幸せの手

「幸せの手だね」

私は、頭を撫でて温かいそれが頭に乗るそれが欲しかった。

幼少期の一番の記憶がそれだ。公園でドーナツを母と食べる映像。

私は、その時の幸せが欲しくて未だに藻掻いているような気がする。


 と今までずっと考えていたのだが、最近はそれですらもういらないと私は手放そうと思っている。あの日の幸せの記憶が私を作っていることには間違いないのだが、今は自分の意思で誰かのためになることをしたいと思っている。

だからずっと私が欲しがっていたものはあきらめようと思う。自分のためには散々戦っているし、そのために犠牲も払ったけど、しかしそれは何度もしたとしても私の本質としての喜びには手が届かないような気がしている。


誰かを助けるにはまず自分が安定していないとどうにもこうにもいかない。

もう強がって、自分をいかにも大丈夫な人に見せたりするのはやめよう。

私は自分の弱さをようやく認めることが出来そうなのである。

ずるいとあれだけ懇願していた、あの痛みと苦しみからもう離れる準備が出来ている。


傷つくのを恐れて手を引っ込めて、欲しいものをつかめないのはもうやめたい。

私はもう得られることがないこの「幸せの手」をあきらめることが出来るが、私以外の人にはそのチャンスがあるならあきらめて欲しくないし、何なら私がその手になりたい。

あの時に感じた幸せを誰かにも与えることが出来るなら、私もそれをあげたい。


私じゃなくて誰かのために。

誰かの為と聞くと人の意思のような気がするが、そうではなく、私は私のために誰かにこの手をあげたい。

幸せの手は、きっとつなげていくことが出来る手であると思う。


「今までいっぱい頑張ってきたんだね。又休んだら出かけたら良いよ」


ずっとかけてほしかった言葉が、涙腺にたまった涙をそのまま掬ってあげられるように。ただ私は何もせず、誰かと風が流れていくのを見届けるだけのように。

誰かを非難したりする圧倒的な強さもこの世界で生きていくためにもちろん大切だが、私は人が弱くなれる強さが欲しい。

木陰でずっと休んでいられるようなそんな安心できる強さ。

日和見で人によって弾けて消えたりしないそんな強さが欲しい。

疲れた人たちが休んでいけるようなそんな弱さが出せる強さ。


今は、まだ暗中模索中で光のひとかけらも見当たらないけれども私はきっとそれができれば心から嬉しくなれるようなそんな気がする。

少しそれが見えてきている気がするのだ。海の底は光が当たらなくてもきっと前には進んでいることが分かる。

あと少しで夏休みだが、もっとパワーアップした私がこれから存在できれば良いなあと心から願っている。






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