第26話
これだけ言えばわかっただろうと、ハリィメルは振り返らずに辻馬車の乗り場を目指して歩く。
ところが、馬車乗り場が見えてきたところで、後ろから走ってきたロージスにぐいと肩を抱かれて、ハリィメルは驚いて鞄を取り落としそうになった。
「やっぱり心配だ。家まで送ろう」
「えっ……」
真剣な声音で言われて、ハリィメルは目を丸くした。ロージスはそのままハリィメルの隣を歩こうとする。ハリィメルは慌てて止めた。
「公爵家の馬車を待たせているのでは!?」
「ああ。事情は説明してきたから大丈夫だ」
事情ってなんだ。クラスメイトのガリ勉が辻馬車を使っていて気の毒だから、とでも言ったのか。
(いい加減、しつこいな)
ここまでして自分を笑い者にしたいのかと憤りを感じたものの、ふと見上げたロージスの顔つきが思いのほか真剣で、ハリィメルは言葉が出てこなかった。
乗り場で待つ間も、辻馬車に乗り込む時も、ロージスは無言だった。ハリィメルもなにを言えばいいかわからず、よくわからない気まずさを抱えて帰路をたどる羽目になった。
(こんなことまでしなくても……)
ハリィメルの勉強の邪魔をして一位の座を奪いたいという目的だけで、こんなに手間暇をかけてどうするのだろう。
仮に、一度でも一位をとれば満足なのだろうか。それとも、ハリィメルがずっと勉強に手がつかないように卒業まで嘘の関係を続けるつもりなのか。
そんな関係を続けたって、手に入るのはハリィメルからの侮蔑か――まかり間違ってハリィメルがロージスに惚れてしまったとしても好意だけだ。そんなもの、モテモテの公爵令息にはゴミより価値がないに違いない。
どう考えても、労力と対価が見合っていないだろうに、とハリィメルは小さく溜め息を漏らした。
結局、ロージスは家の手前まで送ってくれて、自分は元きた道を戻っていった。
まさか、歩いて学園まで戻るのだろうか、と心配になったが、「勝手についてきたのは向こうだ」と首を左右に振って自分に言い聞かせた。
いつもは駆け足で通る道をロージスとともに歩いたせいか、知っている道じゃないみたいに感じる。
ハリィメルは落ち着かない気分で家の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます