21.ミルバーンの気持ち
その日も夜中に起きた俺。いつでも寝たい時に寝たいだけ寝ている俺。この時も多分たまたま起きただけだと思うんだけど。
目で周りを確認すれば、昨日と同じように、俺の胸の上で蝶達とスライムが寝ていて。そして横には椅子に座っている眠っているレイナさんの姿が。
レイナさん、もしかしてこれから俺が落ち着くまで、というかミルバーンが落ち着くまで、こうして俺のことを見てくれているのか? え、それ大丈夫なのか? ちゃんと横になって寝た方が良いよ。
俺なら少しのことくらいなら大丈夫だろうし、ほら昼寝の時なんかは、みんな俺の様子を時々見にくるくらいだろう? そんなことを昨日レイナが話していたんだよ。
次俺が昼寝をした時はエレノアさんが、俺の様子を見て来てくれって。それ次は勿論ミルバーンよって。それって交代で俺の様子を見に来てくれてたってことだろう?
見てもらっている俺が言うことじゃないかもだけど。それくらいの見守りで良いからさ。ちゃんと横になって、ふかふかのベッドで寝て方が良いよ。良いに決まってるよ。明日みんなに話して、もし俺の言うことが伝わったら、レイナさんに伝えてもらおう。
そう考えている時だった。これまた昨日と同じように、ミルバーンが毛布を持って入って来て、レイナさんに毛布をかけると俺の方へ、俺もまた昨日と同じように、寝たふりをする。
少しの間、俺の側に居た気配。その気配が離れると俺はそっと目を開ける。ミルバーンは用意してもらった俺の洋服が入っている、3段タンスがあるんだけど。その上に乗っていた、これまた俺に用意してもらった、熊のような魔獣のぬいぐるみをじっと見ていた。
洋服もぬいぐるみもおもちゃも、いっぱい用意してもらったんだよ。初日、家に来た時にも、俺には多すぎるんじゃっていうほど、色々用意してもらっていたんだけど。昨日は来客が止まらなくて。
周りの家に住んでいるエルフ達や、向こう、集会場の方に住んでいるエルフ達までもが訪ねて来て。里へようこそ、里の暮らしを楽しんでって、俺に会いに来てくれたんだ。ー
その時にみんながプレゼントを持って来てくれてさ。だから俺の部屋は入りきらなかった洋服と、ぬいぐるみとおもちゃとで大変な事に。後でタンスを増やしたり、おもちゃ箱を増やしましょうって、レイナさんが言っていた。
ちなみに今ミルバーンが見ているクマ魔獣のぬいぐるみは、レイナさんが俺にくれた物だ。そのクマ魔獣をじっと眺めていたミルバーン。
その後ぬいぐるみを手に取ると、昨日のようにミルクをあげる仕草を始め。昨日よりも長くそれは続いてた。まぁ、続いたと言っても、昨日は数分。今日は10分くらいだ。
そうしてささっと練習を終わらせると、今日は部屋を出て行かずに、何故か俺の方へ。急いで寝たふりをする俺。と、何かが俺の顔の横に置かれ、また気配が少し離れると、ガタンと音が。
チラッとバレないように目を開ける。音はイスを動かした時の音だったみたいで、レイナさんから少し離れた位置で、ミルバーンが椅子に座っていた。そして俺の方を見たまま、1人で静かに話し始めたんだ。
「はぁ、まったく、お前のせいで俺は慣れない事を強制的にやらされて、最悪の気分なんだぞ。それなのに、そんなぐっすり、何も考えていない能天気な顔をして寝ているなんて。そこの3匹もだ。お前達のせいで、俺はフラフラなのに。今も寝ずに復習をさせられていたんだぞ」
能天気な顔とは何だよ。俺の顔、この家に来てからしっかりと見たけど、自分で言うにも何だが、俺は可愛いと思う。こんなに可愛い顔の子供はそう居ないだろう。
いやさぁ、最初に鏡で見た顔が、みんなでミルバーンに文句を言っている時の顔だっただろう? の時の顔が酷かったからさぁ。普通にしていたらあんなに可愛いとは。
神様、可愛く転生させてくれてありがとう。これについても、しっかりお礼は言っておかないとな。
「はぁ、この生活が、これから毎日続くと思うと、気が重くてしょうがない」
ため息が止まらないミルバーン。いや、それについては申し訳ないと思っている。でもまさか俺も、ミルバーンや他の人達が、あれだけできないとは思っていなかったよ。
「何故俺がこんな目に」
だから申し訳なかったって。でも俺もこればかりはな。
「……お前は何故あの場所に居たんだ? あの力の爆発。あれは人間が放てるような力ではない」
そうなのか? その辺は俺にはまったく分からないからな。
「何かに襲われたのか? それとも力が爆発した場所に、たまたまお前が居たのか。お前のことについては不思議なことばかりだ。そこの精霊達が懐いたこともそうだが。しかし……」
今まで文句を言っていたミルバーンだったけど、急に雰囲気が変わった。ピリピリ、イライラからふっと力が抜けた感じに変わったんだ。そして。
「……俺たちエルフが守っている森に、普通人間は入ってこない。普通の人間では危険すぎて入れない場所だからだ。お前を襲ったあのゴブリンも、他の森のゴブリンとは違う。俺達にとってみれば、その辺の小さな力を持たない草食魔獣と、同じくらい弱い生き物だが。人間にとってはその辺の肉食魔獣より危険なくらいだ」
おいおい、そんなに差があるのかよ。どれだけこの森には危険が?
「それなのに、あんな場所にお前を置いていくなど、お前の親は何をやっているのか。そんなにお前の事が邪魔だったのなら、最初から産まなければ良かったんだ。今回お前は助かったが、もしかしたらお前は、とても苦しい思いをするところだったんだぞ」
ん?
「まったく、どうしてこう人間は、お前の親のように、命を大切にしない者が多いんだ。命が生まれるのは奇跡だ。その奇跡の命を何だと何だと思っている。まぁ、エルフの中にも人間達と同じような者がいない、といえば嘘になる。俺達の親のように。だが、あまりにも人間には多すぎる」
何だ? どう言う事だ? と、話しを聞き入っていた俺に、ミルバーンが立ち上がってよってきたため、また目を閉じる。そしてまさかのまさかだった。ミルバーンが俺の頭を撫でてきたんだ。
「お前も、最悪な両親の元に生まれて大変だっただろう。それは今の俺の状況よりも、もっと最悪な状況だ。そんなお前は今、運に恵まれこれからを生きようとしている。最悪だったお前が生きようとしているんだ。それよりも最悪じゃない俺が、いつまでも文句を言っているのもな」
そうして遠ざかる気配。
「しかしそうは思っていても、これからもこの生活が続くと思うとな……。はぁ、もう少し楽はできないものか」
その言葉と共に、ドアが閉まる音がした。
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