20.次の日も勿論練習、そしてエルフの加護

 次の日起きると、窓からは光が差し込んでいて。蝶達やスライムが窓の縁の所で遊んでいた。そしてレイラさんが座っていた場所にレイナさんの姿はなく、1階から色々な音と声が。


「赤ちゃんがいるのだから、掃除も気をつけて。完璧になんて私もできないけれど、なるべく綺麗な状態を保ってちょうだい」


「分かった」


 ガッシャアァァァン!!


「エリノア!! 余計なことはしないでちょうだい! 仕事が増えたらまた予定が遅れるわ!!」


 昨日と大して変わらないな。それどころか煩いが当たり前に感じてきたぞ。そんな事を思いながら欠伸をすれば、俺が起きた事に気がついたみんなが、すぐに俺の所へやってきた。スライムもジャンプで俺の籠の中へ。


 凄いジャンプ力だな。まぁ、ゴブリンを倒すくらいだからね。あの時のみんなの動き、俺見えなかったし。ジャンプなんて簡単か。


「あぶう!!」


『おはよう!!』


『もうすぐお昼だぜ』


『よく寝てたね。でも、僕もいっぱい寝たから、ティニーと同じだね』


 ん? 俺は挨拶をしてから、すぐにみんなをじっと見てしまった。それから、


「あぶあぁ、あぶう」


 今度は もうお昼前か、お腹すいたね、と言ってみた。


『******!』


『******!』


『******!』


 ああ、うん、いつも通りだ。さっきまた言葉が分かった気がしたんだけど。やっぱり俺の気のせいか? 表情や仕草でそう聞こえた感じがしただけ? う~ん、それにしてもな。


 昨日夕方起きた時みたいに、今度はもふもふの蝶が誰かを呼びに行ってくれて、来てくれたのはクランシーさんだった。そういえばオーレリアスさんがまだ用事があるって、昨日言ってたな。もしかしてもう来てて、それにクランシーさんも付いてきた感じか?


 抱かれて1階へ行けば、リビングを箒で履いているミルバーンの姿が。それをやはり箒を持ちながら、指導しているレイナさん。向こうの部屋からはエリノアさんが出てきて、レイナさんに雑巾を持ってきてと指示を出し。


 みんなにおはようと赤ちゃん言葉でいえば、レイナさんとエリノアさんが元気におはようと返してくれた。ミルバーンは一瞬俺を見たけど、すぐに箒履きを再開して。その直後レイナさんに怒られるっていう。それで一応挨拶してくれたんだけど。


「ああ」


 ああ? ああっておはようの挨拶かよ。まぁ、ああって言っただけ良い方なのか? レイナさんがミルクの用意をしてくれると。その間ミルバーンとエリノアさんは掃除を続け、俺は隣の部屋へ。


 隣の部屋にはソファーとテーブルが置いてあるんだけど、そこにオーレリアスさんが座っていた。


「おはようティニー」


「あぶう!!」


「元気のいい挨拶だな。昨日はゆっくり眠れたようで良かった。今日は皆掃除の練習だと。私も今度やるが、今日はこの後予定があるのでな。今回の練習には参加しないのだ」


 と聞いてもいないのに、色々教えてくれたオーレリアスさん。その顔は少しホッとしているようにも見えた。


「それでだが。昨日はミルクのことで、時間がいっぱいになってしまったからな。ティニーに昨日与えるはずだったものを、今日与えにきたのだ」


 与えるもの? なんだろうな? 俺はかなり色々なものを与えてもらったから、これ以上望んだら悪いだろうし、これ以上俺に与えてもらわなくても、俺は幸せだぞ?

 だって、住む場所を、俺達の養い親を、俺は与えてもらったんだ。これ以上は望みすぎだろう。


「これはエルフの里で、赤ん坊が生まれた時必ずするものなのだが。お前も人間とはいえ、我々の家族になったのだ。そのお前にこれを与えないわけにはいかないからな。なに、すぐに終わる」


 そう言って俺に近づいてきたオーレリアスさん。手のひらを俺のおでこに当てて、何かを囁く。すると俺の体が白く光った。それから最後の方は、この者にエルフの加護を、と言うと、光が静かに消えていき、最後は完全に消えた。


「よし、これで終了だ」


「あぶう?」


 俺は思わず声を出してしまった。エルフの加護? 何んだそれ。


「エルフの加護とは、オーレリアス様のように、長にしか伝わらない、とても大切な魔法だ……」


 クランシーさんによると、エルフの加護はエルフの祖先達が編み出した物で、この加護を与えられると、余程のことがない限り、色々な災いから守られる、と言われているらしい。そして健康に育つのだと。


 もちろん、『らしい』ってことだから、絶対にってことはないけれど、それでもそれなりに効果はあるらしくて。これは普通エルフの赤ちゃんが生まれた時、赤ちゃん全員に加護を与えるのだと。だから里のエルフは全員が、この加護を受けている。


 通常はエルフにしか当てられないエルフの加護。だけど俺がエルフの里で暮らすって事になって、俺もエルフの一員だって。どうも里のエルフがみんなが認めてくれたらしんだ。

 俺がここで暮らすって決まって、すぐに里のみんなに知らせてくれて。それでみんな文句も言わずに俺を認めてくれたらしくて。


 だからこの里の一員になったのなら、加護を与えようって、エルフの加護を与えてくれたんだよ。なんて良い人達ばかりなんだ!! そんな大切なエルフの加護を俺に与えてくれるなんて。


「これでお前は、元気に育つことができるだろう。まぁ、他にも色々と問題はあると思うが。それでもお前は安心してここで暮らすと良い」


 そうしてミルクを作ってくれたレイナさんと交代で、オーレリアスさんとクランシーさんは帰って行った。


 俺はその後、温かい気持ちのまま1日を過ごし、他は相変わらず煩いまま1日が終わる事にになった。台所の修復は、まだ始まっていない。あんな台所で、どうやってレイナさんはミルクを作ったのか。


 そして2日目の夜。また昨日と同じ出来事が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る