破壊行進

黒園ゆうり

第一輪 神様

『なんの変哲もないあなた達の人生に花を添える。それが、我ら神の役目ですよ。さいごの花を摘むのは、それもまた、神の役目なのですが。』


 役所で手続きをしたとき、受付はこう言った。神に受付とかあるのかよ、と思うけれど、天界に来る方の案内係だそうで、あまり使われていないらしい。


「はんことかいらないの?」


「なくていい。」


そもそも天界ではんこて、どう使うの。と神は言いたげだ。


「はよせんかっ。ワシは忙しいと言っとるじゃろ!」


「あ、すみません。」


機嫌をそこねたらしい。早く済ませよう。


「契約とは、ワシとお前さんが一緒にいることで成立するのに。ワシは今すぐほうぽって遊びたいわ。寝たいわ。」


『互いの体に印を付ける』ことで互いの居場所がなんとなく分かるものと、『僕が死ねなくなる』代わりに世界を滅ぼすもの。

 そういうと、また物騒な契約だなと思う。僕もなぜこんな契約を結んだのか。数分前に振り返る。


 僕は下校中だった。特に目立つところのない生徒の、特に見るところもない下校中。

それは落ちてきた。

それというのは良くないかもしれない。

それは神だったから。

そのときは気付かなかった。だから落ちたそれに手を差し伸べた。


「大丈夫か」と。


それは手を握り、


「探したぞ。」


とひと言、ひと単語だけを放ち瞳を潤ませていた。


今からすれば全く訳のわからない状況だが、泣かれたことのない僕にはどうしたらいいのか分からなかった。


「契約じゃ!もういなくなるな。」


うるうるした瞳で言われると流石に引けない。しかも側から見れば幼女を泣かした男に見えるのだ。それは、怖い。

 幼女は泣き止み、すぐそばのコンビニで買ってきたアイスを渡したら食べてくれた。

『契約とは、神と人、魔女と人、人以外と人の組み合わせで行うもの。』幼女は告げた。


「目を出せ。」


目?


「お前さんの目に印をつける。」


え、


「痛くないのか?」


「一瞬じゃ。お前さんが抵抗しなければじゃが!」


確かに一瞬ではあった。が。


「ぐっ!」


「何を押さえておる。ワシは神じゃ。間違えることはない。それに、目を出せと言っても、抉り出すという意味ではないぞ。」


間違えることくらいはあるだろう。神だって。それに神にはとても見えない姿で、信用してよいものかわからない。


「…どう変わったんだ?」


「瞳に印をつけると言っただろう。赤くなっておるよ。」


「まじか。」


マジである。これでは厨二と馬鹿にされるだろう。してくれる人がいないけれど。


「お前は独り言がうるさいの。口に出しておらんくても、全て聞こえておるぞ。」


そんな機能付きだったなんて。頭の中を覗かれているみたいだ。


「契約の不便なとこよ。テレパシーなんか使おうとして使える物ではないというのに。お前さん、持ってるの。」


持っているのか。不運を持っているのか。


「これからどうすればいいんだ?」


疑問を投げかけても、返事はない。


「どうかしたか?」


肩を揺する。

かなり驚いた様子で顔をあわせた。


「あ、あぁ。そうじゃな、まだ教えとらんかったな。」


「大丈夫か?」


汗をかいている。さっきまでより、顔を青くして、辛そうだ。今日は特別暑い日というわけでは無いので、そこまで汗はでないはず。


「や、あっ。ごめんなさい。ひゃ、」


神様、大丈夫なのか?


「わ、わかってます。ちゃんとやります。」


流石に怪しく思えて、僕は肩を叩く。


「おい、神さ──」


「なんだ、そこにいたの?」


話途中に乱入は良くない。この人は何様だろうか。


「神様、だねぇ。」


「これでも神だよ。造る神様。わかる?」


「つまり創造神ってワケ。」


トスには分からんかぁ、と意味不明な事を叫んでいる。


「ワタシ、この世界を作った神様なの。」


笑顔で目を合わせてくる。怖い。


「気に入ってるから、あんまりベタつかないで欲しいなぁ。」


この世界を造った?この女性が?


「ねぇ、破壊神さん。」


神がいっぱい。今のところ2人だけど、自称神が2人。僕の脳を破壊しにきたのか?


「お、お前は黙っておけ!頭の中までうるさいやつじゃな!」


「すみません。」


謝って済むなら警察は要らないけれど、神様は法で裁けるのだろうか。


「お前、創造神と言ったな。核はどこじゃ。」


「え、だからそこだってば。」


「そこってどこなのか、はっきりと、あ。」


破壊神は僕を見た。ん?


「お前が核なのか?」


「言ったじゃん。ベタつかないでって。」


むすーとふくれる創造神。ため息をつく破壊神。


「や、でもでも。核は移せるはずじゃろ?それでよいではないか。」


すると驚く創造神。大きなため息をつく破壊神。


「なんで?!アナタ破壊神でしょ?!核は?!この世界は?!」


少々驚きすぎな気もするが。神様界ではあるあるな会話なのだろうか。


「別に良い。この世界を壊したくて来たわけでは無いからの。」


何回もあってたまるか、こんな会話。


「ワシはコイツと契約したからの。コイツを連れ歩きたいだけじゃ。」


「……アナタ。頑張りなさいよ。」


謎に創造神に応援されている。


「まぁ、もしかしてこの独り言もそういうこと?」


「そうならそうと早く言ってよー」と楽しげにバシバシ背中を叩く創造神。痛い。というか、これ聞こえていたのか。


「あ、ならごめんね。引き止めちゃって。受付もまだなんでしょ?」


「ん、あぁ。あ!今何時じゃ?!」


「えーと、4時ぐらい?」


「やばいぃぃ。」と頭を抱える破壊神。

破壊神は僕の手を引いた。その手は、温かかった。


「急ぐぞ!」


勢いに押され、引きずられ、天界まで飛ばされる。翼を持たない僕には翼のある神様が、どちらかというと天使に見えたのは内緒。長い空の旅を終え、足が地につく。


「聞こえとるわ。」


ゲンコツをくらう。バレたか。


 『天界』は、神様や天使などが、集まる場所らしい。

雲の上にも世界が広がっているだなんて。

ただ、あまりよく思われていなさそうだ。


「実体があるものなんか基本的にはおらんよ。」


不快よりかは興味がある感じらしい。そんなに珍しいんだな。


「ほれ、着いたぞ。」


僕らの目の前には役所の受付の様な景色が広がっている。


「何かお困り事はございませんか?」


「あぁ、ワシら2人、契約したんだが……。」


「分かりました。契約証明書ですね。」


「少々お待ちください」と女性は去った。


「こちらですね。」


「ありがとう。」


破壊神は備え付けのペンでサラサラと書いていった。僕には読めない字だった。


「良いか。ここに名前を書けば契約成立じゃ。お前の読む字でよい。」


ん、とペンを渡される。名前は書ける。そう言ってペンを滑らせる。


『◆詩ヶ淵シガフチツカサ


『◇破壊神ウナ』


契約成立。これより先、2人にはダラダラ世界旅行が待っている。

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破壊行進 黒園ゆうり @yu21ri

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