第3話

一室に連れ込まれてからと言うもの、特段やることもなく時間が過ぎていった。右手の拳銃が消えることはなく、常に動きが阻害され続ける。流石に邪魔になってきた。


と言うか、時計がない。何日経過したかを覚えていられない。飯も食べていないのだが、不思議と腹は減っていないし喉も乾いていない。もしかしたらそんなに時間がたっていないかのような錯覚にまで襲われるが、少なくとも24時間は経過している。中二病としてきちんと鍛えていた体内時計がそう言っている。


発狂して銃を乱射とかしてないだけマシだと思って欲しい。てかあんだけ崇めてた対象に対する仕打ちがこれってマジ?主神なんだろ扱いをもっとなんとかしてくれよ。


「初風様。開けてもよろしいですか?」


「…遅かったな、待ちくたびれたぞ。」


花音が俺の部屋を訪れた。いやマジで待ちくたびれた。ちなみに俺は代行者ムーブも大切だと思ってるので他の人間に舐められないような言葉遣いをしてるぞ!!勿論ハッタリだ。ハッタリ以外の何者でもない。まあそれは置いておいて、適当に返事をして次の行動を促す。ガチャリと戸が開けられ久しぶりに人の姿を見る──それにしても、ランバンも花音も顔面偏差値が高いなおい。羨ましくなってきたぞけしからん。


「…?常に聖銃を展開しているのですか?」


「…逆に聞くが、格納できるのか?」


初耳ィ!全然余裕で知らなかったが?そう言うのはもっと早く教えてくれよ頼むよ。てかなにげに名前も判明したな、聖銃って言うのかこのクソ邪魔拳銃。良いね、カッコよさだけは褒めてあげよう。


「ええ、祈りを捧げれば。」


「…ふむ。『我に貸し与えられし力の一端よ、その姿を隠せ。』…消えたな。」


「消えましたね。流石です。」


いやーそれほどでも!あかんな邪教だとしても美人に褒められると気分が舞い上がってしまう。ハイってヤツだ。

んで、なんで今さらになって花音は俺んとこに訪れたんだ?スティールヤードとやらへの対処にでも時間がかかったんかね。やってくれるならこの邪教を滅ぼす勢いでガンガンやっちゃって欲しいもんなんだが。


「…本題はなんだ?」


「はい。貴方には再び学校に通っていただきます。」


正気か?頭沸いたか?いやこの邪教の時点で頭沸いてるのは八割くらい確定したようなもんなんだが。なんだ?クソ煮込みみたいな頭しかなかったの???俺をさらったときのランバンの有能ムーブはじゃあなんだったんだよ上が有能だったらワンチャン生き残れるかなとか言う俺の浅はかな考えをぶっ壊してくるんじゃないよ吹き飛ばすぞ聖銃で。


「…正気か、という顔をされていますが、ご安心下さい。我々にも考えがあります。」


「…良いだろう。述べてみろ。」


「ええ、貴方の力は強大ですが、十全に扱えているとは言い難い。そこで、学校という解りやすい場所に居てもらい、迫る刺客に対応し続ける実践形式で能力を高めていただきます。スティールヤードも仮にも治安維持のための組織、学校をまるごと破壊なんてそんな事は出来ません。複数対1の可能性もありますが、《正義》のポテンシャルならば心配は無用でしょう。万が一に備えて私も《隠者》の能力を全力で活用して貴方の援護に徹します。安全は保証されているかと。」


保証されているかと。(キリッ)じゃねーよボケナス!!!安心できる要素が1つもねぇ!!囮じゃねーか!!アホ!!バカ!!行くわけねーだろなに期待した目でこっち見てるんだ貴様ァ!

何?要は扱いに困るから一端日常に戻ってもらうよ!でも刺客が来てるから返り討ちにしてね!!ってこと?カーッ!やってらんねー!!死ぬんじゃないのこれ、てかほぼ死ぬぞ??

