第20話
女は学校に行かず働くこともなく、結婚して夫に養われるのが当たり前。
確かに、数十年前まではそれが常識とされていた。
しかし、現代では女性の社会進出が認められており、男性と同じ職業に就いて活躍する女性も増えてきている。
貧しい騎士爵の家に生まれ、厳しい父親の言うことに逆らうことなく育ち男爵夫人となったハリィメルの母は、父親から受け継いだ古い価値観を持ち続けていて、女の子は勉強などせずに結婚するのが幸せと思い込んでいる。勉強のできる女の子など、男からしたら生意気で可愛くないのだから。
おっとりした性格の姉は母の言うことに従って、十六で二十も年上の裕福な弁護士に嫁いだ。
ハリィメルとは正反対の姉こそ、母の理想の娘だ。おとなしくて従順で、夫に守ってもらうのをよしとする貞淑な妻となる娘。
ハリィメルは結婚などしたくなかった。
学校に行って、いい成績を取って、将来は教師になりたかった。
ハリィメルが学校に行きたいと言うと、母は大反対した。
「女の子は勉強なんかできなくていいのよ」
「頭のいい女なんて可愛げがないわ」
母は学校なんかに行ったら婚期が遅れるとそればかり気にして、ハリィメルの夢には「女の子が男のように働く必要なんかないのよ」と見当違いな意見を曲げなかった。
父は娘達の教育については母に任せきりで、母にもハリィメルにも味方しなかった。
だが、当時はまだ一緒に住んでいた兄が「娘をふたりとも学校に入れないのはまずい。進歩的な○○夫人にも教育改革に力を入れている××伯爵にもよく思われないだろう」と口を挟んでくれたおかげで、父はハリィメルが学校に入ることを許してくれた。
けれど、父が折れても母はまだ納得しなかった。
「学校だなんて、わざわざ苦労しに行くことないわ。若いうちに結婚相手を探した方がいいのに」
「私は結婚しないで働くわ!」
いつまでも同じことをくどくどと繰り返す母にうんざりしたハリィメルはきっぱりと宣言した。
「まあ。馬鹿なことを言わないで。結婚しない女性なんて、世間からどんな目で見られると思っているの」
「仕事をして自立すれば男に頼らず生きていけるわ!」
ハリィメルと母の互いに譲る気のない言い合いを止めようと、父がこう命令した。
「ハリィメルは学年で十番以内の成績をとりなさい。結婚しないで働くというのなら、それくらいできないといかん」
そう言われたハリィメルは、学年で一番の成績をとって両親を黙らせてやると心に誓った。
母のことだから、ハリィメルが一度でも十番以内に入れなかったら、すぐに学校を辞めて結婚しなさいと命じてくるだろう。
一番をとり続けて、文句を言わせない。
それがハリィメルにできる唯一の抵抗だった。
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