第11話
「では、明日は別の店の菓子を用意する」
まだ「お詫び」を受け取らせるつもりらしいロージスに、ハリィメルはきりっと顔を引き締めた。
「いえ、結構です。お詫びをされるようなことではありませんので」
ここできっぱり断っておかなければ、また面倒なやりとりをする羽目になる。
それに、実際お詫びされるようなことじゃない。こちらはロージスが怒るのをわかっていてあの態度でいたのだから。
怒鳴られるのは覚悟の上だったし、なんなら胸ぐらつかまれるぐらいされても不思議ではなかった。
そもそも、公爵令息が男爵令嬢に多少の無礼を働いたとて、謝る必要などない。
しかし、ロージスは食い下がる。
「そうだ。好きなものを教えてくれ。ドライフルーツのクッキーとかどうだ?」
「いえ、本当に気をつかっていただかなくて結構です」
ハリィメルは会話を打ち切って無視の体勢に入ろうとした。ロージスを見ないようにノートにかじりつく。
後は無視していれば、いつものように怒っていなくなるだろう。
「俺はエッグタルトが好物なんだ。ハリィメルは好きか?」
「……」
「でも、あれは焼きたてが美味いからなあ」
「……」
「ブラウニーがいいかな。チョコは大丈夫だろ?」
今日のロージスはなかなか引き下がらなかった。
ハリィメルは苛立った。ずっと喋りかけてくるので問題を解くのに集中できない。
(さっさといなくなってよ!)
時間が過ぎていくと、心が焦り始める。
こんなことをしている暇はないのに。もっと頑張らなきゃいけないのに。
(こんな奴に邪魔されて……もしも、一位をとれなかったら)
そう考えると、指先が冷たくなってくる。
「それとも――」
「コリッド公爵令息」
ハリィメルは硬い声で言った。
「公爵令息ともあろう者が、男爵家の娘などに簡単にお詫びをしてはいけません」
ロージスがうぐ、と黙り込んだ。
「この話はこれで終わりにしましょう」
張り詰めた沈黙の後、ロージスがふうと短い息を吐いた。
「わかったよ」
低い声で言って、ロージスはようやく席を立った。
ロージスが去っていく足音を聞きながら、ハリィメルも静かに息を吐き出した。
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