第3話仲直りしましょうとママは言う

私に良いとこないかって聞いたのに、携帯触って答えてもくれなかったよ。

私いいところないのかなあ。おばあちゃん。

涙が止まらなくて近寄ってきた。ママが電話をとっておばあちゃんびっくりしてるから、ママに代わってと言って。

私は私の部屋に戻って泣いた。


薄い壁の向こうで、ママが何か大きな声で話しているのは聞こえたけれどそれも聞きたくないので、布団をかぶって耳を塞いでいたらいつの間にか眠って朝だった。


おいしそうな匂いがする。

懐かしい匂い。

お父さんがいた頃がよく作ってくれた。甘い匂い。大好きな匂い。何年ぶりだろうか?


これ好きだったでしょ葛葉。

フレンチトースト作ったから、手洗ってらっしゃい。


湯気が立つトーストには、メープルシロップがたっぷりかかっていてパンはフォークで突っついたらふわふわしていて。すぐにでも食べたい。

だけど、何か言いたそうな顔のママ。


先に食べなさいって言うんだけど。

全然そんな顔していない。


食べ終えたら話をすると言う。ママの目の前でひと口目おいしい。

最後までおいしい。


食べ終わってホットミルクを飲んで一息ついたらママが言った。


あなたはどこがいいんじゃないの。

どこかだけがいいわけじゃないの。あなたの全部がいいの。全部が良い子なの。


私が欲しくて痛い思いをすることも選んで、選んで産んだ子なの。

本当よ。

どこもかしこも可愛くて、どこかじゃなくて全部だからうまくいつも言えないけれど。

でも言うのサボっちゃだめよね。


おばあちゃんにも怒られちゃった。

ごめんなさい。葛葉、話を聞かなかったママを許して。


うん、わかったよ。

と私が答えると、ママも自分の分のフレンチトースト、やっと口にして甘すぎたかしらと言いながら食べ始めた。


今日はこの後お出かけしましょう。

季節も夏になるからそうね、新しいワンピースでも水着でも探しに行こうかしら?

お昼はね、大好きないつものお店に行こうと思うのしばらく行ってなかったし今日行かない?


笑顔のママが私を見てくれる。

どうやら勘違いだったらしい。

よかった、私ママに嫌いって言われてたんだと思ってた。


なんで?


いて欲しいって言ってくれなかったから。あれいらない。これだめ。いつもママの正解が選べないから怒られてばっかりだしできない子なんかいらないって。毎日言われてるような気がしてた。


違うと言うママに。

初めて涙を見つけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る