22.ミルバーンという男

「まったく、素直じゃないんだから」


 今のミルバーンは、本当にいつものミルバーンかと、ちょっとあわあわしていた俺に、レイナさんの声が聞こえて。思わず目を開ければ、レイナさんが毛布を持ちながら立ち上がっていた。


「あぶぁ、ぶあぅ」


 俺が声を出せば気づいたレイナさんが、俺をすぐ見え抱き上げてくれたんだけど。俺が起きたせいで、寝ていた蝶達とスライムが転がって起きてしまった。でもみんなすぐに俺を見つけて、今度は抱かれている俺のお腹の上に乗ってくると、すぐにスヤスヤ再び寝初めて。


「こそこそ話しているつもりで、あれだけ大きな声で話していたら起きちゃいわよね」


 そう言ったレイナさん。レイナさんは途中まで寝ていたけど、ミルバーンが話しているうちに、ミルバーンの声で起きてしまったようだ。


「そうね、また寝るまで、少しお話ししましょうか。ミルバーンのことよ。あのね、ミルバーンはいつも文句を言って、あなた達とケンカをしているけれど、本当はあなた達のことが心配でしょうがないのよ」


 話しを始めたレイナさん。このレイナさんの話しによって、そしてさっきのミルバーンの様子で。俺のミルバーンを見る目が変わることになった。


 俺をゴブリンから助けてくれた後、シャノンさんと里へ戻ってから、俺は寝たまま健康診断を受けて問題がなかったから、あの目覚めた部屋に運ばれたと。


 そしてミルバーンはその間に、俺がゴブリンに襲われていた時の状況を、オーレリアスさん達に伝えて、すぐに俺について話し合いが行われた。この話し合いで、俺はエルフの里で暮らすことに。


 ただ、この話し合い、実は俺が目を覚ます、かなり前に終わっていたらしい。俺が参加したのは2日目の話し合いだった。

 1回目の話し合いが終わると、レイナさんは俺の所へ向かおうとして、その時何故か里の外へ出て行こうとしているミルバーンに気づいた。


 魔力の爆発。みんな俺が居た場所で、魔力の爆発があったって言っていただろう。それについては、別のエルフ達が調べに行くことになっていたし。他にも問題は起きていないから。

 どうして里の外へ出て行こうとしているのか、不思議に思ったレイナさんは、ミルバーンに声をかけることに。そこで返ってきた答えは。


「まだ、その辺に赤ん坊の両親が居るかもしれないから調べてくる」


 だった。もしも森に人間が入れば、気配ですぐに分かるはずなのに、今回は誰も俺の気配には気づかなかったと。だからもしかしたら見落としていて、俺の両親がまだ森にいるかもしれないから調べてくるって。


 もし両親を見つけた場合は、俺を捨てたのであれば、思い切り張り飛ばして、責任を持って俺を育てるように言い。もしあれだったら監視をしても良い。


 両親を見つけても、もし両親が魔獣により死んでいた場合は。現状にもよるが、俺を守ろうとした痕跡があれば、しっかりと弔ってやり。俺が理解できなくても、両親は大切な俺をしっかり守り、天に召されたと伝えるって。


 それを調べてくると言い、里を出て行ったミルバーン。だけど結局俺の両親の痕跡はなく。帰ってきたらミルバーンは一瞬だったけど、とても寂しうな顔をしていたと。


「ミルバーンもね、シャノンとミルバーンがまだ小さい頃に、両親があの子達を捨てて里を出て行ってしまったのよ。そのせいでシャノンは小さいのに、ミルバーンの世話を頑張ってくれて。もちろん他のみんなも手伝ったのだけど。小さかったミルバーンにはかなりショックな出来事だった」


 ミルバーンにそんな過去が……。


「だからなのかしら、大人になってから、親に捨てられた子を見つけると、必ずその子がきちんとした生活ができるまで、支えるようになったの。陰からだけどね」


 レイナさん達の知り合いに、そういう子達を集めて面倒を見てくれている人がいるらしい。擁護してるのようなものか? 

 ミルバーンは決して表立って支援はしないけれど。必ず決まった日に、子供達が何も不自由しないように、色々な物を届けているらしい。


「ミルバーンは子供にとっても優しいのよ。あまり感情を出さないし、すぐに文句を言うからそうは見えないけれどね」


 まさかミルバーンが、そんなに子供達のことを思ってくれているなんて。


「ただ、今回は。その人の所に連れて行かないで、ここで貴方を育てることになったでしょう? あの魔力の爆発についても、まだ調べ終わっていないし。それにこの子達が貴方と一緒にいたいと言ったからね。精霊を人の中へ連れていくのは、今の貴方だと色々問題があるのよ。だからここで貴方を育てることになったの。精霊に選ばれた貴方を」


 なるほど、人間と精霊の間に何かあるんだな。精霊が珍しくて、人が狙ってるとか、精霊の力を狙っているとか。まぁ、色々あるんだろう。


「ここでミルバーンには誤算だったのよね。子供は大切だけれど、まさか自分が面倒を見ることになるなんてって。何しろ今までシャノン以外とは暮らしたことがなかったんだものね。だから子供は大切でも、どうやって接したら良いか分からなくて、色々文句を言ってしまうのよ」


 あ~、なんかそんな感じするよな。こう周りを近づけさせない、みたいなオーラ出してるし。


「だけど今、ミルバーンは貴方達を受け入れて、何とか家族になろうと頑張ってくれているの。だからもう少しだけ待っていてくれないかしら。そうそう、このぬいぐるみ」

 

 レイナさんがあるぬいぐるみを俺に渡してくれた。それは他の新しいぬいぐるみと違い、少し古びれたリスのような魔獣のぬいぐるみで。


「これはミルバーンが用意したのよ。みんなのプレゼントに紛れ込ませて、見つからないようにしているけど、見る人が見ればすぐにバレるわ。これは小さいシャノンがミルバーンのために作ったぬいぐるみで。小さいミルバーンはいつもこれを持ち歩いていたのよ。とても大切なぬいぐるみなの。それを貴方たにって持ってきてくれたのよ。家族になった貴方に」


 俺はそっとぬいぐるみを抱きしめる。


「今はちょっとダメだけれど、ミルバーンが貴方を思っていることを、どうか知って置いて。と言っても、今の話しも貴方はまだ分からないわよね」


 大丈夫、しっかり伝わりました。何だよ、ミルバーン、分かりにくいんだよ。これから家族としてよろしくな!! それにこのミルバーンのぬいぐるみ。こんな大切なぬいぐるみを持ってきてくれたなんて。大切にするよ、ありがとう!!

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