第4話

はい、という訳でね。

鉄道のなんらかの施設であろう場所に安っぽい仮面とUNI◯LOで買ってきた黒っぽい服で身元をごまかして潜入している訳なんですけどもね。これ襲撃の予定バレてません?あまりにも人員が多すぎる。侵入の方法がゴリ押しになりそうなんですけど、聖銃さんが所詮拳銃なせいで威力が足りないので間違いなかなんかには弾かれると思う。いや不思議パワーで貫通するのかもしれないけど。すくなくとも弓華が装備してた鎧は──うん、やめよう。見ず知らずの人間ならともかく知り合いの死に様を思い出し続けるのは精神衛生上よろしくない。


さあ切り替えて行こう。この戦い、どう切り抜けるか。幸いにもここの内部構造は書き起こされていたので頭に叩き込んできている。作戦目標は手元にある爆弾を指定された箇所に設置すること。主神の代行者の俺を遣わしてやるにはなんとも地味な作業だな?もっとカッコいいものがよかったんだが。まあ千里の道も一歩からって言うしな。しゃーなし。んで強化されてた視力で見える限り、防衛戦力は見えてるだけで武装ヘリみたいなのが二機遠くに見えてるのとあとは人がたくさん。重武装したヤツが複数に弓華の装備と瓜二つのものを装備したヤツが2人。戦力では相手さんが圧倒的に有利。ならばスニーキングだな。任せろメタル◯アで鍛えた俺のスニーキング力は伊達じゃない。パパッと終わらせてランチと洒落こもう。


◆◆◆◆


出来ちゃったよ。出来ちゃったよ!!!スニーキング力は伊達じゃないとか言ってたけどマジで伊達じゃなかったわ。スゲーな俺。なんだ、奇跡とか起こってるのか?ってレベルで上手く行ったわ。この後は煙と火薬の花が咲くのを待つだけだ。したらばさっさと離脱しますかね…。


あっ、缶蹴っちゃった。


全力でその場から逃走する後ろ見たくねー!ぜってぇなんかこっち来るよヤダー!!なぜか増幅されてる身体能力をフルに活かして離脱を──なんて行きませんね正面にもいるわチクショー!!


「侵入者発見!」


「浄化教か…?まあ良い、捕えて聞くぞ!総員、戦闘開始!!」


数は10程度か?散開し、アサルトライフルを構えてこちらを撃ってくる。

飛来する銃弾を一つ一つ眼で捉え、危険なものだけを掴んで他の銃弾に当てることで相殺し、それ以外は必要最低限の動きで避ける。授業中に何度も妄想した手法。いざできるとテンション上がるな!俺今過去一カッコいいぞ。


「『我に貸し与えられし力の一端よ。その姿を顕せ。』」


祈りを捧げ、聖銃を手のひらに融合させる。


「アルカナ持ちかよクソッタレ!」


「ソードの9とソードの10が来るまで持たせれるか──」


「やるしかねぇだろ、行くぞ!!!」


再度掃射され、飛来する銃弾を目視で捉え、聖銃で撃ち落としながら距離を詰め、一人目の首もとに手刀を叩き入れ意識を奪う。…なんか鳴っちゃいけない音がしたけどコラテラルダメージってことで許してもらいたい。


続く二人目のライフルの銃口にこちらの銃弾を正確に撃ち込み破壊し、足に2、3発撃ち込み機能を停止させる。


人間は脆いな、なんて上位者みたいな感想を抱きながら疾走し、追撃の銃弾を避けながら返礼と言わんばかりに銃弾を撃ち返す。手と足に命中。よっぽど訓練されてるわけでもなかったのですぐには動けないだろう。


直後、プロペラの嫌な音が鳴り響き、俺の周囲に大きな影が現れる。武装ヘリみたいなのが二機、俺の頭上を飛んでいた。


副座席に付いている機銃が乱射される。味方巻き込んでますけど大丈夫???使い捨てとは言え人権とかってないんですかかわいそうに。やっぱ浄化すべきだな人類──今、何を考えた?


まあ置いておくとするか。今は目先の問題に対処するのが先決。武装ヘリのプロペラを撃ち抜き、二機ともに即座に撃墜する──地面に激突し、爆発。きたねェ花火だな。地上に残っていた憐れな人類もろとも燃えたかな?まあしゃーなし切り替えて行こう。


これで一先ずは安心。追手が来る前に離脱をしますかね。

壁をぶち抜いて外へと逃げる。指定された合流ポイントへ向かう途中に信号を送り爆破を開始する。


武器庫に、燃料タンクに、車両に火が着く。そして大爆発!Fooooooooo!!綺麗な花火だな。都内でもこんなデカイ爆発は見られねぇぜ。貴重な体験をしたなあ。

うし、仕事終わり!!クソみたいな労働だな全く!!!


◆◆◆◆


「…ッ!これは…」


戦闘ヘリの飛び立つ音と共に、私たちも装備を整える。一体何があったのだというのだ?均衡維持機関に刃向かう組織などいくらでもいる。しかし補給基地を直接叩くなんて所業を初手からやってくる組織など心当たりがない。恐らくは新興の団体が相手。それなのにこの戦闘能力?とすれば大アルカナか。ソードの10では勝てない。私も大アルカナを使うしか──


「考えてる暇はないよ晶香アキカちゃん!歩兵ソルジャーの皆さんを助けに行かなきゃ。」


「そうね、そうすべきだわ。私はあっちから向かうわ。あなたは──」


直後、爆発音が鳴り響く。落とされた?戦闘ヘリが?この短時間で?となれば射撃能力に特化しているのか。もしくは別動隊が居るの?分からない。情報量が多すぎる。襲撃を仕掛けられたのもいま考えれば馬鹿げた話だ。だって、だってここは秘匿基地。知られているわけがない。もしや、もう内部に内通者が──?


「…なんて、言う時間はもう終わりみたいだね。」


ゆらり、とソードの9の姿が揺れる。ここの護衛任務に就いて早2週間、先任であったこの子に習いながらこの基地の運営をしていたが、私は、何度この子の目を見ただろうか。こんなにどす黒く濁っていただろうか?


「…ごめんね。きっと、もう、さよならなの。」


言っている意味が分からない。何が言いたいの、と問いかける前に、彼女がスイッチに手を掛ける。それは、まさか──


「『運命を司りし円環よ、その権能を我が身に──』ッ!!」


小アルカナでなく、大アルカナを起動する。直後、連鎖的に起こる爆発。勿論、私たちのいる司令塔の真下も起爆している。

特殊防壁たる魔法陣を呼び出し自分の周りを囲う。限界までリソースをつぎ込み、爆風と倒壊から身を守る。悲鳴を上げたくなるのをグッと堪えて状況の把握に努める。裏切り者はソードの9。先任の女の子。ゾッとするようなそんな事実を呑み込み、生存者が自分以外にいる可能性がほぼ失せた地獄のような場所で、なんとか通信を繋ぐために受話器に手を伸ばす。


一連の騒動は、戦闘ヘリの出撃からものの十分程度の出来事だった。

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