第4話 渦の中

 ぼくは渦の中に戻ってまたどんどん下に向かって泳いだ。

 5年分ぐらいごとに渦の外に出ると(どうして5年かっていうと、それ以上は苦しくてもぐっていられなかったからだ)、そのたびに 今はないところに池があったり、校舎内のトイレがボロかったり、昇降口が一つ少なかったり、体育館がなかったりした。

 何年前にいっても、やっぱりぼくには誰も気がつかないんだ。目の前であっかんべーしたって誰も怒らないしね。マンガとかだと タイムスリップしても、その時代の人と話せるのにな。実際はちがうんだなー。

 

 下へ下へともぐっていくと、今までぐるぐる洗濯機の中みたいにまわってる渦しか前(下?)には見えなかったのに、とつぜん目の前に ぽっかり黒い穴があらわれたんだ。そのあたりでちょうど30年。ぼくはいこうかどうか迷った。ええい、ここまできたんだ!いってしまえ!

 そう思ってぼくは黒い穴に手をのばした。とつぜん、渦がものすごい速さで上に向かって流れだした。せせらぎが、嵐の日の暴れ川 になったみたいな感じだ。ぼくはあっという間に渦の柱のてっぺんまでおしもどされて、ぽーんともとの日曜日の校庭に放り出されてしまった。

 一瞬だったけど、穴に手を入れたとき、外の景色が見えたんだ。まだ若い男の人が一人、この謎の物体を見つめてほほえんでいた。そしておしもどされる渦の中で、 ぼくはあの人の声をきいたと思った。


 ――この学校の歴史をうつし、記憶する鏡となれ……


 30年前、それはぼくたちの学校ができた年だった。

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