第4話 全てを手に入れろ

 真っ先にイナンナへ聞き返したのは、大希ではなく咲山だった。


「四つ、ですか……!?」


 咲山の声は驚きを含んでおり、その驚きに抗えず声が出てしまったように大希には聞こえた。


「そう、四つ。現れたわね」


 イナンナは咲山に答えてから、大希に視線を向けた。


「ダイキ。あなたのユニークスキルは四つよ。こう言うべきかしらね、おめでとう」

「あ、ありがとうございます……?」

「まあ、実感湧かないわよね。いいわ、ワタシが手ずから説明してあげましょう。特別にね」

「……ありがとうございます。お願いします」


 頭を下げた大希は、戸惑いながらも昂揚する自分を感じた。


「まず一つ目は、ライジング・スター。恒常的に経験値を通常の二倍獲得できる」

「二倍!? ですか?」

「そう、二倍。反則級ね。君たちの言い方だとチート。覚醒した君たちはレベルと付き合っていくことになる。その戦闘能力のベースとなるステータスを上げるためにね」

「……ゲームと同じなんですね」

「そうよ。分かりやすいでしょ? 通常の倍だもの、あっと言う間にレベルが上がる。そして、その恩恵をレベルが上がるごとに強く感じていくでしょうね」

「そうですね……」

「二つ目は、マキシマム・アタッカー。敵に与える攻撃が全てクリティカルヒットになる」

「全ての攻撃が、ですか?」

「ええ、あなたの攻撃は全て、通常の約二倍のダメージを敵へ与えるクリティカルヒットになる。その上、三つ目のバイブラント・マッスルで筋力と敏捷の値は常に五割増し」

「筋力と敏捷が……アタッカーは確定ですね」

 

 大希はイナンナの説明を理解できている自分に安堵していた。


「ゲームには触れているみたいね。説明が省けて何より。覚醒した君たちの能力は五種類のステータスで表わされる。筋力と敏捷、耐久に技量、そして魔力。シンプルでしょ?」

「はい……魔力ってことは、魔法もあるんですか?」

「君たちの感覚で魔法と呼べるものは治癒スキルだけかしらね」

「攻撃魔法は無いんですか?」

「無いわ。魔力は物理攻撃スキルや鍛冶スキルなども含めて、ほぼ全てのスキルに影響する。もちろんマジックポイントにもね」

「マジックポイントがあるってことは、ヒットポイントも?」

「そこだけはゲームと違って、ヒットポイントは無いの。生身の身体として戦うことになる。レベルを上げてステータスポイントを振り分けて成長しても、その基本だけは変わらない」

「……そうですか」

「ただ、ステータスが上がれば生身の身体能力も上がる。筋力を上げれば筋肉の量や質が上がり、敏捷を上げれば動体視力などを含めた速度への適性が上がり、耐久を上げれば傷への耐性や治癒スキルへの適応力も上がる」

「……治癒スキルがあるってことは、蘇生も可能なんですか?」

「死者を生き返らせる手段は無い。ゲームのようなシステムを構築しておいて何だけど、死が絶対であることは変わらない」


 どこまで踏み込んだ質問が許されるのかという不安を感じながらも、大希は質問してみることにした。


「……このシステム、ゲートとダンジョンを作ったのは、イナンナ様なんですか?」

「ワタシも含めた複数。それ以上のことは、今は言えない」

「……分かりました。四つ目は?」

「アダマント・フィスト。両拳、正確には両手の強度を最高位まで上げる」

「両手……拳、ですか……」

「そう。四つ目のユニークスキルが決定打かしらね。あなたのジョブは決まったようなものでしょう」

「ジョブ……?」

「剣術士、槍術士、斧術士、弓術士、盾術士、治癒術士、そして、格闘術士よ」

「俺は格闘術士ってことですね」

「ええ、他を選ぶ利点はないでしょう。武器無しでもあなたは戦えるし、急速に成長するであろうあなたに見合う武器は限られている上に現時点の地下層宮には存在しないもの」

「はい……」

「何か不満でも?」

「あ、いえ……そういう訳では」

「あなたは特別な存在になった。見合う覇気を見せなさい」

「特別な存在、ですか?」

「そう。あなたは四つのユニークスキルを持って覚醒せし者。唯一のクアッド・スキル攻略士。すでに特別な存在なの」


 何も持っていない。全てを失った。今の自分をそう思っていた大希にとって、イナンナの言葉は胸に響くものだった。


「ライジング・スター、期待の新星であるあなたも最初は生身の新人。序盤で死ぬなんて面白くない結果は見せないでね。君たちがダンジョンと呼ぶ地下層宮は死と隣り合わせであることを忘れないこと」

「はい。気を付けます」

「よろしい。では、後のことはワカナに任せるわ」


 名指しされた咲山は、イナンナに向って頭を下げてから大希に声をかけた。


「では、三代さん。行きましょう」

「はい」


 退室しようとする大希に、イナンナが声をかける。


「期待してるわよ、ダイキ。あなたが欲するもの、その全ては地下層宮にあるでしょう。地下層宮を攻略して全てを手に入れてみせなさい」


 全てを手に入れろという女神の鼓舞は、大希の中で眠っていた野心を呼び覚ました。


「はい……! 頑張ります!」


 大希の返事は微かにではあるが確かに覇気を孕んでいた。

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