第9話
目の前にうつむいて立つ男性は、顔は見えないが間違いなく3日前に姿を消した友人だった。
「お前今までどこ行ってたんだ!?みんなで心配してたんだ。ボロボロじゃないか、とりあえず中に入れよ」
真壁は矢継ぎ早に篤宏に話しかける。しかし、篤宏は下を向いて微動だにしない。さすがにその様子を不審に思った真壁は今度は落ち着いた声音で篤宏に話しかける。
「とりあえず、中に入って休んでくれ。話はそれからだ」
「お……たから……ないんだ」
「え?」
篤宏は何かをボソボソと呟いている。真壁は聞き返す。
「わりぃ、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「……を……越え……帰れ」
真壁は不吉なものを感じながら更に聞き返す。
「篤宏、何を越えたんだ?」
「橋を越えたからもう帰れないんだ」
真壁の脳裏にあの時、橋を渡り本殿へ入っていく篤宏の姿を思い出す。
「お、お前、何言って……」
それ以上の言葉が出ない。口の中がカラカラに乾いていた。
「お前も見たあの橋な、渡ったらもう戻れないんだよ。俺渡っちまったよ。怖いよ、ここは怖いんだ真壁」
そう言うと篤宏は一歩真壁に近づいた。
「や、やめ…」
「見ただろ見えたら渡れるはずなんだ一緒にいてくれよ助けてくれよ」
聞き取り難いが篤宏は確かにそう言って、更に一歩真壁に近づく。真壁は思わず後ずさろうとしたが、篤宏は真壁の腕を強く掴み一気に顔を上げる。
「あ……」
20✕✕年8月月月◯◯日 某地方新聞
✕✕県◯◯市在住の大学生、伊能篤宏(20)君の行方がわからなくなってから今日で2週間が経った。失踪当時、警察は一緒に行動していた友人等に話を聞くとともに、伊能君が失踪した後、行方のわからなくなった真壁秀尚(20)君について、何か事情を知っているものとみてその行方を追っている。
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