第3話

「なあ、終わった?」


あれから三十分、紬は夏香に向かってそう投げかける。首を振って否定してやると、紬は時計を眺め始めた。


「なに、まだ時計よめないの?あれから三十分だよ」


「そんなことは分かってんだよ。ただ、たださ。これって本当にやんなきゃかな」


「何言ってんの今更。みんなやってるんだから、やらなきゃ」


紬は顎に手を当て、考えるような素振りをする。


「ほら早く。時間、無くなるよ」


夏香がまた算数ドリルの問題を解き始めると、椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。


「それだよ、それ!」


夏香を指さして、とても楽しそうな顔をした。


「なに、うるさい」


夏香はずっと、ドリルから目を離さない。


「時間が無いんだから、ランファンに使わなきゃ」


とうとう夏香の鉛筆を奪って、必死に訴えかけた。


「……そうだけど、でも」


「小学五年生が終わるまでにやりたいこと、やろうぜ。今だけだよ」


紬は夏香の手を引っ張り、廊下を走った。

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