第4話 渦の中
ぼくは渦の中に戻ってまたどんどん下に向かって泳いだ。
5年分ぐらいごとに渦の外に出ると(どうして5年かっていうと、それ以上は苦しくてもぐっていられなかったからだ)、そのたびに 今はないところに池があったり、校舎内のトイレがボロかったり、昇降口が一つ少なかったり、体育館がなかったりした。
何年前にいっても、やっぱりぼくには誰も気がつかないんだ。目の前であっかんべーしたって誰も怒らないしね。マンガとかだと タイムスリップしても、その時代の人と話せるのにな。実際はちがうんだなー。
下へ下へともぐっていくと、今までぐるぐる洗濯機の中みたいにまわってる渦しか前(下?)には見えなかったのに、とつぜん目の前に ぽっかり黒い穴があらわれたんだ。そのあたりでちょうど30年。ぼくはいこうかどうか迷った。ええい、ここまできたんだ!いってしまえ!
そう思ってぼくは黒い穴に手をのばした。とつぜん、渦がものすごい速さで上に向かって流れだした。せせらぎが、嵐の日の暴れ川 になったみたいな感じだ。ぼくはあっという間に渦の柱のてっぺんまでおしもどされて、ぽーんともとの日曜日の校庭に放り出されてしまった。
一瞬だったけど、穴に手を入れたとき、外の景色が見えたんだ。まだ若い男の人が一人、この謎の物体を見つめてほほえんでいた。そしておしもどされる渦の中で、 ぼくはあの人の声をきいたと思った。
――この学校の歴史をうつし、記憶する鏡となれ……
30年前、それはぼくたちの学校ができた年だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます