勝負の環境で、針の穴を通すような脱出イベントをこなす自信はなかった。
「そのための奇跡ですよ」
ディーはトコトコとドアに向かって歩いていくと、前脚で軽くドアを叩いた。
かちん、と小さな音が響く。
「鍵を開けました。外に出ましょう」
「ええええ……大したことはできないんじゃなかったの」
一瞬で外に出られるようになったのは、結構な奇跡だと思うんだけど。
「だから、大したことはしていません。鍵は細かい金属部品で構成されているでしょう? それらを少しだけ動かして、開いた状態に変えたのです」
子猫の口調はおちついているけど、胸をそらす姿は完全にドヤ顔だった。
私はその丸い頭をなでくり回したい衝動を必死におさえる。
我慢しろ私、このタイプのキャラにそれやったら、絶対キレられる。
「ちなみに、同じドアを開けるための奇跡でも、爆破したり、錠前を切り落としたりするには、何十倍もの力が必要になります。女神の影響力が小さいうちは、消費される力が最小になるよう、手段を厳選することをお勧めします」
「非現実なことをしようとすればするほど、女神の力が必要になるのね」
やってることは奇跡なのに、システムが妙に理屈っぽい。
「ちなみに、今どれくらい力が残ってるかって教えてもらえるものなの?」
「私は数値として把握していますが……少し、説明が難しそうですね」
残存戦力が直感的にわからないのは、なんだか落ち着かない。
それを聞いて、女神がぱっと顔をあげた。
「だったら、アイテム作りましょう! HPゲージみたいに、力の残量が色とか大きさで確認できるアクセサリー!」
しかし、子ユキヒョウはじろりと女神を睨み返す。
「何もないところから特殊アイテムを出現させるのに、どれだけの力が必要だと思っているんですか。そんなことより、コレット様の身の安全の確保が先です」
「あっ!」
女神、そういうとこやぞ。
「最初のうちは、私のほうで実行可能な手段を提案いたします。コレット様はその中から、ご自分のお好みにあった奇跡をお選びください」
「サポートモードだね……お願い」
そしてこのユキヒョウの有能ぶりである。
サポートキャラがいてくれて助かった。女神と私のふたりだけじゃ、絶対生き残れない自信がある。
「まずは、部屋の外に出てみようか」
廊下に人の気配はない。
そっとドアをあけて、外をうかがっていると……。
「ねえ、ここから出して!」
下から子供の声が響いてきた。
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