第22話



「なにを言っている」


 ロージスは眉をひそめた。


「だって、レミントン嬢が邪魔なんだろう?」

「俺は、別にそんなこと……」


 確かに、ハリィメルがいなくなればロージスが首席になるが、そのために彼女を学校から追い出すような真似をするつもりはない。


(俺は、ただ……)


 テスト結果が張り出されるたびに、自分の上に君臨する名前にぎりぎりと悔しい想いをさせられた。次は勝ってやる。次こそは勝ってみせる。そう心に決めても、結果はいつも同じ。一位はハリィメル・レミントン。

 ロージスが必死に「ハリィメル・レミントン」を越えようとあがいているというのに、当の本人は常に淡々と勉学に励んでいて、ロージスのことなど意識もしていない様子だった。


 他の女子と違って、ハリィメルはロージスの顔にも家柄にも興味がないのか、クラスが同じでも話しかけてくることもない。毎回十位以内に入っているという成績優秀な女子はテスト前になると「一緒に勉強しませんかぁ?」と誘いかけてくるというのに。

「成績優秀な自分ならロージスと釣り合いますよ」というアピールをしてくる女子はたまにいるが、一番優秀なハリィメルからはなんのアピールもされない。

 お前など眼中にないと言われているようで、悔しさが募った。


 交際を申し込んで、あっさりと受け入れられた時は、「勝った!」という気分になった。さしものハリィメルも「好きだ」と言われればロージスになびくのだと思った。これでハリィメルを翻弄することができる、と。

 ところが、翻弄されているのはこちらの方で、ハリィメルは相変わらず勉学一筋だ。


(好きでもない男、か)


 ハリィメルのこれまでの態度を思い返すと、腹の底に鉛の塊でもぶち込まれたかのように、体も心もずーん、と重たくなる。


(……でも、いくら好きじゃないからって、無視したり冷たくするのはひどくないか? 頑張っている俺にもう少し優しくしてくれてもいいのでは?)


 反省も自己嫌悪もしているが、生まれて初めて女子に拒絶されたモテ男の思考は若干身勝手な方向に流れる。


「……もう小細工はやめだ! こうなったら、人前で話しかけてやる!」


 ロージスは拳を握ってそう決意した。


「人目があれば、逆に無視できないだろ!」


 これまでは、人目を気にして話しかけていたから、ハリィメルに「あそこに通行人がいます」みたいな雑な理由で無視されてしまったのだ。堂々と人前で話しかければ、ハリィメルがロージスを無視することなどできないはずだ。


(明日は教室内で、みんなが見ている前で話しかけてやる!)


 ロージスは心の中でそう吠えた。


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