第21話





 有無を言わさぬ成績をとって、卒業後に教員採用試験を受けて家を出て自立する。

 そのために、入学からずっと一位を維持してきたのだ。


(それなのに……)


 勝手に見合いの日取りを決めてしまった母と姉に、ハリィメルは怒りが収まらなかった。


(どうして、私の邪魔ばかりするのよ。どいつもこいつも)


 ハリィメルは自分の周りがみんな敵のような気がして唇を噛んだ。

 ハリィメルがいい成績をとっても誰も喜ばない。味方がいなくとも、自分自身の将来のために、ハリィメルは戦い続けなくてはならない。


 絶対に、母の言うとおりにはならない。一番のまま、卒業してみせる。


 ハリィメルは周囲の思惑に負けないように、より硬い殻を被って自分の心を守らねばならなかった。


 ***


 赤く腫れた頬をダイアンとティオーナに見られたロージスは、ふたりから「馬鹿」「駄目男」とさんざんに罵られた。


「そんなやらしい真似をするから叩かれるのよ!」


 背後から抱きしめたくだりでティオーナの容赦ない突っ込みが入れられた。


「いい? 女の子は好きでもない男に触れられたら、汚れ物を投げつけられたような気分になるのよ!」

「汚れ物……」


 ロージスは青ざめた顔で謝罪するハリィメルを思い出して愕然とした。


 じゃあ、今までちょこちょこ手や肩に触れていたのはまったくの逆効果だったのか。

 どきどきさせていると思っていたのに、実際には気味悪がられていたのか、いっそ変態だと思われていたのかもしれない。


 女はみんな自分に触れられたら頬を赤く染めるはずだという思い込みで行動した結果、赤くなったのはハリィメルではなくロージスの顔だ。


「……女に叩かれたのは初めてだ」


 頬を押さえて、ロージスはぽつりと呟いた。

 学校内とはいえ、男爵令嬢が公爵令息を叩くなどあり得べからざることだ。ロージスが訴えたら、ハリィメルには重い処分が下されるかもしれない。


「レミントン嬢を学校から追い出したら、お前が一番だな」


 ロージスの心中を読んだかのように、ダイアンがそう言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る