第6話
拝殿に戻ろうと本殿を出て、そしてそこで違和感に気づいた。
「橋が……」
本殿と拝殿をつなぐはずの橋が無くなっており、目の前には朽ち果てた、橋であっただろう残骸が残されていた。拝殿の扉を開けて出てきたはずが、拝殿側に扉はなく、壁もボロボロに壊れている。
「どういうことだ……」
何が起きたのか訳が分からなかった。確かに俺は橋を渡って本殿へ来た。古びてはいるがちゃんとした橋だったはずだ。こんな一瞬でここまでボロボロになるはずがない。俺は訳がわからず、しばらく目の前の光景を見ていた。
その時、ギィ、ギギィと後ろの方から何か扉が開くような音が聞こえてきた。その瞬間、ぞわぞわと全身に鳥肌が立ち、冷や汗が一気に噴き出てきた。
箱だ。俺は咄嗟にそう思った。本殿の真ん中に置かれていたあの箱。あの中からまさに今、何かが這い出て来ようとしている。俺は咄嗟にそう思った。
ベタ ベタ ベタ……
背後から物音が聞こえてきた。それは明らかに少しずつ近づいてきている。
箱があった場所からここまでは少し距離があった。振り返らず拝殿へ戻ってみんなと合流しよう。みんなを連れてここから逃げるんだ。なんなんだここは、こんなところ来るんじゃなかった、肝試しなんて馬鹿な事やるんじゃなかった。最悪だ。一体何が起きているんだ。
一刻も早く逃げ出したいと言う焦りとは裏腹に、俺はまるで金縛りにあったかのように指一本さえも動かすことができない。足から力が抜け、一歩も動けない。汗が一筋、背中を流れていく感覚だけやけにはっきり感じられた。
「あ……、うぅ……」
口からうめき声にもならない声が漏れる。足音らしきものはもうそこまで迫っている。布がこすれ合うような音が聞こえてきた。途端に、脳内に何者かが腕をこちらへ伸ばし今にも肩を掴もうとしているイメージが広がる。
「や、やめ……」
頬に何かが触れた。頬を何かに撫でられている。ぬるぬるした何かに撫でられているようでその感触は全身の毛が逆立つほど悍ましい。そしてそれはどうやら人の手の形をしているようだった。
箱から出てきた何か、それは明らかに生きた人間ではない、人間であるはずがない。その手が頬から顎をなぞり、首筋にかかった。そして、
「来……タ……、……テ……来た……」
「越……テ来……来タ……」
「来タ来タ来タ来タ来タ来タ来タ来タ」
急に後ろの何者かが言葉を発しながら、背中からしがみついてきた。恐怖はもう限界だった。
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