第10話 レッドキャップ
何の問題もなく三体目のゴブリンを倒した時点で、大希はレベルアップした。
(レベルアップでもらえるステータスポイントは5か……)
大希は少し迷ったが、敏捷を優先して上げることにした。
(ゴブリン相手なら攻撃力は充分だし、今は効率を上げよう……)
大希は湧出するゴブリンを片っ端から倒した。
ゴブリンという倒せば消滅するモンスターとはいえ、戦闘している時点では生物としか思えない敵を撲殺するという嫌な感覚にも、すぐに慣れてしまった。
九体目のゴブリンを倒した時点で、レベルが三に上がった。
大希は迷わずにステータスポイントを敏捷に振った。
下りてきた階段から五百メートルほど進んだ地点で、大希はゴブリンを倒し続けた。
(こんなに簡単でいいのか……?)
一撃で倒せるゴブリン。そのゴブリンがドロップするパチンコ玉の半分ほどしかない小粒な地下層宮素材は四万円の価値を持つ。
(一体倒せば四万円。こんな簡単に稼げていいのか……? これが、攻略士か……)
たった一グラムの白い地下層宮素材を見つめて、自分が稼げる存在になったんだと大希は感じた。
二十一体目のゴブリンを倒した時、レベルが四に上がった。
(初日だし、そろそろ戻ってもいいかな……咲山さんを待たせてるし……)
大希はステータスポイントを敏捷に振り、36(54)となった敏捷の数値を確認した。
(ゴブリン相手には充分すぎるスピードだよな……次にレベルアップしたら、筋力にでも振るか……)
二十一体のゴブリンを倒した証しとして、二十一個の小さな地下層宮素材がストレッチパンツのポケットに入っている。
(もう八十四万の稼ぎか……昨日までの俺とは雲泥の差、いや別次元だ……攻略士ってヤバいな……)
思わず口角を上げた大希が、ストレッチパンツのポケットをポンと軽く叩く。
油断。
それは、最悪のタイミングでの気の緩みだった。
経験したことのない稼ぎに満足していた大希は、全力でこちらに駆けてくる三人の攻略士に気付くのが遅れた。
「逃げろ! レッドだ!」
叫びながら三人の攻略士は、大希の横を駆け抜けた。
「え?」
呆気にとられた数秒が、大希を最悪の状況に叩き落とした。
大希の視界に、返り血で染め上げたように紅い帽子を被ったゴブリンがいた。
その数、六体。
(レッドキャップ……!)
大希が状況を理解した次の瞬間には、鈍色に光るダガーの切っ先が眼前に迫っていた。
(……速い!)
大希は咄嗟に身を躱した。
レッドキャップが両手に持つダガー。その切っ先が大希の頬を浅く抉った。
痛みを感じる余裕など、大希には許されていなかった。
死。
大希のすぐそばに、それは存在した。
「うおぉぉお……!」
無意識に大希は咆哮していた。
思考の停止は、そのまま死を意味する。
殺られる前に殺るしかない。
大希の加速した思考が瞬時に至った結論は、単純なものだった。
動け! 今の俺なら動けるはずだ!
殺せ! 殺される前に!
大希が戦うことを決意するまでの、ほんの数秒。
その数秒で、事態は大希を嘲笑うかのように最悪の様相を呈していた。
既に大希は六体のレッドキャップに囲まれていた。
大希の背筋に電流のような寒気が走る。
レッドキャップが獲物を見据え、舌舐めずりする。
(こんなところで死んでたまるか! 俺はやっと変われたばかりなんだ!)
大希は鬼の形相で歯を食いしばり、両手を構えてファイティングポーズをとった。
その刹那。
極限の緊張で鋭敏になった大希は、圧倒的な獣が迫ってくる気配を感じた。
他を圧倒する気配の主は、レッドキャップではなかった。
「グギャアァ!」
大希の背後で、一体のレッドキャップが断末魔の叫びを上げた。
他のレッドキャップの視線が一斉に大希の背後に注がれる。
一瞬の出来事だった。
事態を把握できない大希は、動くことはおろか呼吸すらできなかった。ただ眼前でレッドキャップが次々に倒れていく様を目に焼き付けるように凝視した。
長い黒髪のポニーテールをなびかせながら、舞うように短槍を振るう女性。
女性が動きを止めたとき、レッドキャップは全て霧散していた。
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