まあわたくしに拒否権など御座いませんのでね。ひとまずこの牢獄から出られる分マシだと思おう。


「…良いだろう。いつからだ?」


「なんと、意外です。もう少し文句があると思っていたのですが。まあ置いておくとしましょう。予定では一週間後からです。それまでに《正義》の制御を少しでも出きるようにしていただくためにも、私とランバンの二人で少しばかり強化訓練をさせていただきます。何かあれば《塔》のエレジーも参加しますが、彼女は彼女でかなり忙しいので、よっぽど空き時間でも出来なければ来ることはないでしょう。また、この期間に多少の任務を与える可能性もありますのでその辺りは覚えていてもらえると。」


さいですか。でもやだっていってもどうせ行かされるのなら従順にしておいた方がトクだろう。多分。んで戦闘訓練。これが一番目玉のイベントだろう。これのあるなしで今後が大分変わってくる、筈だ。

秘められし力とか解放されちゃったりする?ドラゴンの力とかありませんかねないですかそうですか。まあ、邪教は邪教でも信仰してるのはガチの神様っぽいから魔物系統とは縁がなさそうだよな。あったらマジで邪教なんだが。

ってか、ふと気になったんだが、スティールヤードとこの邪教の二大勢力でやりあってんのか?それとも別の組織も居るのか?…ちょいと聞いてみるか。


「了解した…。ところでなんだが、スティールヤードと俺たち以外に大アルカナとやらを保有している組織はあるのか?」


「勿論ありますよ。ですが私は詳しく知らないので、ランバン辺りに聞くと良いでしょう…ああ、それでも《夢幻ゆめまぼろし》にはお気をつけください。彼らもまた我々と同じように一柱の神を崇めている集団ですが、俗に言う一神教であるため我々を見るなり襲いかかってきます。大アルカナの《愚者》を保有しているとの噂もあります。くれぐれもご注意を。」


ほーん。やっぱりあるんだな他の組織。んで愚者か。愚者ってカッコいいよな。やっぱり0番ってのが良いわ。

それはそれとして、突然襲いかかってくる危険もあるの俺?流石に過酷すぎねぇか?


中二病に、人権とかってないんすか??


◆◆◆◆


あの後、花音に案内された食堂での飯は死ぬほど美味かった。美味すぎて馬になりそうだった。生きてるってこういうことなんやなって、はっきりわかった。

俺は美味い飯を食って生きるためにも今後も頑張って邪教の宣伝材料として生きのびてやるぜ…!!


「初風様、ランバンがお呼びです。着いてきてください。」


「…了解した。今行こう。」


カツカツとハイヒールの踵で音をならしながら歩く花音の後ろに金魚の糞のように食らいつく俺。この人歩くのクソ速いんじゃ。必死こいて着いていってるのがみっともなくなってくるくらいの速さ。俺じゃなきゃへこたれてたね。


しばらく地下通路を歩くこと五分ほど、俺の部屋より少しきらびやかな装飾の施された一室に案内される。どうやらここがランバンの部屋らしい。


「入るぞ。」


「!?初風様──」


開けた瞬間何かが飛んできて急に左側が見えなくなる──いや違うこれ顔面の左半分なくなってるわ!!痛い痛い痛い痛い痛い!!!あばばばばば誰か救急車呼んで救急車!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ──おや?そんなに痛くないぞ?

これが代行者の余裕ってヤツよね…(フッ)。何事もなかったかのように室内に再び足を踏み入れます。よお、やってくれたじゃねぇかランバンって代行者的翻訳をかけて言おうとしたら口もつぶれてて喉にも穴空いてるからカッスカスの声しかでなかったぞ!!くそったれどうしてくれんだ。

頼む神──!無敵の力でなんとかしてくださいよォ──!!


そう念じると身体の修復が始まった。マジか神お前マジか。自称神(笑)じゃなかったのかお前。信じてたぜ相棒!なんか嘘クセェ救済神話的なの以外は信用してるからな今後ともよろしく!!

んで、ランバンさんよぉ…どうケジメつけるんだテメェよぉ…。


「…不死の力…救いの弾丸…!!紛れもない。貴方こそ主神の代行者だ!!!ああ主よ。それでも我々は組織なのです。貴方をぞんざいに扱ってしまって申し訳ない…それでも、それこそ救世のため!!もう少し!耐え忍んでいただきたい…。」


うわキモ!!…ん"、失礼…気持ち悪い人だ。ビックリした。まあ褒められてるってことでオーケー?なら悪い気はしないな!ヨシ。今後も仲良くやっていこうじゃないかランバン君。


「…ランバン。例の話は?」


「おお、そうでした。初風正義──いえ、代行者様よ。貴方にはスティールヤードの補給基地を単身で叩きに行っていただきたい。」


ごめんやっぱり帰っても良いかな?

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