第6話

「……ねえ、あんた。このままでは家族四人、共倒れですよ」


夏香はステージの下から、あの台本の一言目を発した。


本番では夏香ではなく、他の女の子が演じていた。


「……そうだろうなあ。でも、仕方がない」


紬はステージから降りずに、セリフだけを言い返す。


「ねえ、ここは思いきって、子供を手放してみてはどう?子供たちの運命は、天の神様に任せてさ」


「なんだって?」


「しーっ。子供たちが起きるよ」


「だってさ、このままこうしていても、どうせみんな飢え死にするに決まっているでしょう」


「森かどこかに、置いていくと言うのか」


「仕方がないでしょう」


これは童話「ヘンゼルとグレーテル」の劇の台本だ。


「……ヘンゼル、みてみて。この家、お菓子でできているよ。」


急にセリフが飛んだからか、夏香は覚えているセリフから始めようとした。


紬は少し目を見開いたあと、すぐに応じる。


「本当だ」


紬はあの劇では父親役だったので、覚えている限り、ヘンゼルになりきろうとした。

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