23.やたらとハードルが上がった名前決め

 次の日起きると、やっぱりすでに訓練が始まっていた。うん、起きてすぐにその現場を見たわけじゃなかったけど、1階からレイナさんの怒りの声が。そしてガシャーンッ!! という大きな音に、エリノアさんの謝る声が聞こえて。


 そしてレイナさんはエリノアさんを怒りながら、ミルバーンのことも怒っていて。こんな水でびちゃびちゃの床、もし僕がハイハイをするようになったら、洋服はびしょびしょになるし、滑って転んで怪我をするでしょうと。


 それに対して、怪我なら魔法や薬で治せばいいし。大体怪我をさせたくないのなら、魔法でささっと掃除をすれば良いだろう、と言ったミルバーン。それでまた怒られるって言う。


 でもそんなミルバーンの文句も、前よりは嫌に聞こえなかった。夜中のミルバーン自身の独り言と、レイナさんのミルバーンの話しを聞いたからだと思う。まぁ、それでも、もう少ししっかりしてくれよ、とは思うけどな。


 俺が何とか横を見ると、夜中に置いてもらったリス魔獣のぬいぐるみが、そのまま置かれていて。俺はそのぬいぐるみに手を伸ばす。

 ミルバーンの大切なぬいぐるみ。小さい頃の物だけれど、ミルバーンにとっては、シャノンさんから貰った、大切な大切なぬいぐるみで。捨てずに今までずっと持っていた。


 そんな大切なぬいぐるみを俺に貸してくれるなんて、なるべく汚さないようにしないとな。それと壊さないようにも。古い物だから、もしかしたら生地が弱くなっているかもしれないし、糸がほつれるといけない。


 そんなことを考えながら部屋の中を見渡す。と、いつも その辺にいる蝶達とスライムの姿が見当たらない。もしかしたら俺の目が動かせない範囲にいるのかと、声を出してみる。すると数秒後、窓からみんなが凄い勢いで入って来た。


『おはようティニー!!』


『今日も良い天気だぞ!!』


『朝だけ咲くお花が、綺麗に咲いていたよ!!』


 ん? また言葉が分かった? 


『******!』


『******!!』


『******、******!』

 

 また俺の気のせい? いや、気のせいにしたって、毎日気のせいなんてことあるか? 


『起きたのね。おはようティニー。あら、なんでそんな眉間に皺が寄っているの?』


 おかしいと思った俺。考えていたら眉間に皺が寄っていたようだ。って、アイラさん、何て言う格好で、どこから入ってくるんだよ!!


 窓の方からアイラさんの声が聞こえたから、目だけでそっちを確認すれば、窓に足をかけて、グワっと窓から入って来ているアイラさんの姿が。ヒラヒラのスカートを履いているのに、大きく足を開いて入ってくるものだから、その、あれだ。スカートの中がさ……。


 俺は急いで天井を見た。今まで上アイラさんの行動から、アイラさんは歩いて移動もするけれど。ほとんど魔法で行きたい場所に、好きなように移動できるはずで。だって突然現れて突然消えるからな。

 そんな自由に移動ができるのに、何で今回は窓からなんだよ。いつもみたいにささっと移動してくれば良いじゃないか。


『この子達もあなたと出会ってから、色々な表情をするようになったけれど、あなたはそれ以上に色々な表情を見せてくれるわね。とても面白いわ。私はレイナに知らせてくるから、みんなはティニーと居てあげてね』


 アイラさんは何事もなかったように、レイナさんに俺が起きたことを伝えにいってくれた。その間みんなは俺のおでこを、よいしょよいしょと伸ばしてくれて。

 15分くらいして、レイナさんとアイラさんが俺達の部屋に。来るまでに相変わらずレイナさん怒る声は聞こえていたけど。


「ティニー、おはよう。ミルクを作ってきたわよ」


 今日も安心安全のレイナさんのミルクのようだ。良かった良かった。俺はすぐに朝ごはんのミルクを飲む。うんうん、やっぱりミルクはレイナさんだよ。ミルクで死ぬ思いなんか絶対にしないし、この完璧なミルクの与え方。レイナさんに勝てる人はいないはずだ。

 

 俺はレイナさんのおかげで、ゆっくりとミルクを堪能する事ができた。そしてミルクの後は、1階に行くのかと思いきや。どうもミルバーンの掃除のせいで、少しの間俺達には、ここにいてほしいって言われた。


 すぐにレイナさんは1階へ。残された俺達は、それじゃあどうするかと考えようとすると、アイラさんがちょうど良いって。


『さっきみんなと、朝の日差しが気持ちよくて、外でお話ししていたのだけれど。もし良かったら、みんなの名前について、あなたにお話ししたい事があるのよ。まぁ、赤ちゃんだものきっと分からないでしょうけど、話す事が大切だものね。それでね、みんなに言われたのだけれど』


 アイラさんによると、蝶達とスライム達は、名前を付けるって決まってから。ずっとそれぞれ名前を考えていたらしい。 

 だけどなかなか良い名前が思い浮かばなくて、キーとかモーとかスーとか。考えたとしても全然良くなかったと。逆に何でそんな名前が出て来たんだ? スーならまだあるかもだけど、キーとモーって。


 それで全然名前が浮かばなかったみんな。これじゃあダメだって、話し合いをしたらしい。その結果、僕と家族になるんだから、僕に名前を付けてもらおう!! って事でまとまったって。


 そして言葉が通じないから、アイラさんにその話しをしてほしいって、お願いしたんだ。それが今日の朝。みんな窓から入っていただろう? あの時にその話しをしていたらしい。


『だからあなたが言葉を理解して、私達と話せるようになったら、是非みんなの名前を考えてあげてほしいのよ。みんなあなたが付けた名前なら、絶対に素敵な名前だからって』


 え? 絶対に素敵な名前? いや、名前を付けるのは良いけど、絶対にって、変にハードルを上げないでくれよ。


『私はみんなが決めたことだから、何も言わなし。みんなの言う通りあなたなら、ー素敵な名前を考えてくれるはずよ』

 

 いや、だから……。


『さぁ、みんな』


 みんなが俺のお腹の上でぺこんと頭を下げてきた。いや、だからね。……はぁ、分かったよ。

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