第6話
「真壁だ!」
「樹、真壁が逃げてった!!」
優と裕太が、口々に叫ぶ。しかし樹の目には真壁の姿は見えない。
「何言ってんだお前ら」
そんな樹にはお構い無しで彼らは続ける。
「真壁だ、追いかけようぜ」
「なんでアイツ逃げてったんだ?っていうか今どっから来たんだ?」
こんなときまで理由のわからないことを言い、からかおうとするのかと、怒りがフツフツ沸いてきた。優は行こうぜと言いながら樹の腕を掴み今にも走り出そうとしていた。しかし、樹はその手を逆に引っ張り返し、怒った調子で怒鳴る。
「訳わかんないことばっか言ってんなよ、じゃあ真壁は今まで神社でかくれんぼでもしてたのかよ!!」
そして、自分の言葉にハッとする。そうか、かくれんぼだ。
「真壁はおいとけ、箱開けるぞ」
樹の腕を掴んだままの優の手を振り解いて箱の前まで行くと、紐を解き把手に手をかける。
「何すんだ、樹!!気でも狂ったか」
「おい、やめろ」
優と裕太は止めようとしてきたが、樹は冷静に言い返す。
「ずっと暗い箱のなかで一人でかくれんぼしてんだよ、見つけて終わらせてやんなきゃ可哀想だろ」
箱の前でひざまずき、把手に手を書けた。扉を開き、優しく、楽しそうに何も無い空間に話しかける。まるで本当に楽しくかくれんぼをシているように。
「ふくちゃんかな?見ぃつけた」
そして、両手を広げて、
「かくれんぼはおしまい。さあ、お家に帰ろう」
その瞬間、樹は確かに腕の中に小さな子供の温かみと重さを感じ、優と裕太はおかっぱ頭で目がくりくりした女の子が、一瞬泣きそうな顔をした後、嬉しそうに笑いながら樹に抱きつく姿を見た。
あたりの空気が明らかに温かなものへと変わった。本殿の壁の隙間からは柔らかな日差しが何本も差し込んで、本殿の中を柔らかく照らしていた。
しばらく呆然としていた3人だったが、パラパラと天井から木くずが落ち始めたのに気づいた樹が叫ぶ。
「ここから出ろ、崩れるぞ」
3人は大慌てで本殿から出た。そのタイミングを待っていたかのように、本殿は崩れ落ちた。
その翌日、真壁は汽水域の岸辺に倒れているのが見つかった。
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